92年の「PUBLIC ENEMY  / HAZY SHADE OF CRIMINAL」のジャケより
 

 


Public Enermyの90年代中盤から2001年まではおもしろくない時代が続くが、その中でもリリック的に引っかかる曲を何曲か抄訳する。

アルバム「Greatest Misses (1992)」から
    楽曲「Louder Than a Bomb(爆弾よりも爆音)」

 

I say it for you to know
The troop is always ready, I yell 'geronimo'
Your CIA, you see I ain't kiddin'
Both King and X they *got ridda' both
A story untold, true, but unknown
Professor Griff knows...
"Yo, I ain't no toast"
And not the braggin' or boastin' and plus
It ain't no secret why they're tappin' my phone, although
I can't keep it a secret
So I decided to kick it, yo

俺は、おまえに知らせたいんだ
部隊は常に準備万端で、
俺は「ジェロニモ」と叫んでいることをな
CIAさんよ、わかるだろ、俺は冗談のつもりはない
キング牧師もマルコムXも、彼らは両方とも始末されたんだ
巷で語られることはないがこれはマジな話だぜ
プロフェッサー・グリフなら知ってるぜ...
[Griff]「YO、俺はなにも面倒は起こしてねえよ」
くだらない自慢話なんかではなく
奴らがなぜ俺の電話を盗聴しているのかってことだ
秘密にしておくことはできないぜ
だからライムすることにしたんだよ

 *【注】「got ridda」は多分「Got rid of」だと思うけど、「始末された」とかって意味になる。
  MLKは白人至上主義者に、マルコムはNOIの敵対者に暗殺されたとされているが真実はよくわからない。前後の文章を考えるとChuck DはCIAらに暗殺されたと主張したいのだろう。
------

 

PEは2000年代に入って、曲中でCIAやFBIの「COINTEL作戦(反政府分子の掃討作戦)」による盗聴や陽動等のスパイ行為などに触れるようになるが、このころから何かを感じていたのだろう。
90年代中盤からNation of Islamのルイス・ファラカーンもCIAやFBIの盗聴についてたびたび演説しているが、その影響かもしれない。

 

アルバム「Muse Sick-N-Hour Mess Age (1994)」から
         楽曲「What Side You On? (どっちの見方なんだ?)」

 

Damn, why you call him the man
Here I am scramm
Never ran, never fight the Black
From Iraq or Iran, who bombed Japan?
Blood on his hands
Part of a plan
He don't really believe In uhh! God damn
If it comes down to shuttin Them down
I'm in the hood surrounded, Tell em I'm grounded
I'm on that psycho analytical
Tip if politics iz stickin to The mix like tricks

Damn、どうして奴こそが男だなんて言うんだ?
俺は今すぐ立ち去りたい気分だぜ
だが絶対に俺は逃げはしないぜ
俺は決してイラクやイランのブラック達とは戦わない
誰が日本に爆弾の雨を降らせたかって?
奴の手は血塗られているんだ
これは奴らの計画の一部なんだぜ
奴は本当に神を信じてない! ちくしょう!
もし中東の彼らを黙らせに行くっていうんなら
俺は地元で、地下に閉じこもっていると伝えろ
俺は今、精神分析をしてるんだよ
政治をこのミックスに乗せてトリックする感じでな
----------


1991に湾岸戦争が起こって、米国と多国籍軍はイラクを軍事攻撃した。
この曲はNWO-ネオコン批判となるだろう。
PEのメンバーのほとんどはNOIでイスラム教徒だから中東の同志との戦争に反対しているし、日本を爆撃した同じ組織が中東を攻撃していると示唆している。

 

アルバム「There’s a Poison Goin’On」(1999)から
               楽曲「Do You Wanna Go Our Way???(俺たちと共に来るか??)」

 

Who dropped the bomb on hip-hop
Who got Biggie, and who shot 2Pac
What's forgot? Ain't no Eazy, no Scott La Rock
Now what's rap gotta do with what you got
For whom the bell tolls, is that the way the story goes
85% believing all the videos
God knows who controls the radios
Some people chose the road to be hoes

誰がヒップホップを爆撃したのか
誰がBiggieを、誰が2 Pacを撃ったか
おまえら何かを忘れてないか?
Easy E(NWA)やスコット・ラ・ロック(BDP)はもういないんだぜ?
今ラップが歌わなければならないことは
誰がために鐘が鳴って、どこに物語が進むかについてだ
85%の奴らがテレビのたわごとを信じている
誰がラジオを統制しているのか神は知っているんだよ
アバズレになるべく道を選んだ奴らもいるしな
---------


「85%のテレビを信じる人」というのは、NOIから分派した「5% Nation」の教義から来ている。
「5 percenter」の教義では人類の5%が真実を知り、それを10%に教え、残り85%が無垢の羊であるというような教義がある。
経済学でいうところの「パレートの法則」(実際は経済学の理論の派生形だが)と似ているのかもしれない。


さて、90年代のほとんどを衰退するにまかせてしまったPEだが、2002年のアルバムから急にポリティカルになり独自のアートフォームを発展させることになる。
2001年には9.11の同時多発テロが起こり、翌年からアフガン・イラクというイスラム教の国へアメリカが侵攻したが、それに対する反逆の姿勢からだろう。

PEはアルバム「Revolverlution (2002)」から極めて政治的な方向に舵を切った。
楽曲「Give the Peeps What They Need」では、キューバに亡命したブラックパンサーのアサタ・シャクール(2 Pac Shakurの名付け親)や無実の警官殺害の罪で収監されたとされるジャーナリストのムミア・アブ=ジャマール 、保安官殺害の罪で収監されるブラック・パンサーのJamil Al Aminに触れ、FBIのCOINTEL作戦(反政府分子の掃討作戦)による陰謀であったと示唆している。

この曲は9.11でイスラム教徒が犯人とされ、愛国者法という国民監視システムが導入されたことに対して「おまえら政府は俺たちを監視して、ハメようとしているんだろうが、俺の情報だったらいくらでも見やがれ」と挑発する内容になっている。

 楽曲「Son of a Bush」(Son of a Bitchとかけている)ではブッシュ元大統領を「イルミナティに敬服する大量殺人者だ」とディスりまくり、また、楽曲「Get Your Shit Together」では「CIAとテロリストが偽の作戦で無実の者たちを殺しているんじゃないか?戦争は利益になる。ウォール街の金が尽きたから911が起こったんじゃないか?」ときわどいライムを重ねている。

後述するが、この辺のチャックDの陰謀論思考は、若いラッパー達に影響を受けたんじゃないだろうか。
ちょうどこの頃は「911が自作自演じゃないか」という話が広まってきたときだと思うし、2003年にはImmortal Techniqueと激やば曲「Immortal Technique feat.Chuck D - Bin Laden (Remix)」(https://www.youtube.com/watch?v=wkkUhbOG-YM)をリリースし、同年にはParisの「Freedom (The Last Cell Remix) Featuring Dead Prez & Public Enemy」にPEがFeatされている。

その後、2004年にリリースされるのが「New Whirl Odor」(「新たな渦の悪臭」とでも訳せばいいだろうか)というド直球のアルバムで、もちろん「New World Order=新世界秩序」 とかけているのだけど、ほぼ全曲が政治的な曲で構成されている。

楽曲「Y’all Don’t Know (So What Ya Saying?)」の、久しぶりに登場するグリフによる「選挙は企業により民営化され、マスコミの嘘により洗脳された国民は気が狂ってしまった。」とするライムはなかなか聴きごたえがある。

このアルバムから楽曲「MKLVFKWR (Make Love Fuck War)」だけ一部翻訳しよう。

 

アルバム「New Whirl Odor (2004)」より 
      楽曲:MKLVFKWR (Make Love Fuck War)

 

Rather be sitting just to get in it
Power to the people not the governments
Capitalists, communists and terrorists
Swear to God, I don't know the difference
Making new slaves out of the immigrants
Want to know where all the money went
Another trillion spent by the government
Here the bomb go, sent by the presidents
POWER TO THE PEOPLE, CAUSE THE PEOPLE WANT PEACE!!
中略
Tell the leaders, they got to feed us
Grand Theft Oil, gonna bleed us
New World Order, doesn't need us
Call for peace, better heed us
Dictators, Human Haters
Hand on the bomb, Mass Debators
Finger on the button, infiltrators
MAKE LOVE, FUCK WAR, PEACE WILL SAVE US!

ただ座っているだけじゃダメだ
政府ではなく人々へ力を与えるべきだ
資本家、共産主義者、テロリスト
神に誓うが、俺には違いが分からない
移民の集団から新しい奴隷を作ってるんだ
俺は金が全部どこに行ったのか知りたい
政府が支出したあの1兆ドルは
大統領が送ってくれた爆弾になった
人々に力を!! 人々は平和を望んでいるんだ!!
(中略)
リーダーたちに伝えてくれよ 
政府は俺たちを食わせなきゃいけないもんだって
グランド・セフト・オイル(ブッシュのこと)は、俺たちに血を流させようとする
New World Order(新世界秩序)は俺たちなんか目に入っちゃいない
平和を呼びかけよう 俺たちにもっと耳を傾けさせよう
独裁者は人類を憎んでいる
爆弾に手を伸ばしたホラ吹き野郎よ
ボタンに指をかけたスパイ野郎よ
愛を育てよう 戦争をぶち壊そう 平和が我々を救うんだ!
----------------


曲中の「Grand Theft Oil」とは、PEの造語でGrand Theft Autoというゲームから来ていて、石油泥棒とでも訳せばいいだろうか。この石油泥棒とは中東に攻め入ったブッシュのことを指していて、PEは「Grand Theft Oil」(

https://www.youtube.com/watch?v=iSnuaBCL7q)という曲も2006年にリリースしている。


PEは2000年代後半以降もポリティカルソングを多くリリースしている。
   
2007年リリースのアルバム「How You Sell Soul to a Soulless People Who Sold Their Soul???」(なぜおまえは魂なき奴らに魂を売ったんだ?誰が魂を売ったのか?)に収録された楽曲「Escapism」では「イラク戦争では週に10人の死者、合計千人以上の死者が出ている。黒人男性の33%は収監され、黒人の学生の55%が落第、黒人の85%が俺たちがかつて奴隷だったを忘れている」と語る。
この「85%」というのは、上述したようにNOIから分派した5 Percent Nationの「無知な羊が人類の85%を占める」というような教義から来るものだ。

このアルバムから楽曲「The Enemy Battle Hymn of the Public」を少し翻訳する。

 

 「The Enemy Battle Hymn of the Public」(民衆の敵との戦い)

 

[Verse 1]
No election, remember that presidential selection
Got us in another erection of body parts
Dick, Bush, and Colin, tape is rollin'
New Whirl Odor flowin way past deodorant
Got the masses ignorant them dumb asses
The whirl surrenders to the way of the beltway
Created a war, Bin Laden found Saddam
Yo Griff, tell 'em what good is a goddamn bomb
I know they been lying about Bin Laden
Fight the power, but you don't know who hit them towers
And they dont care, Tony Blair
Ask the axis of hate, is the UK the 51st state?
中略
I rather be getting it than getting hit
Presidential orders from this New Whirl Odor
Stressin peoples of color across the water and the borders
People need food, education, employment

選挙なんてものはない 覚えてるだろあの大統領選を
俺たちの体の一部がまた怒りで勃起するぜ
ディック、ブッシュ、コリンって感じで順番が回るんだ
New Whirl Odor(新たな渦の悪臭)は消臭剤も効かず臭ってくるぜ
大衆を無知でバカにしてしまうのさ
あの渦巻きは環状道路に降りてくるんだ
戦争を引き起こすために ビン・ラディンはサダムを見つけたとさ
おい、グリフ クソみたいな爆弾が何の役に立つか教えてやれよ
俺は奴らがビン・ラディンについて嘘をついていることを知ってるぜ
Fight The Power! あんたらは誰がNYのWTCを攻撃したか知っちゃいないってことだ
まあ、誰も真犯人なんて気にしないだろうけどな
トニー・ブレアは(憎)悪の枢軸に聞いて犯人を知ったんだとよ
まったく、イギリスはアメリカの51番目の州なのかね
(中略)
俺は殴られるよりも、答えを手に入れたいね
大統領はNew Whirl Odorから命令を受けてるのさ
それで海の向こうの国の有色人種を痛めつけてるんだ
人々は食糧と教育、雇用こそを必要としているってのによ
------------


2007年以降はアルバムのリリースが5年間空くが、これは08年にオバマが大統領になって言いたいことがなくなったからかもしれない。
しかし2012年には矢継ぎ早に2枚のアルバムをリリースしている。
アルバム「Most of My Heroes Still Don’t Appear on No Stamp」では、「Run Til It’s Dark」「Get Up, Stand Up」など何曲かポリティカル・イシューを扱っている。
また、アルバム「The Evil Empire of Everything」の「Don’t Give Up The Fight」ではボブ・マーリーの息子ジギー・マーリーをFeatし、「Beyond Trayvon」ではBLMを扱った。
なんとコーメガをFeatした楽曲「Catch The Thrown」から一部を抜粋し翻訳しよう。

 

   Catch The Thrown

 

[Verse 2]
Divide and conquer, the oldest trick in the game
Is the one between the people who are really the same
As the rich get richer, the poor get bitcin'
The people keep kissin', the feds don't listen
This recession's seen a black depression
Situation of a nation headed for desperation
No quarterback gets sacked on the couch
The sound of black America is "Ouch!"
Governments don't love you and president executions
End up looking like some final solutions
Murder is an institution backed up and hacked up

[Verse 2]
分割統治 このゲームで最も古いトリック
同じ立場にある人々を争わせる 奴らのトリック
金持ちはより金持ちになり 貧乏人は文句を垂れるだけ
人々はキスを続け 連邦政府はシカトする
この景気後退は真っ黒な不況なんだぜ
この国の状況は絶望に向かってるってのに
クォーターバックはソファには沈まない
黒いアメリカのサウンドなら「痛い!」
政府はおまえを愛してない 大統領の死刑執行は
最終的な解決策のようにさえ見えるんだ
殺人は機関にバックアップされハッキングされてんだよ
(後略)

[Verse 3: Cormega]
The system is designed to incriminate
Genocide was devised to eliminate
Equality is a myth
They had me in jail for a crime I didn't even commit
A stereotype
They feel every color is inferior, right?
Brothers who resist are considered a threat
From Sitting Bull, to Malcolm X
In the land of the free, and suspect elections
John Kennedy had the mob connections
President Reagan sold guns to Iraq
Yet they try to say that criminals are all black
What's up with these corrupt politicians?
Them drugs they be shippin', but they never go to prison
This fucked up system better never try to bag me
Fuck Zimmerman, he's guilty, clearly

[Verse 3: Cormega]
この世界のシステムは有罪を作るようになってる
ジェノサイドは排除するために発明された
平等なんてものは神話だ
俺は無実の罪で刑務所に入れられた
なんてステレオタイプな
奴らはどの有色人種も劣っていると感じてるんじゃないか?
抵抗する兄弟たちは脅威だと思っているんだろう
シッティングブルからマルコムXまでな
自由の国の 疑惑の選挙では
ジョン・F・ケネディにはマフィアとのコネクション
レーガン大統領はイラクに銃を売った
それなのに、犯罪者は全員黒人だと言おうとしている
堕落した政治家はどうなったんだ?
奴らは麻薬を出荷しているが、刑務所に行くことはない
狂ったシステムよ 俺を丸裸にしようとするな
ジマーマンは明らかに有罪だ

 *シッティングブルは19世紀に、白人の攻撃に立ち向かったスー族の英雄
 *ジマーマンは2012年に黒人少年を射殺し、BLM発端の原因となった
-----------------------


CormegaはNasの幼馴染で、Nasの伝説の1stアルバム「Illmatic」の(おそらく)AZがFeatされた「Life's A Bitch」にFeatされる予定だったが、(本人曰く無実の罪で)投獄されていたため、実現しなかった。
96年にNas、AZ、Foxy Brownと「The Firm」というグループを結成しているが、プロデューサーにThe Firmを解雇され、そのことでNasとのビーフに発展した。
Nasは2001年の楽曲「Destroy & Rebuild」ではCormegaを名指しで激しくディスしている。そればかりか、この曲ではNasと同じく5 Percentersで幼馴染でもあったMobb DeepのProdigyまでディスしている。
この「Destroy & Rebuild」の楽曲タイトルは、5 Percentersの教義の第8番「Build/Destroy」のことであり、Nasのディスは「一度壊して再度組み立てる」といった愛あるゆえのメッセージでもあった。
つまり、「Destroy & Rebuild」には5 Percentersにしかわからない暗号が隠されていて、このことからもCormegaも5 Percentersだったのではないかと予測できる(本人の言及はない)。

 

 


Public Enemyに随分時間を割いているが、ポリティカルなラップの変遷を知るうえで、どうしても必要な「基礎」なので、もう少しお付き合い願いたい。

次回は2010年代のPEと、昨年2020年の復活のアルバムについて語る。



cargo