
布団を並べて、横になった。
部屋の照明を落とし、スタンドライトだけがほのかに枕元を照らしている。
旅館の空気はしんと静かで、窓の外では虫の声が微かに響いていた。
「……眠れそう?」
布団の中から大野さんの声がした。
隣で柔らかな気配が布団越しに伝わってくる。
「……どうですかね。こういうとこ、ちょっと緊張しちゃって」
俺の声は少し上ずっていた。
部屋が暗いせいで、逆に緊張してしまう。
「そっか。……でも、櫻井くんとこうしてるの、不思議な感じだね」
「俺もです。まさか、大野さんとこうして並んで寝る日が来るなんて思わなかったです」
「ふふ。たしかにね。……でも、悪くないでしょ?」
その一言に、胸がきゅっとなる。
俺は顔を横に向けて、そっと彼を見た。スタンドライトに照らされた横顔。目を閉じているけれど、口元にはうっすらと微笑みが浮かんでいた。
(……ずるいな、ほんと)
「……あの、大野さん」
「ん?」
「……もし、朝起きて……帯だけになってたら」
「うん」
「俺、ちゃんと目、逸らしますんで。……全力で」
すると、大野さんがくすっと笑った。
笑い声が夜の静けさの中に優しくほどけていく。
「そっか。じゃあ、安心して寝れるね」
「え?」
「うん。櫻井くんが隣にいると、なんか安心する」
「……それ、反則ですよ」
そう呟いた俺の声は、照れ隠しで少し掠れていた。
「え? なにが?」
「なんでもないです」
「ふふ……おやすみ、櫻井くん」
「……おやすみなさい、大野さん」
スタンドライトの明かりを落とし、ふたりの間に静けさが降りた。
けれどその沈黙は、気まずさでも遠さでもなく、まるで、心音だけが静かに重なるあたたかな夜の毛布のようだった。
隣で寝息が聞こえてくる。
さっきよりも近く感じる距離。
眠れるかはまだわからないけど。
俺はこの夜のことをきっとずっと忘れない。


