MMT派ステファニー・ケルトン教授の投稿を引用したウォーレン・モスラ―のX投稿で気づいたのだが、中国で大変なことが起こっていた。

今回紹介するのは二年前の記事になるが、反緊縮ウォッチャーの私としたことが見過ごしていた。

本記事ではこの「中国のエコノミストたちが現代通貨理論にのめり込む」という記事と、それ以降の中国のMMT理解について紹介したい。

おそらく私のような経済左派であれば大変な焦燥感と嫉妬を感じるだろうし、右派・保守派であれば中国の財政拡張に伴う軍備拡大に大きな脅威を感じるだろう。
経済でも軍事でも、日本にとって中国は遠く及ばない存在になることは間違いない。

モスラ―とケルトンの投稿

 

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▼中国のエコノミストたちが現代通貨理論にのめり込む
(China’s Economists Are Getting Into Modern Monetary Theory)
2022年4月22日 ブルームバーグ
https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-04-21/modern-monetary-theory-wins-new-fans-in-china-as-growth-tumbles

北京が経済成長を促進するために財政政策に目を向けるなか、中央銀行の緩和が政府支出を確実に支えるよう、現代貨幣理論が中国を鼓舞することができると、複数の著名なエコノミストが語った。

財政部傘下のシンクタンク、中国財政科学院の劉尚熙(Liu Shangxi)院長は、中国は財政政策と金融政策は分けて考えなければならない、政府の赤字は悪いことだという伝統的な考え方から「解放」されることが急務だと指摘する。

「現代貨幣理論は少なくとも、現実の難問を解決し、過去にはタブーとされてきたことを議論するための一筋の光を照らしてくれる」と、劉氏は先週のウェビナーで語った。

この非伝統的な考え方の学派は、自国通貨で借金をする国は破産することがないため、厳しい債務制限に直面することはないと主張する。中央銀行は借金の利子を支払うためにお金を刷るべきだ、と支持者は言う。

中国が今年、Covidの蔓延で打撃を受けた成長を支えるため、財政刺激策とインフラ投資により力を入れているため、この理論が注目されている。しかし、地方政府は、主要な収入源である土地の売却が急減しているため、支出を抑制し借り入れを増やさざるを得ない財政の逼迫に直面している。

元国家外国為替管理局(State Administration of Foreign Exchange)高官のグァン・タオ(Guan Tao)氏は、先週の同ウェブセミナーで次のように述べた。
「MMTは中国にとって、財政政策と金融政策の連携を強化する上で重要な参考となる」

中国は今年、財政支出を増加させる予定であるにもかかわらず、中国は公的財政赤字目標を国内総生産の2.8%に引き下げた(2021年は3.2%)。

赤字削減は、政府は財政収支の均衡を目指すべきだという昔ながらの財政思想を反映したものだが、実際には中国はすでに機能的財政に移行しつつあり、財政支出は予想される歳入ではなく、経済の必要性に基づいて設定されている、と劉氏は言う。
ケルトン:
👆これはこの記事の中で最も重要な発言です。これは正統派からの実質的な決別を示しています債務ブレーキに拘泥し財政の表面だけをいじっているドイツやイギリス、EUなどの国々は、ゴミのように取り残されることになるでしょう。
https://twitter.com/StephanieKelton/status/1771887848486027714
財政当局はすでに今年、財政政策と金融政策の連動性を高めるよう求めている。PBOCは6000億元(約930億ドル)の利益を中央政府に移転し、経済への資金供給をブーストし、最近では投資プロジェクトを支援するために地方債を購入するよう銀行に要請した。

中国の中央銀行は銀行への短期融資の担保として国債を受け入れているが、アメリカ、ヨーロッパ、日本の中央銀行のように国債を直接購入することはない。これは量的緩和と呼ばれる手段で、政府の債務返済コストを低く抑えることができる。

中国人民大学重陽金融研究所の廖群(Liao Qun)氏は今週、必要性が生じれば、人民銀行はさらに踏み込んで「MMTが提唱する量的緩和に近い操作」を行う可能性があると書いている。

元中央銀行政策顧問の余永定氏(Yu Yongding)は、MMTは中国が見習うべきアイデアであると認め、経済成長が潜在成長率より遅い場合に中央銀行が公開市場で商業銀行から国債を購入することを提案した。そうすれば、政府の金利負担を減らすことができるという。

しかし中国政府自体はいまだはMMTを支持しておらず、アメリカのような高所得国に適しているとほのめかす当局者もいる。

中国外国為替監督管理局(SAFE)の陸磊(Lu Lei)副局長は今月北京で開かれたフォーラムで、「先進国は現代貨幣理論を中心舞台に押し上げた」としながらも、中国は独自の貨幣理論を発展させるべきだと付け加えた。
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MMTが量的金融緩和を推奨しているかのような記述には「?」となるが(ゼロ金利固定のことであれば正解)、どうだろうか?驚きの認識ではないだろうか。

翻って日本の財政当局のド緊縮の認識を考えれば、極度の焦燥感に襲われるのではないか。
同時に「中国経済もうすぐ崩壊!」などと10年言い続けているビジウヨにも目を覚ませと言いたくなるだろう。

中国はこれまでも、年数%の成長を目指し政府支出額も相応に伸ばしながら計画的に経済拡張を行ってきた。今後はさらにブーストする見込みだ。


中国の政府総支出対GDP比 (出典:IMF)

https://www.imf.org/external/datamapper/G_X_G01_GDP_PT@FM/CHN

政府関係者がMMTを唱えているだけではない。
実際に中国は財政拡張を行っている

2023年10月25日のブルームバーグ記事では、「今年の財政赤字を、GDP比3%から約3.8%に引き上げ、1兆元分(約20兆5000億円)の国債を追加発行すると決定した。習近平国家主席が経済を支援する姿勢を鮮明にしている。追加の国債発行や財政赤字拡大を決めたほか、異例の中国人民銀行(中央銀行)訪問を行った。中国が年度途中に予算を修正するのは異例」と伝える。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-24/S31C75T0G1KW01

財政赤字をGDP比3%以内に抑えるという基準はEUのマーストリヒト条約に倣ったものだが、この基準には特に根拠はない。

中国人民大学の贾根良教授(Jia Genliang )は、MMTに倣い総財政赤字比率をGDPの5%以上に引き上げるべきだと提唱しているばかりか、JGP的な案も提案している。

23年11月の記事を以下に抄訳する。
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▼中国の学者、赤字比率を5%に引き上げるよう北京に要求
(Chinese Scholar Calls On Beijing to Raise Deficit Ratio to 5%)
2023年11月19日
https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-11-18/chinese-scholar-calls-on-beijing-to-raise-deficit-ratio-to-5

中国で現代貨幣理論(MMT)推進派として知られる北京の中国人民大学の贾根良教授は、欧米諸国による貿易制裁で打撃を受けた国内経済を支えるために、財政支出を圧倒的に増やす必要があると提唱した。
同氏はまた、国民の所得と消費を押し上げるため、政府に労働者の雇用を増やし、公共支出を増やすよう提言した。

贾根良教授は、中国は今後10年間で、総財政赤字比率を国内総生産(GDP)の5%以上に引き上げるべきだと述べた。これは、政府が通常遵守している3%の水準を上回るもので、成長を支援するための異例の中間予算修正の一環として先月設定された今年の3.8%の比率よりもさらに高い。


贾根良教授の発言要旨:
中国は消費需要の不足に直面しています。その根本原因は、住民の所得が比較的低いからです。
私が提案するのは、もっと直接的で効果的な解決策です。それは、中央政府の財政支出と財政赤字比率を大幅に引き上げて住民の所得を増やすことです。そうすれば、需要不足を補い、供給過剰の問題を解決できるでしょう。

失業問題を解決し、賃金上昇を成長の原動力にする必要があります。そのためには、私が2020年に初めて提案した、中央政府が資金を提供し、地方自治体が組織する雇用保証プログラムが必要です。これは基本的に、政府が最低賃金を設定し、働く意思はあるが職を見つけられなかった失業者を雇用することを意味します。

中国はまた、デジタル経済、グリーンエネルギー、コアテクノロジーなどの分野に投資し、それらを不動産や従来のインフラに代わる新たな成長エンジンにする必要があります。また、ナノテクノロジー、新エネルギー、バイオエンジニアリングなどの分野での次の産業革命に戦略的に投資する必要があります。 
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財政拡張だけではなく、なんとJGPやGNDも提案している。
これは本当に脅威である。

中国の貿易偏重型から内需主導型への移行に関して、私が連想するのは、日米貿易摩擦を機にプラザ合意を押しつけられ、円の価値を対ドルで2倍に上げさせられ、内需拡大政策にシフトさせられた80~90年代の日本だ。その結果、日本では不動産バブルが起こり、これまたアメリカ主導の信用収縮の押しつけでバブルは崩壊させられ30年続く不況に突入した。(*リチャード・ヴェルナー「円の支配者」参照)

少し前にクルーグマンが「中国のバブル崩壊は日本のそれより悪化する」などと発していたが、私はそうは思わない。
中国には、日本のようなアメリカという宗主国がいないため、主権をもって自国経済を発展させることができる
荒療治ではあったが、中国の不動産バブルの崩壊もコントローラブル(中国政府はあえて座視した)であり、すでに不動産のような虚業ではなくITなど実産業の発展に支出先を切り替えつつある
アメリカの忠犬を続け、財政のコントロールを失っている我が国では、自主独立をしない限りどうあがいても中国に勝つことはできない。

アメリカや財務省から日本を取り戻すためには政権交代しかない。


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おまけ:
21年6月時点の中国の認識