あけましておめでとうございます!

今年も経世済民、頑張りたいですね!


そんなわけで元旦からブランシャール(元IMF主席エコノミスト、MIT教授)とクルーグマン(ノーベル経済学賞受賞)の2人のツイートがだいぶ面白かったので紹介したい。

私としては、「この二人はだいぶMMTに寄ってきたな」という印象を受けた。

以下に翻訳していく。

論点は「インフレ対策」だ。


まずはブランシャールの8連投ツイから。
 

1/8. インフレと中央銀行の政策についての議論では、しばしば忘れられがちな点がある。 インフレは基本的に、企業、労働者、納税者の間の分配の対立の結果である。 様々なプレーヤーがその結果を受け入れることを余儀なくされたときにのみ、インフレは止まるのである。

 *筆者注:ブランシャールが金融政策(主に利上げ)によるインフレ対策に疑問を呈した。 

2/8. 対立の元凶は、加熱しすぎた経済かもしれない。 労働市場では、労働者の方が、物価を考慮した上で賃金の引き上げを交渉できる立場にある。 しかし、財市場では、企業もまた、賃金が上がれば価格を上げることができる強い立場にあるだろう。 このように状況はどんどん進んでいく。

 *筆者注:上記はデマンドプル・インフレの説明。

3/8. また、対立の原因は、エネルギーなどの商品価格が高すぎることにあるのかもしれない。企業は、中間財のコスト上昇を反映させるために、賃金を考慮した上で価格を上げたいと考えるだろう。労働者は実質賃金の減少に抵抗し、賃金の引き上げを求めたい。そして、そうした対立が続く。

 *筆者注:これはコストプッシュ・インフレの説明。日本は現在このインフレ型にある。米国はコストプッシュとともに、好景気・需要増によるこのデマンドプル・インフレも起こっている

アメリカのインフレの要因分解 (コアコアCPIに相当する「エネルギー・生鮮食品除く」の寄与度は他より低い)
https://www.bls.gov/cpi/
4/8. 国家は様々な役割を果たすことができる。 財政政策によって、景気の過熱を減少、解消することができる。 エネルギーコストを補助し、実質賃金の低下と名目賃金の上昇を抑制することができる。
 *筆者注:ブランシャールが「インフレを抑えるために財政政策を講じるべきだ」とした点は特筆に値する。数年前までの主流派経済学者は「財政政策でお金を投じると余計にインフレになる」等と考えていた。よって金融政策(主に利上げ)によるインフレ対策を主張していた。
 ブランシャールの言う、財政政策によるエネルギーコストの抑制(主に資源企業に助成し価格高騰を抑えてもらう)手法は、MMT派が主張していた策でもある。
5/8. 補助金の財源は、現在の一部納税者への増税、例えば例外的な利益に対する税が考えられる。あるいは赤字支出を通じて、最終的には将来の納税者(ほとんど発言権のない...)への課税によって賄うこともできる。
 *筆者注:「赤字支出を通じた将来の納税者への課税」という言い方はMMT的ではない。特に将来世代も政府負債を徴税により負担する必要はないからだ。
6/8. しかし、全プレーヤーたちに結果を受け入れさせ、インフレを安定させることは、通常、最終的には中央銀行に任せられる。 これは経済を減速させることで、企業は賃金に見合った価格低下を受け入れ、労働者は価格に見合った賃金の低下を受け入れるように仕向けることを意味する。
 *筆者注:殆どの主流派もMMT派も「利上げは経済に悪影響を与える」ことを知っている。FRBが拙速で急激な利上げを行ったのははなはだ疑問である。明らかにパウエルら中央銀行家の失策だ。
7/8. しかしこれは、分配における対立に対処するためのあからさまに非効率的な方法である。労働者、企業、国家の間で、インフレを誘発せず、痛みを伴う減速を必要とせずに結果が得られる折り合いをつけることは可能であり、そうでなければならない
8/8. しかし、残念ながら、これには想像以上の信頼が必要であり、そうもいかない。 それでも、この考え方ではインフレの何が問題で、どうすれば最も痛みの少ない解決策を提案できるかを示している。

主流派(新古典派・ニューケインジアン右派)は、金融政策により物価も雇用もコントロールできると主張してきたが、ここにきて、主流派であるブランシャール(ニューケインジアン左派)は「金融政策無効論」的な論説を発し、「財政政策有効論」に寄ったように見える。
MMT派がずっと言ってきたことだ。

この点は筆者も過去にMMT派論客たちの記事や論文をまとめるかたちで、彼らの主張「金融政策無効/財政政策有効論」の正当性を評価した。金融政策では物価はコントロールできないということだ。
 

 【参考】 ▼ 利上げしない! MMT派のインフレ抑制方法
  https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12726392531.html

 


アメリカCPIコアコア
https://jp.tradingeconomics.com/united-states/cpi-core-core



アメリカ10年物金利
https://fred.stlouisfed.org/series/DGS10/
*上記二点の画像では、物価と金利は反比例ではなく逆に正比例に見える。MMT派が指摘するように、利上げしたら物価が下がるという主流派の論理を確認できない。金利政策に意味があるんだかわからないのだ。


他方で、ノーベル経済学賞受賞者17人の共同提言でも、財政支出こそが供給能力の強化になり、中長期のインフレ対策になると結論づけられている。

スティグリッツやシムズらノーベル経済学賞受賞者たちも「財政政策有効論」に寄っているということだ


 【参考】 ▼ ノーベル経済学者17名「バイデンの巨額予算は逆にインフレを低減させる」
  https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12715017153.html



ブランシャールの投稿に反応したクルーグマンも彼におおむね同意するようだ。

3年程まえにケルトンとケンカしていた同一人物とは思えないほど主張の接近を見せている。

 

1/8.オリヴィエの非常に良い指摘ですが、リプライ欄を見ると、多くの人が彼の発言を理解していないことがよくわかります。古い例えを使えば、分かりやすいかもしれません。
2/8. これは70年代のマーティン・ベイリーによるものだったはずですが、とにかく、インフレを考える一つの方法は、スポーツの試合をよりよく観ようと観客みんなが立ち上がるようなもので、これは集団にとって自滅的です。
3/8. 不況を誘導してインフレをコントロールするやり方は、みんなが座り直すまでフィールド上の試合を止めるようなものです。それは機能はするけど、犠牲を伴います
4/8. 試合を止めずに、全員に座るように合意が得られれば、もっといいでしょう。それは難しいけど、不可能というわけではないのです。
5/8. イスラエルで起きた1985年のブルーノのディスインフレ(インフレ抑制)は、ほとんど痛みを伴わないものでした。
すべての主要プレイヤーが、蛙飛びで互いに飛び越そうとするのをやめることに同意し、インフレはすぐに低下したのです。
6/8, ちなみに(真偽は微妙だが)、自然利子率の仮説をフリードマンと同じ時期に導入した1968年のフェルプス論文は、フリードマンの論文よりはるかに優れていると思いますが、ほぼそのように機能していました。
 *筆者注:MMT派は「自然利子率」の概念を否定している。自然利子率の仮説は、商品の需給が一致し、効率的な資源配分が実現する自然な利子率が存在するという仮説のことで、一般に、均衡経済を前提としない場合はある程度の失業が必要だとの結論に帰着する。
 参考①:日銀の「自然利子率」の説明 https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2003/wp03j05.htm
 筆者はクルーグマンの言うフェルプス論文(1968)を読んでいないため、厳密にどういったアプローチを指すのかわからない。
 参考②:フェルプス(Wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%89%E3%83%A0%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%97%E3%82%B9
 なおMMT派の多くは、中銀の当座預金付利をコントロールし国債金利をゼロ固定に調整すべきだと主張している。
 参考③:モズラー「自然利子率はゼロである」 http://dangerous.zombie.jp/macroeconomics/text/mosler_etc_TNRIIZ/
7/8. 時差のある賃金設定、そして過熱する労働市場では誰もが他の誰よりも先を行こうとしています。つまり、誰もがインフレが持続すると予想した場合、インフレが定着する可能性があるのです。
8/8. そしてもちろん、以上のことは、ディスインフレが近い将来どの程度になるかを考える上で、極めて重要となります。

ブランシャールは「金融政策無効/財政政策万能論」に寄ってきた印象だが、クルーグマンの場合はおおむね同意するようだったが、そうなのかいまいちよくわからない抽象的なツイート内容もあった。

ブランシャールは財政政策の話をしているのに、クルーグマンが彼の言説を補佐すべく、「ちなみに(真偽は微妙だが)」としながらも自然利子率の話を持ち出した理由は、まだ彼があきらめきれていないからだろうか。
他ではサマーズも自然利子率仮説を主張し続けていたが、今年、アメリカ経済が不況になることで、自説の誤りを認めるかもしれない。

ブランシャールは主にコストプッシュ・インフレの対応策として、資源価格の高騰を助成金によって抑えるという手法を提示した。デマンドプル・インフレへの対抗策は労働市場の需給調整だろうと思うが、どうも判然としない部分もあった。
短期でできることは他には減税や供給のボトルネックの解消などが挙げられるが、中長期では17人のノーベル経済学者たちやMMT派が言うような財政支出による「供給能力の増強」や、MMT派が強調するJGPのような労働市場の需給調整が有効となるだろう。

今後の主流派の言動も目が離せないが、2019年1月のオカシオ=コルテスによる「MMTを議論すべき」発言以降、彼らがどんどんMMTに寄ってきたことが確かであることは確認できる。

これらの主流派の動きを知らずに、いまだに「MMTはゾンビ経済学だ」などと叫んでいる日本のポンコツ経済学者の論説は聞くに値しないといえるだろう。


以上。

今年もよろしくお願いいたします!

 

 


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