突然「ピョン!」 そんなに急いでどこへ行く
行き先を絞りきれないまま、新宿から池袋までの切符を買いJR山手線に乗った。車中、ドアにもたれながら車窓に流れる景色をぼんやり眺めていると、神田川を渡る瞬間、川面が陽光を反射してキラリと光った。
目白(めじろ)駅で降り、神田川沿いを下流に向かってしばらく歩くと、ひと際目をひく二本の大銀杏(おおいちょう)と鳥居が見えてきた。その脇には胸突坂(むなつきざか)という、見るからに心臓にこたえそうな長い急坂が空に向かって延びている。
看板に記された、その名の由来を読み始めてまもなく 、看板の上に大きな猫が姿を現した。次の瞬間、あっけにとられている私の顔をかすめんばかりに路上に飛び降り、疾風(はやて)の如く走り去り、隣の屋敷の中に消えた。
何かに追われている風でもなく、なぜあれほど急いでいたのか見当もつかないが、その威勢の良さに、すっかり圧倒されてしまった。
おおた・たけしげ 写真家。1944(昭和19)年、東京生まれ。桑沢デザイン研究所卒。70年代後半から写真を撮り始め、80年代後半、バブル期の都市の荒廃を目にして以来、東京と猫をテーマに写真を撮り続けている。写真集に「東京-猫もよう」(平凡社)など。隔月刊誌「猫生活」(緑書房)に「東京町猫録」を連載中。
出典:MSN産経ニュース