
この日定時で帰宅した俺たちは、のんびりとテレビを観ながら過ごしていた。
ランは俺の足元で丸くなって寝ている。
テレビではバラエティ番組が終わり、何気なくそのまま番組が切り替わった。
ふと画面が暗転し、不穏なBGMが流れる。
今夜は秋の夜長にぴったりの心霊特集をお届けします――
(……マジかよ。)
身構える間もなく、テレビには廃墟の映像。
ノイズ混じりの音声に、カメラマンの息遣い。
「うわ、怖……!」
思わず声が漏れた。
「ん?櫻井くん、ホラー苦手?」
大野さんがのんびりした声で聞いてくる。
「いや、別に……苦手じゃないですけど……って、あ、あぁああっ!? 今の見ました!?」
画面に映った、白い影。
悲鳴が飛び出しかけた瞬間、反射的に隣の大野さんにしがみついていた。
「うわ、ちょ、無理っす……!」
「……ふふ。大丈夫だよ、ほら」
驚く俺を優しく包むように、大野さんの腕が自然と俺の背中にまわる。背中に感じる手のひらの温度に、怖さどころか変な汗が出てきた。
(なにこの状況……いや怖い、でも……近っ……)
身体が密着しているせいで、大野さんの鼓動が耳に近い。顔を上げられないまま、俺はそのまましばらく固まっていた。
「……ねえ、櫻井くん」
「……は、い?」
「可愛い」
「っっ……!」
一気に全身が熱くなる。
「……な、なんなんすか、もう……!」
完全に動揺して、立ち上がった。ランもびっくりして頭を上げる。
「ちょっと……外、コ、コンビニ行ってきます」
「え、夜に?お化け怖いのに?」
「だからこそ!夜風に当たって冷静になりたいんで!」
逃げるようにして玄関へ向かうと、後ろから大野さんがくすくす笑ってるのが聞こえた。
*
勢いで家を飛び出し、本当にコンビニまで来てしまった。ジュースとなんとなく買ったチョコを片手に、帰り道の空を見上げる。涼しい風が火照った顔を冷ましてくれるけど、心臓のドキドキは止まらなかった。
(……可愛いって、なんだよ……)
思い出すたび、じわじわと恥ずかしさがこみ上げてくる。そのとき、背後から足音がして恐る恐る振り返ると、大野さんが歩いてきていた。
「……びっくりした。追ってきたんですか?」
「んー、なんとなく。櫻井くん、迷子になるかと思って」
「子ども扱いしないでください……」
「でも可愛かったし」
「……!」
またそれだ。再び火照る顔を隠すように、俺は買ったばかりのチョコを口に放り込んだ。
「甘いの、好きだったっけ?」
「……いえ、今は口が寂しいだけです」
隣で笑う大野さんの顔を、ちらっと見上げる。
外灯に照らされた横顔は、普段の職場で見る顔よりずっと柔らかくて――
……俺、きっとこの人に、どんどん弱くなってる。
「ねえ、櫻井くん」
「はい......」
「……帰ろっか。ランも待ってるし」
「……はい」
手は触れていないけれど、さっきより、確実に近く感じた。

