中国人民解放軍(PLA)が台湾有事を想定した軍事訓練を強化していることは、国際社会でも広く知られている。
しかし、近年報じられている中国国内の軍事訓練施設や衛星画像を詳しく見ると、より重大な問題が浮かび上がる。
それは、中国軍が単純に「台湾を攻撃する」ことだけを想定しているのではなく、台湾有事に米国が介入し、日本国内の米軍基地がその作戦基盤として使用される事態まで考慮している可能性である。
もしそうであれば、台湾有事は台湾と中国の二者間の問題ではない。それは、日本、米国を含むインド太平洋全体を巻き込む安全保障危機へ発展する可能性を持っている。
台湾総統府を再現する中国軍
中国軍は以前から、台湾の軍事施設や政府中枢を模した訓練施設を建設してきた。
内モンゴル自治区の朱日和(ジュリーホー)訓練基地などでは、台湾総統府や台北市中心部の道路、政府関連施設などを再現したとされるモックアップが確認されている。
こうした施設が単なる一般的な都市型訓練のための模型であれば、それほど珍しいものではない。
しかし、特定の建物や道路網を忠実に再現し、実際の兵士がその前で訓練している映像まで公開されているとなれば、そこには明確な意味がある。
中国軍が台湾有事において、
「台湾の政治指導部をどう無力化するか」
「台北の政府中枢をどう制圧するか」
「台湾の指揮命令系統をどう麻痺させるか」
といった具体的な作戦を研究している可能性があるということだ。
これは、台湾侵攻を想定した「リハーサル」と見ることができる。
しかし、問題は台湾だけではない
今回、特に注目されるのが、日本の横須賀海軍基地を模したとされる軍事訓練施設である。
横須賀は米海軍第7艦隊の重要な拠点であり、台湾有事が発生した場合、米軍の作戦展開において重要な役割を果たす可能性がある。
中国軍が実際に横須賀を模した施設を建設し、そこに米海軍艦艇を模した模型を配置してミサイル攻撃の訓練を行っているのであれば、これは極めて重要な意味を持つ。
なぜなら、中国軍が想定している戦争が、
「中国対台湾」
だけではなく、
「中国対台湾+米国」
へと拡大する可能性を考慮していることを示唆するからである。
米軍が台湾防衛に介入する場合、日本国内の米軍基地は、兵站、航空作戦、海軍作戦、情報・監視活動などの重要な基盤となる可能性がある。
そのため、中国軍にとって日本国内の米軍施設は、台湾そのものとは別の意味で重要な軍事的要素になる。
中国軍は「日米同盟」を一体として見ているのか
日本の防衛省は、在日米軍の存在を日米安全保障体制の中核的要素と位置づけている。
また、日米安全保障条約第6条により、米国は日本国内の施設・区域を極東における国際の平和と安全の維持のために使用することが認められている。
つまり、日本国内の米軍基地は単なる「米国の海外基地」ではない。
日本の安全保障体制と米国の軍事作戦を結びつける重要な基盤である。
中国側から見れば、台湾有事の際に米軍が介入すれば、日本国内の米軍基地が使用される可能性がある。
そのため、中国軍が台湾侵攻の作戦計画を研究する際、米軍基地を含む日本の軍事インフラを考慮することは、軍事的には不自然ではない。
もちろん、中国軍が実際にどの基地を攻撃対象として正式に指定しているのかは、公開情報だけでは断定できない。
しかし、横須賀を模した施設が実際に訓練に使用されているとの報道が事実であれば、中国軍が少なくとも「米軍の介入」というシナリオを研究している可能性は十分に考えられる。
「台湾有事は日本有事」と言われる理由
日本では近年、「台湾有事は日本有事」という言葉が頻繁に使われるようになった。
これは単なる政治的スローガンではない。
台湾は日本の南西諸島に近接しており、台湾海峡で軍事衝突が起きれば、日本の領土・領海、シーレーン、航空路に直接的な影響を及ぼす可能性がある。
さらに、台湾周辺で米中の軍事衝突が起きれば、日本国内の米軍基地が作戦拠点として使用される可能性がある。
その場合、中国側が日本国内の米軍施設を軍事的な要素として認識することは十分に予想される。
つまり、
台湾有事
↓
米国が介入
↓
在日米軍基地が作戦基盤として使用される
↓
中国が日本国内の米軍施設を軍事的に考慮する
↓
日本が直接的な安全保障上の危機に直面する
という連鎖が起こり得る。
これが、「台湾有事は日本有事」と言われる大きな理由の一つである。