イタリアのジュゼッペ・コンテ首相は、経済回復に向けた包括的なアプローチがなければ、EUの崩壊につながる危険性があると繰り返し警告してきた。しかし、直面している課題は、構造的かつ政治的であり、現在の議論にはさまざまな道筋があり、そのすべてにリスクが伴う。
4月23日の欧州理事会において、EUの首脳たちはユーロ圏の財務大臣によって起草された5400億ユーロ(5830億ドル)の経済対策に合意し、5月6日までに復興計画(リカバリー・プラン)を策定するよう欧州委員会に要請した。(並行して、欧州中央銀行 (ECB) は金融の安定性の維持に務めている。ECBは、復興基金(リカバリー・ファンド )が利用可能になるまで重要である。)
欧州経済が前例のないレベルで縮小することを考えると、EUは利用可能なあらゆる手段を用いるとともに、危機に対処するための新たな手段を考え出す必要がある。欧州の首脳たちは、 構造的欠陥を解決する柔軟性と、新たな手段を生み出すための時間が必要である。
では、今後の道筋はどうなるのだろうか。
2つの重要な復興計画案
スペイン計画
スペインは、パンデミックの被害を受けた国に対し復興資金として、1兆5000億ユーロ(1兆6200億ドル)相当の「無期限の債券」を発行するという斬新な計画を打ち出した。(似たような債券は、世界大戦の時に英米でも使われたことがある) この債券は、GDPの減少率や感染の規模などの明確な基準に基づいて加盟国へ配分されることで、EUの結束を具体化することができる。さらに、この計画は、2021年から7年間のEU予算(複数年度財務フレームワーク:Multiannual Financial Framework: MFF)と結び付けられているため、既存の負担分担協定に従った支出については、各EU加盟国がそれぞれの責任を負うことになる。しかし、融資ではなく実質的な無償資金協力を行うことは、EU全域への資金移転を懸念する一部の北方の加盟国にとって、障害となるだろう。
ベルギー計画
首脳会議に先立ってリークされた欧州委員会の復興計画案によると、約2兆ユーロ(2兆1600億ドル)のプロジェクトが予定されており、そのうち3230億ユーロ(3490億ドル)が専用の復興基金となる。計画の規模は、世界金融危機の規模に匹敵する5400億ユーロのパッケージが含まれている(ECBの推計によると、ユーロ圏のGDPは15%減少する可能性がある)。欧州委員会は、最初の2、3年間は、EUの予算をEUの国民総所得の2%(現在は1%)にする必要がある、と提案している。しかし、この提案は、より小さなEUの予算を望む加盟国と、気候変動やデジタル経済などの問題に対処するためのより大きな予算を望む加盟国との間の議論を再発させている。
両計画ともに復興基金をMFFの下に置き、ユーロ圏の19カ国だけでなく、EUの27カ国すべてに支援を拡大する。したがって、すべてのEU加盟国の承認も必要となる。フランスは、将来の投資に焦点を当てた特別目的事業として、復興基金をEU予算の外に置くことを提案しているが、現時点では、他に賛成する国はほとんどいない。
どちらの計画にも欠点がある
現在構想されている復興基金は、新たなMFFの規模、基金に付随する条件、融資と交付金の適切なバランスについて、EU加盟国が合意するかどうかにかかっている。
どのくらいの規模が必要か?
資本市場を通じて、予算が調達できない場合、EU加盟国は予算への追加拠出に合意しなければならない。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、ドイツはより多くの貢献に同意すると示唆しているが、どの程度かは不明である。オーストリアやオランダのような他の加盟国は同意しないかもしれない。
条件付きか?
民主主義の基準についての条件付けは大きな論争の種である。現在の配分方式の下で予算が増額されれば、 各国にはより多くの資金が提供されることになる。例えば、ハンガリー政府が非常事態宣言を発令した日に、ハンガリー政府はEUからコロナウイルス対策として38億ユーロを受け取った(ハンガリーでの被害はイタリアよりはるかに少なかったものの、ハンガリーへの支援金はイタリアを大幅に上回った。)ポーランドやハンガリーなどの中欧諸国は、すでにEUから民主的改革を求める圧力を受けている。
腐敗?
支出が増えれば、無駄にするリスクも高まる。 EU はすでに、汚職や非効率性によって資金配分に苦しんでいる。タックスヘイブン (租税回避地) に登録された企業へ復興資金が流れることを阻止するための奨励的な努力が行われているが、EUは欧州不正対策局(European Anti-Fraud Office)を大幅に強化する必要がある。
融資か交付金か?
融資と交付金による資金配分は、負債論争の新たな始まりになりそうだ。欧州委員会は、バランスを取るための独創的で合法的な方法を考え出す可能性がある。スペインが 「無期限の」 負債で、資金提供するという提案を受け、債券の利子だけの返済を要求するというのも独創的な方法である。フランスが提案したように、一部のユーロ圏諸国によってMFF以外で共通の債券を発行する可能性は依然として低く、そのような手段は欧州の通貨統合を弱体化させる可能性がある。
国民の不満は?
予算と復興基金をめぐる議論について、 国民の認識が最も重要な要素の一つになるだろう。イタリアでは反ヨーロッパ感情が大きく高まり、ユーロ離脱の是非を問う国民投票がポピュリズム的リーダーによって主張されるようになった。北方のEU加盟国も同様の圧力に直面しており、国民から富を南に移転しないよう求められている。両者の間でバランスを取り、国民の支持を維持することはますます困難になるだろう。
解決策はEU首脳の決意を示すだろう
10年前のユーロ危機の際に、一部のEU加盟国は緊縮財政と漸進的経済政策の実施を求め、現在の政治的・経済的影響をもたらした(例えば、ポピュリストの波と伸び悩んだ成長率)。世界的なパンデミックに対するEUの経済対策は、これまでのところより大胆かつ実質的であり、ECBの対策が最も効果を出している。EUの首脳たちがどのようにして復興計画問題を解決し、最終的に重要な決定かは、EUの将来の強さを大いに物語るだろう。