
大野は一人、母校のサッカー部の部室の前に立っていた。
櫻井は約束を覚えているだろうか。
もしかしたら、もう忘れてしまっているかもしれない。
不安を抱えたまま、部室のドアを開ける。
床板を剥がし、取り出した缶の蓋を開けると、二通の手紙が静かに重なっていた。
大野は、震える手で櫻井の封筒を開いた。
「……おせぇよ」
大野の目から、涙が溢れ出した。
自分に見合う男になってほしいなんて、一度も願ったことはない。
不器用でも、迷っていても、ただ隣にいて欲しかった。
「……っ、智くん」
背後から、聞き慣れた声がした。
振り向くと、そこには息を切らし、立ち尽くす櫻井がいた。
「.....遅れて、ごめん」
櫻井は大野が手に持っている手紙を見て、情けなさそうに顔を歪めた。
「もしかして......」
「約束なんて忘れてるかと思ったよ」
「……忘れるわけないよ……けど、ごめん。俺、全然かっこよくないよね。意地張って、逃げて、結局約束の時間にも遅れて……」
「……うん、めちゃくちゃダセぇ、今の翔くん」
大野は泣き笑いの顔で、自分の手紙を櫻井に突き出した。
櫻井が受け取った大野の手紙には、子どもの頃と同じ迷いのない言葉が並んでいた。
「智くん……」
櫻井は、たまらず大野を抱きしめた。
4年間の空回りも、プライドも、大野の体温に溶けて消えていく。
「待たせてごめん……智くん、好きだよ。これからはもう、絶対離さない」
「……おかえり、翔くん。……もう、どこにも行かないでね」
夕闇が迫る部室の中で、二人の影は、4年前よりもずっと深く、境界線のない一つに重なっていた。



