さて、随分と時間が空いてしまったけど、今回でPublic Enemyについては最終回となる。

 

 


オールド・スクールだけじゃなく、90年代中盤の黄金期のHip Hopper達が何を言ってたのか知りたいんだよという皆さん、もうちょっとだけ我慢してほしい。
次回からはParisとImmortal Technique、Rakim、Nas、Wu-Tangと順に掘り下げていく。

Hip Hopの裏の歴史を知ると、Hip Hopを聴く耳が変わること間違いない。


2011年、PEのChuck Dは、オルト・ライト系ニュースメディアのインタビューにファラカーンとNation Of Islamについて聞かれて以下のように答えている。(抜粋)

◇◇◇◇◇◇
インタビュアー:
あなたは、少なくとも以前はルイス・ファラカーンとNation Of Islamのファンでしたね。彼らが反ユダヤ主義の組織であり、白人を好まないことを貴方を悩ませますか?

Chuck D:
ああ、いやいや、違うんだ。ファラカーンが演説する時は、彼は自分が嫌いなことについては非常にはっきり言及すると思うんだが、それはまったく正しくないんだよ。まず彼らが嫌いなのは、メディアの誤報が嫌いだということなんだと思うよ。実際に彼らはそうやって何年も言い続けてきたしな。正確さではなく、広く浅く伝えるようなメディア報道の在り方にアメリカ人が慣れてしまってるんだと思うね。だからこそ、私は彼らに長い間耳を傾けてきたんだ。それに加えて、自分が黒人であることで、彼の立場を理解することができ、それが自分の立場でもあるということになるかな。

そして君たちは反ナントカだとか反宗教なんてことについて言い始めるけど、Nation Of Islamはそんなことはまったく話していなかったと思うぜ。たぶんそういった話は、反貧困者とか反黒人、反キリスト教的なものなんかに関して、ある特定の状況について話していたんだと思うね。だから、その手の会話が始まると、何でも誤解される可能性があって、まあそれが最も良い例だと思うね。

インタビュアー:
では、NOIについてもうひとつだけ質問します。彼らは、白人が遺伝子改良された人間で、「白い悪魔」だと信じていないということでしょうか?

Chuck D:
いや、それは1940年代から50年代に言われてたことで、それは、アメリカの白人の、黒人や他の有色人種の扱いに対する反論だったってことだよ。

https://rightwingnews.com/interviews/talking-with-chuck-d-from-public-enemy-about-farrakhan-air-americas-failure-and-open-borders/
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Chuck Dが「白人が遺伝子改良された種」であるという教義はNation Of Islamの古い教義だと言っているが、これは創始者イライジャ・ムハンマドが1965年に刊行した著作「Message to the Blackman in America」の「悪魔の誕生(The Making of Devil)」の章でも語られている。

NOIの物語では、白人は遺伝子改良で作られた後洞窟に裸で住み、生肉を食べていたそうだが、先述したIce Cubeの楽曲「Cave Bitch」ではその物語にインスパイアされる形で差別的に白人女性について語っている。

この手の白人の悪魔化などの教義は、黒人のエンパワーメントの作業の過程で必要だったのかもしれないが、今となっては黒歴史そのものである。


2010年代のPEを知るために、2012年のアルバム「Most of My Heroes Still Don’t Appear on No Stamp」の収録曲「WTF?!」から少し翻訳しよう。

 

◇◇◇◇◇◇
Public Enemy - WTF?! 2012

(前略)
Chuck D:
Motherfuck、ティーパーティー(*当時流行った共和党内の右派・リバタリアン派閥)
俺たちはおまえらに教育費を払わされ
そして金もなくなって、列に並ばされるんだ
人々を騙し続けるためのトリック
食べ物にも何かが入っていないか?
おまえらの未来の地位について
誰に感謝すべきなのか
銀行の裏側に、そのタンクがある
New Whirl Odorは追い詰められる
革命がFRBを止めるんだよ
食糧不足のホームレスの数を数えてみなよ
(後略)
◇◇◇◇◇◇


Chuck Dは、人々の困窮の背後にNew World OrderとFRBがいることを示唆している。

しかしこのアルバムの後、2013年から2020年まではまた面白くない時代が続く。
リーマンショック以来有事がなかったからだろうか。黒人であるオバマが大統領となったことで満足していたからだろうか。
2016年末にトランプが大統領になり、Chuck Dはそれなりに反応はしているのだが、2017年のアルバム「Nothing Is Quick In The Desert」にもそういったポリティカルなオピニオンが殆ど反映されていない。

トランプが大統領になる直前(2016年の8月)に、ガーディアンがChuck Dにインタビューしているので一部抄訳する。

 

◇◇◇◇◇◇
インタビュアー:
オバマ大統領のレガシーについてはどう思いますか?

Chuck D:
オバマは俺たちがこれまでに経験した中で最高であり、実際に最高だったと思うが、悪いことが間近に迫っている。「最悪」にはならず、「悪い」くらいに収まればいいのだが…。「最悪」ってのはトランプのことだけどね。

俺には政府が何をやってるかってことについて信念があるんだが、俺はオバマが政府と戦ったとリアルに信じてるよ。まあこの歴史あるアメリカの黒人としては、政府には何も期待してないけどな(笑)
だけど、ジョージ・ブッシュの8年間に比べたら、オバマが正しいことをやったことは確かだよ。

インタビュアー:
ドナルド・トランプの台頭をどのように説明しますか?

Chuck D:
トランプは大胆に見えるけど、ただのビジネスマンだな。そしてビジネスマンとして、彼は民主主義と政府のために戦うのではなく、そのビジネスのために戦うでだろうね。彼が勝った後、彼はしばらく大統領の椅子に座って自分の力を感じて楽しむんだろうよ。彼はビジネスマンであり、彼に役立つ国際的な、より大きな取引に動くんじゃないかな。彼の意図は軍隊を引き継ぐことだと思うぜ。それから彼は、民間運営の刑務所複合産業のために働き、そのすべての権力構造にはほとんど反対することなく繁栄させるだろうね。

インタビュアー:
バーニー・サンダースと彼のキャンペーンについてどう思いますか?

Chuck D:
バーニーは人々が望んでいること、そして聞きたいと思っていることを言ったよな。バーニーが私の仲間の一人、キラーマイクと一緒にしたことも素晴らしいと思ったね。バーニーがしたすべての気づきの訴えは素晴らしかった。しかし、私の主な失望は、このコーラとペプシが運営する国が選挙をガチャガチャにしたことだな。これはマスマティックのゲームで、2つのうち小さい方を選択する必要があるってことだよ。
私はいつも、副大統領がなぜ、実際の力よりももっと力を持たないのだろうと思っていた。なぜヒラリーはティム・ケインを選び、バーニーを彼女のパートナーにしないんだろうか?まあ答えは、ヒラリーが裕福な投資家に支えられているからだよな。だから、私たちが今話しているような、つまりバーニーがどんなに努力しても、私たちはすぐにスタート地点に戻ってしまうんだよ。

https://www.theguardian.com/music/2016/aug/15/chuck-d-public-enemy-interview-black-lives-matter
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2010年代はあまりポリティカルの意識の高くなかったPE(主にChuck D)だったが、2020年のパンデミックとBlack Lives Matter運動を機に急に目覚める。

2020年のサンダースの大統領選のラリーで復活ライブも成し遂げ、話題になった。
3月2日のことだったが、私も中継をリアルタイムで見ていたが、本当に感動したことを覚えている。
ちなみにこの時はFlava Flavとケンカ中で、彼は出演していない。

 

 

20年6月、ジョージ・フロイド事件を題材に、トランプに対して「黙れクソが(Shut The Fuck Up)」と吠える「State Of The Union (STFU) 」をリリース。
NOIの分派の5 Percentersであるプレミアのトラックで「ナチの独裁者を引きずりおろせ」とPE復活ののろしを上げた。

▼ PUBLIC ENEMY - State Of The Union (STFU) featuring DJ PREMIER 

 

この楽曲「State Of The Union (STFU) 」が収録されたアルバム「What You Gonna Do When the Grid Goes Down?」は久しぶりにグラミーにもノミネートされるなど好評であった。「銀行家をぶっ飛ばせ」と歌う「Beat Them All」、5 PercentersのNasとBlack ThoghtをFeatした「Fight the Power: Remix 2020」も収録されている。

▼ Public Enemy - Fight The Power (2020 Remix) feat. Nas, Rapsody, Black Thought, Jahi, YG & QuestLove

 


70年代後半にクール・ハーク、グランドマスター・フラッシュ、アフリカ・バンバータらによって礎が築かれたHip Hopだったが、80年代にRun D MCとPublic Enemyによって世界的ムーブメントになった。
その背景には、後の90年代Hip Hopへと脈々と受け継がれるイスラム教信仰と体制への反逆精神がある。

Hip Hop黎明期に、Nation Of IslamだったバンバータとPEの果たした貢献は大きい。

Hip Hopとイスラム教の関係を研究するワシントン大学セントルイス校フェローのChristian Bakerとミドルテネシー州立大学准教授のFelicia M. Miyakawaによると、バンバータとラキムはHip Hop黎明期に、「イスラム教はヒップホップの『国教』である」という主張をしている。


次回からもHip Hopの裏街道(本当の表街道)を歩んでいこうと思う。

80年代後半にPEやIce Cubeの奏でたロジックを、90年代のムスリム系アーティストたちはもっとブラッシュアップさせていく。



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