監督 アリ・アスター
ジャンル ドラマ コメディ ミステリー スリラー
出演 ホアキン・フェニックス パティ・ルポーン エイミー・ライアン ネイサン・レイン ドゥニ・メノーシェ パーカー・ポージー マイケル・ガンドルフィーニ
鑑賞方法 映画館(大スクリーン)
A24製作のアリ・アスター監督作といえばもうそれだけで観るしかない。
しかしながら3時間のボリュームでコメディ色が強い、という噂。
そう、最近の映画にありがちなトイレ問題をおそれてしまいます。
そんな中果敢な挑戦者は映画館に相当数いました。思ったよりお客さんは入っている印象。
さて実際の映画が始まると冒頭から畳み掛けるような災難の連続に母親の訃報。中年男の冒険譚の始まりです。さて中年オッサンの勇者は無事母親の葬儀にたどり着けるのだろうか・・・というRPGのような筋立てなのに、この勇者オッサンはパンパンに詰め込まれたハプニングイベントに翻弄されて全然主体的に動けません。選択を迫られるようなシナリオ分岐イベントでも問題を先送りしがちでその結果余計に事態が悪化するバッドエンディングにまっしぐらの展開。
これは主人公がこれまですべての出来事を主体的に動かず、間違った分岐の選択をしてしまった人間が迎える末路について語るブラック・コメディ映画。
悲惨な境遇をそのままに受け止めて絶望し、改善を試みず、本当になすべきことに立ち向かわなかった男に物語は容赦なく鉄槌を下します。
この映画の評を観ると、よく監督がユダヤ人であることからユダヤ教の聖書の一節のヨブ記というある敬虔な信者にどんどん厄災がふりかかるエピソードのことになぞらえて語られています。確かに主人公にふりかかる災難の数々は教義に反することばかりで、モチーフにはなっているのでしょうけど、ヨブ記はそんな厄災は神が信仰をただためすために試しにおこなう実験で、そこに何の意味もない、という救いようのない話。人生の困難は神のいたずらのようなものでそれは逃げることもできないうえに、見返りが約束されるものでもない、という教え。
それに対してこの映画ではふりかかる災難に何の手立ても打たないがゆえに更に悪い結果になってしまうということについて自業自得であると断罪する内容。
ヨブ記の教えのままに災難をただ受け続けて耐えるのではなく、傍観者にならず賢明な選択を主体的におこなって積極的に運命に立ち向かわないのは人の道に背くことになる、ということを意図しているように感じました。
まあ、イスラエルで起こっていることとそれを米国では間違いなく一大勢力であるユダヤ系アメリカ人に気を使って傍観を決め込む米国政府を目の当たりにすると、この映画の意図する寓話は他人事ではありません。さらにこの映画に出資して製作に名を連ねるレン・ブラヴァトニックはウクライナ人。
そう、笑って終わりの映画ではないのです。
あなたはボーのことを笑っていられる存在ですか?
アリ・アスターらしい毒の効いた映画です。