監督
アレクサンダー・ペイン
ジャンル
ドラマ コメディ
出演
ポール・ジアマッティ as ポール・ハナム
ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ as メアリー・ラム
ドミニク・セッサ as アンガス・タリー
テイト・ドノヴァン
キャリー・プレストン
ジリアン・ヴィグマン
鑑賞方法
映画館(大手基幹店)
普段行きつけの映画館ではさすがに上映してなくて、そこから1キロほど離れた大手基幹店に出陣。
行きつけの映画館の歩いて行ける魅力には敵わないけど、設備面ではさすが大手の基幹店だけあって立派。
今日は義母と鑑賞しに行ったわけですが、たいそう近代的だとトイレのデザインを激賞していました(笑)
さてそんな珍しい連れ合いと鑑賞したわけですが、最初こそ「なんだかスクリーンが小さいなぁ」とか思っていたのに映画が始まるとそんなことすぐにどうでもよくなりました。
冒頭から70年代を意識したフィルムノイズが入り、一気に1970年に時間移動。
サイモン&ガーファンクルのジャケットの世界がそのまんまスクリーンの動画になったような寒くてどこか物悲しい雰囲気がいかにも当時の時代の空気として伝わってきます。
そんな中展開される劇はびっくりするぐらい日常の話。
人は銃で撃たれないし、エイリアンも襲ってきません。なんだったらラブシーンもありません。あえてひとつ事件をあげるとすれば体育館で起きた脱臼事故くらいのものです。
物語はクリスマスに向かって静かに進行し、新年を迎えて冬休みが終わるまでを優しく丁寧に描きます。
『アルプスの少女ハイジ』とか『めぞん一刻』とかに近い感じで、何でもない日常でありながら、同居する人間の心の動きを静謐に描くことで物語に観客を引き込んでいきます。
この映画を観ているとき何度か自分の顔が幸せそうな笑顔になっているのにふと気づいて、恥ずかしくて何度も真顔に引き戻しました。おそらくスクリーンの方から観客席を撮影すれば、観客がみんな幸せそうな笑顔をしている様子が撮れているでしょう。
とはいえこの映画の何に感動したのかは人によって様々だと思います。それどころか人生のどのタイミングで観るかによって同じ人間が観たとしても、感じ方や感動するシーンは異なると思います。
一緒に観に行った義母は大学で講義をしながら教会で牧師をしていた夫を若年性痴呆の入院生活の上に早くに失くしています。またこの義母の幼少期は、戦死した父に代わって再婚した義父と母が新婚生活を送るために、一年間ほど祖母に引き取られていた時期がありました。
登場人物3人が心に抱えていた重荷は義母にとっては自分自身を三つに分けた分身のように映っていたでしょう。
彼女は上映前は880円のパンフレットを観て「うわぁ、高いのに薄いしこんなのお金が勿体ない」と言っていたのに、終映後は一目散にパンフレットを買いに行っていました。
面白かったのはそのパンフレットを買う人で列ができていたこと。
みんなこの映画に魅了されてしまったのです。
私は映画は大好きなので、割とどんな映画を観ても大抵は感動して、面白いと言う性格です。
でもそれぞれその面白いには全く違う意味があって、本作は特にそれが違います。
この映画は自分の大好きな人に教えたくなる映画です。
作り手たちの作品へのこだわりとまごころがしっかり伝わってくる、幸せな気持ちとほろ苦い感情を混ぜ合わせたものすごく上質な感動を心に灯してくれる映画です。
アンガスくん役をしていたドミニク・セッサは実にいい演技をしていました。
怪演ともいうべきポール・ジアマッティとオスカーを本作で受賞したダヴァイン・ジョイ・ランドルフにはさまれてのほぼ3人で紡がれる物語にあって、堂々とした演技で、しかも繊細な青年としての佇まいも見事。
次回作がはやくも楽しみです。
この青年を撮影現場となった高校の演劇部の学生から見つけ出してくるなんてところが監督アレクサンダー・ペインの凄味でしょう。
この映画は音楽も素晴らしい。
映画を観ているとき何かの音楽が頭の中で流れることがよくあるのですが、本作ではSimon & Garfunkelの"America"とか"Old Friends"が脳内で再生されていました。
この映画見終わった後に知ったのですが本作をつくるにあたって監督が観るようにスタッフにすすめた作品の中に『卒業』があったりしたそうで、何かそういう雰囲気があふれ出しているのでしょうね。