今回の記事はシリーズ第5回目。

先日も触れたロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで人類学の教授を務めた故デヴィッド・グレーバー教授だけど、彼は2011年のOWS(Ocupy Wall Street=ウォール街を占拠せよ)のスローガン「We Are The 99%(私たちは99%)」を考え、指導的役割を果たした人物としても知られている。

OWSが起こった時のことはよく覚えてるが、日本のテレビでは「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」というデモの名称を一切伝えずに、「反格差デモ」と呼び、虚偽の情報を宣伝していた。

なぜ抗議者たちがウォール街を占拠するのか。それはこの世界を破壊している犯人がウォール街=金融街の銀行家たちだとわかっているからだ。このデモの趣旨が「ウォール街の金融家どもを包囲せよ!」だったからこそ、最初期の9月には抗議者たちがBank Of Americaに侵入を試みて逮捕されている。

こういう事実がありながら日本人には真の情報を隠したいがために、大本営マスコミは「反格差デモ」と伝えた。この国の大メディアは報道機関などと呼べるシロモノではなく、銀行家を頂点とする資本のヒエラルキー上位のための宣伝機関であることを露呈したのだと、私はその時に心の底から感じたことを覚えている。

当時の報道の方向性を如実に語るページが残っていたので確認してみてほしい。

記事を一読すればわかるように、まるで「格差に反対する貧乏人たちがルサンチマンの塊となって政府や金融機関に文句を言って、暴徒化した」というような印象に落とし込んで報道している。

勿論、我が国の大本営だけでなく、世界中の主流メディアが似たような印象操作を行っていた。

CBSは抗議者が「the Jews control Wall Street(ユダヤ人がウォール街を支配している)」「Hitler’s Bankers – Wall St.(ヒトラーの銀行家こそウォール街)」という発言をしていたと、一部の過激な抗議者のみをピックアップし、NYタイムスも「 Google: Jewish Billionaires and Zionists control Wall St.(Googleはユダヤ人の億万長者でシオニスト。ウォール街を支配してる」、「Zionist Jews who are running the big banks and the Federal Reserve(ユダヤ人のシオニストが巨大銀行とFRBを運営している)」とする一部抗議者の掲げたプラカードを扱い、また、ワシントンポストではナチ党のリーダーがOWSを支持し、「この国で富と権力を握るのはユダヤ資本家で、この汚物こそが敵だ」と発したと、まるで人種間闘争を扇動する差別主義者の集まりであるかのような印象操作を行っていた。

抗議者を社会的に葬り去るためのマスコミによる偏向報道は今に始まったことではない。
大銀行から資本融資を受けている彼らが、エリートの支配するヒエラルキー体制を護るため、こういった卑劣な行為を繰り返すことはある意味で当然で、同じようなことが60年代の公民権運動の頃から繰り返されていた。

 

▼ Malcolm X Warned Us About the Media in 1965

 

【抄訳】
私たちが意味するのは、自衛のための積極的な行動であり、その積極的な行動は正当化されるだろう。
その結果、今ではマスコミは陰で私たちのことを(立場を逆転させて)「人種差別主義者」または「暴力主義者」と呼んでいる。

最近ニューヨークでは、警察がブラザーを無慈悲に暴行した事件が2件起きた。
ところが彼らはマスコミを利用して、逆に犯人を被害者のように見せかけた。これが彼らのやり方だ。

我々が目を覚まして、彼らが私たちに何をしているかに着目しなければ手遅れになるだろう。
あなたが彼らがやっていることに気付く前に、彼らはすでに(処刑のための)ガスオーブンを作っているかもしれないのだ。
 
 

「マスコミは無実の者を有罪に、有罪の者を無実に仕立てることができる」とするマルコムのQuote


マルコムXと同様に、マスコミから差別主義者だとさんざん攻撃されたPublic Enemyは、88年の「Don't Believe The Hype」で「奴らは俺たちを犯罪者だと言う。俺たちはフーリガンでも狂人でもレイシストでもない!マスコミを信じるな!」と反逆の狼煙を上げた。

▼ Public Enemy - Don't Believe The Hype (88)

 

この曲ではマルコムXの弟子とされるNation Of Islamのルイス・ファラカーンのヴォイスサンプルが使用され、曲中ではChuck Dが「ファラカーンのフォロアーたちよ、彼の言葉をちゃんと聞くまでわかったつもりになるなよ。フェイクメディアを信じるな」とスピットしている。

PEは金融家たちへの批判も重ねている。1988年のアルバム「It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back」の「Night Of The Living Baseheads」 では、「黒人をドラッグ売買の無実の罪で逮捕しながら、ウォールストリートの白人金融家たちは警察に捕まらず、のうのうとコカインを常用している『Basehead』じゃないか」として、BassとBaseをかけてコミカルな暗喩を駆使して攻撃している。(*Baseheadはコカイン中毒の意)

▼ Public Enemy - Night Of The Living Baseheads (1988)

 

この曲の冒頭では、「我々はアメリカに連れてこられ、自分達の名前や言葉、神さえも奪われた。そしてソウルさえも忘れてしまったんだ」と発するNOIのスポークスマン、Khalid Abdul Muhammadの演説を使っている。
この演説をサンプルするアイデアはProffesor Griffによるものだったようだ。

当時この曲を初めて聴いた私には、まったく理解できていなかったが、先日お伝えしたようにKhalid Muhammadはかなりヤバい黒人至上主義者でだった。でも、だからと言って、彼の言葉が全てデタラメであるとはならない。
むしろこの曲では、Khalid Muhammadのサンプルヴォイスが音楽的に良い味を出しているし、内容もNOIの創始者イライジャ・ムハンマドやマルコムXの教義そのままの言葉となる。

 
PEで最も問題児だったのがProffessor Griffだ。グリフはNOIであり、PE軍では情報大臣の役割を担っていた。
89年に「ユダヤ人は世界の大部分の邪悪な出来事の元凶だ」と発言したとされ、それが原因でPEを解雇され(後に謝罪)た。

おそらく何度も聞かれたであろうPEを解雇されたときのことを、2020年になってもインタビューで聞かれ、こう答えている。
「あれはNOIの『Secret Relationship between Blacks and Jews』やヘンリー・フォードの『国際ユダヤ人』などの書物について1時間10分も議論する中で出たものだ。誰がエンタメ業界を支配しているか、誰がソ連を作ったのか、誰がヒトラーに資金提供していたのか、誰が黒人の奴隷船の保険会社を経営してたのか、そういうことを議論していたんだ。その「誰か」ってのはわかるだろ?そういう膨大な量の話をしていたが、インタビュー記事では反ユダヤ主義だと矮小化され、ADL(ユダヤ名誉毀損防止同盟)にも伝わりDef Jamに圧力がかかった。そうやってPEを追い出されたんだ」(筆者による抄訳)

グリフもIce Cubeと同様にNOIの過激スポークスマンで、NOI解雇後にニュー・ブラックパンサーの党首となったKhalid Muhammadの信奉者であったが、後に決別したことを語っている

グリフは90年代以降も陰謀論の発信を続け、陰謀論系の書籍も複数刊行している。2011年にはEast Tennessee State Universityで陰謀論のレクチャーを行っているが、なかなかのぶっ飛び具合だ。

2009年には「オバマを支持するパフィーやJay-Z、50 centらは犬だ」とディスし、ブッシュとケリーは秘密結社Skull and Bonesだと一蹴した。一方で銀行家やNWO批判を重ねるDead Prez、Immortal Tecnique、Rage Aginst The Machineを称賛。また当時緑の党の大統領候補だったCynthia McKinneyを支持してるようだった。そして俺はまだPEの情報大臣だとも言っている

少し脱線するがCynthia McKinneyにも触れよう。彼女は大学教授で、ジョージア州で初めて国会議員になった黒人女性だ。2008年に緑の党の大統領候補として立候補した。 
マッキニーは、9/11の攻撃が外国のイスラム教徒による犯行ではなく、内部犯の自作自演ではないかと追及する科学者や大学教授たちの運動「9/11 Truth movement」に所属し、国会での活動を続けた。

第七世界貿易センタービルはツインタワーから離れた場所にあったのに、「飛んできた火の粉で炎上し倒壊した」と大本営メディアが伝え、政府の調査機関もその荒唐無稽な説を正式な報告としたのだから、まともな感覚を持つ人間であれば疑って当然だ。

また、マッキニーはキング牧師と2 Pacの暗殺についてのFBI調査の開示請求やブッシュ大統領やチェイニー副大統領、ライス国務長官の弾劾請求も行った。
「911の攻撃をブッシュ大統領はカーライルグループを通じて事前に知らされていた。同時多発テロ当時、ビン・ラディンの建設会社と共同事業を行っており、9月11日以降株価が急上昇している防衛産業の多くの株式を保有していた」とも発言している

話をグリフに戻そう。2013年、グリフは「2 Pacとアリーヤはイルミナティに殺された」などと陰謀論バリバリの発言を重ね、パフィーはHomo Dudeだとディスしていた。

さらに2013年には保守派の陰謀論者で、後に熱烈なトランプ支持者となるアレックス・ジョーンズとも交流を重ねている。
この時のグリフの発言を抄訳する。
「影に隠れた同じ奴らが民主党と共和党両方を支援していて、偽旗を演出している。
オバマは約束を破りまくった。大企業には減税して税の抜け穴を設けたが、中小企業には重税をかけ、さらに学生には多大なローンを許した偽善者だ。
俺はOWSの時は抗議者に食糧を届けてサポートしていた。喰うものにも困ってる奴がデモを行っているんだから当然だろう。
イルミナティがHipHopを乗っ取った。Jay-Zはルシファーの教義に乗ってしまっている。
ジョージ・ソロスやルパート・マードック、オバマ、ブッシュ、バイデンはイルミナティや多国籍企業、CFRなどの駒だ」
などなど、陰謀論に慣れ親しんだ我々にとってはお決まりの発言をしている。

私にはルシファーがどうだとか、CFRの駒だとかいう話はどこまで事実なのか判断しようがない。
しかしオバマが富裕層を優遇し庶民を冷遇したことは確かだし、スーパーPACで富裕層から巨額の献金を受けていたことも事実だ。
また、戦争屋と一緒に「人権擁護」の偽旗を掲げ、中東で殺戮を行っていたことも事実だ。

グリフはその後、2015年には「イルミナティのユダヤは高利貸しと債務によって世界を支配している」と、再び余計なことを言っている。


https://twitter.com/Claire_Voltaire/status/1233460449456328704

筆者としては「Jewって言わなきゃいいのに…」と思う次第である。

彼のユダヤ陰謀論路線は変わりなく、昨年も、映画ドラムラインの主役で知られるNick Cannonと、Pod Castで反ユダヤ的な言説を重ね騒ぎになったばかりだ。

繰り返すが、この人たちは特定の人種について言及せずに会話しなければならないだろう。「1%」でも良いし、「銀行家」「国際金融資本」「グローバリスト」「グローバル資本」「バビロン」「ウォール街」「オリガーキー」など呼び方はいくらだってある。矛先がぶれると誤解を生むのだ。


さて、グリフの話に時間を割いていたら長文になってしまった。
続きはまたにして、次回はPEの楽曲のリリックとChuck Dの発言を追おうと思う。

最後に91年の名曲「Bring the noise」にだけ触れる。

アルバム「Apocalypse 91... The Enemy Strikes Black (1991)」は、とにかくメディア批判が多い。
「Rebirth」、「How to Kill a Radio Consultant」、「Can't Truss It」、「Shut 'Em Down」、「More News At 11」などの曲は全てメディア批判の曲だ。

メタルのAnthraxをFeatした「Bring the noise」では以下のようにライムしている。

 

Public Enemy and Anthrax - 「Bring the noise」

https://www.youtube.com/watch?v=kl1hgXfX5-U

 

Cause a brother like me said "Well
Farrakhan's a prophet and I think you ought to listen to
What he can say to you, what you ought to do"
Follow for now, power to the people say
"Make a miracle, D, pump the lyrical"
Black is back, all in, we're gonna win

俺みたいなブラザーが「ファラカンは預言者だ、おまえががすべきことを彼に聞くべきだろう」と言うんだ。
人々にフォローさせて「奇跡を起こそう、Chuck D、リリックを聴かせてくれ」と言わせよう。
ブラックが戻ってきたぜ、全員参加で、俺たちは勝つんだ。
(一部翻訳)



最後までご覧いただきありがとうございました。


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