「公共投資をするとGDPや雇用が増える」と報告するIMF


大本営NHKが、またまたひどすぎる偏向プロパガンダに加担しました。

10月12日から行われているIMFの定例のカンファレンスに関わる報道のなかで、IMFの発信の主旨を逆転させるような報道を行ったのです。

IMFは「借金が大変だ」なんて向きでは発していないのに、NHKは、IMFの発信の一部を切り取って「コロナの影響で各国の債務が膨らんで大変だ」としました。

NHKの報道内容から見てみましょう。
 

▼ NHK:巨額の経済対策による借金 世界全体で過去最悪の水準に
2020年10月15日 
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201015/k10012663881000.html

新型コロナウイルスによる景気の悪化に対処するため、各国が巨額の経済対策を実施した結果、借金にあたる公的債務は世界全体で過去最悪の水準に膨らむ見通しになったことがわかりました。

IMF=国際通貨基金は14日、世界の財政報告書を発表し、ことしの世界全体の公的債務がGDP=国内総生産の合計に対して、過去最悪の水準の98.7%まで膨らむ見通しを明らかにしました。

(中略)

国別に見ますと特に経済規模の大きい国で債務が増えていて、もともと債務の大きかった日本は突出して高くなっています。

(中略)

IMFは危機対応のための財政出動を評価する一方、「限られた予算でより多くのことを成し遂げる必要がある」とも指摘していて、各国は景気回復に取り組むなか、効率的な財政運営も問われることになります。
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NHKの報道では、IMFが「コロナの影響で各国の債務が膨らんで大変だ」とした、という主旨になっていて、あたかも財政規律に気を付けなければならないという向きで「効率的な財政運営も問われる」などと締めくくっています。

しかし、実際のIMFの報告はまったく違います。
というか、NHKの報道は主旨が逆転してしまっています。

NHKが記事で扱った「IMFの世界の財政報告書」というのは、以下の文章を中心とするものだと思われます。
(「限られた予算でより多くのことを成し遂げる必要がある」と同じフレーズが出てくるので間違いないでしょう)

この記事には日本語版もありますが、翻訳者の意志の介在を避けるため、英文から翻訳して解読してみましょう。
主旨に関わる部分を抜粋します。

 

▼ Fiscal Policy for an Unprecedented Crisis
前例のない危機に対する財政政策   2020年10月14日 By Vitor Gaspar
https://blogs.imf.org/2020/10/14/fiscal-policy-for-an-unprecedented-crisis/

COVID-19の危機は、人々の生活や雇用、そしてビジネスを壊滅させた。政府は打撃を和らげるために強力な措置を講じており、その額は世界全体で驚異的な12兆ドルに上る。
これらのライフラインは命と家計を救ってきたが、同時にコストがかかり、不況による税収の急激な減少とともに、世界の公的債務を史上最高となるGDP比100%近くまで押し上げた。

(中略)

多くの労働者が依然として失業中で、中小企業は苦境にあえぐなか、パンデミックの影響で、2020年には8千万から9千万人が極度の貧困に陥る可能性がある。
追加の社会的支援があった後だとしても、政府がこの例外的支援を終わらせるのは時期尚早である。
しかしながら、多くの国は予算制約が厳しくなる中で、より少ない予算でより多くのことを行う必要が出てくるだろう。

(中略)

先進国や一部の新興市場国では、中央銀行による政府債務の買い入れが、金利を歴史的な低水準に維持し、政府借入を支えている。これらの国々では、危機に対する財政的な対応が大規模であった。

しかし、多くの重債務の新興市場国や低所得国では、政府が借入を増やす余地が限られており、この危機の影響が最も大きかった人々への支援を拡大する能力が妨げられている。これらの政府は厳しい選択に直面している。



(中略)

経済が暫定的に再開する一方で、パンデミックの先行きに不透明感が残る中、各国政府は財政支援が急速に撤回されないようにしなければならない。しかしながら、財政支援はより選択的になるべきであり、経済活動が再開する際には、必要な部門への再配分の邪魔になることを避けるべきである。
支援は、パンデミック前からの雇用を守ることから、人々を職場に復帰させることへと徐々に移行すべきである。

(中略)

パンデミックの収束後は、各国政府は財政赤字の拡大や公的債務の増加といった危機の遺産に対処しながら、回復を促進する必要がある。

・財政的余裕があり、かつ大規模な長期失業が発生するなど危機による深刻な傷跡がある国々は、中期的な調整を計画しながら、一時的な財政刺激策を実施すべきである。

・債務水準が高く、資金調達へのアクセスが少ない国々も、中期的に調整しながら、公共投資と低所得世帯への移転を保護する必要がある。

翻訳 by cargo
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つまり、何を言ってるのかというと、「コロナで人々が苦しんでいるので財政的支援が必要だ。先進国や新興国では債務残高を増やせるので公共投資して雇用を守れる。低所得国では政府の借入能力が低いが、財政支出は止めてはいけない」という感じです。

NHKの言うように「借金が大変だ!借金が大変だ!」などと大騒ぎはしていません。
むしろ、「債務は増えてるけど、問題ないから財政支出・公共投資をしましょう」と訴えかけているのです。

IMFは、数年前までは「悪逆非道な高利貸し」という様相でしたが、近年はその姿勢が変わりつつあります。
NHKはその変化に追いつけていないのでしょう。
いまだに「緊縮財政が正しいのだ」と錯誤しているから、このような主旨の逆転した報道内容となってしまうのだと思われます。

そもそもIMFの積極財政への転換は、ゲオルギオワ・IMF専務理事の4月9日の声明にも表れています。
この記事を抄訳してみましょう。

 

▼ 危機に立ち向かう:世界経済の優先事項 IMF専務理事・クリスタリナ・ゲオルギエワ
https://www.imf.org/en/News/Articles/2020/04/07/sp040920-SMs2020-Curtain-Raiser
・アフリカ、ラテンアメリカ、そしてアジア新興市場と低所得国は、過去2か月で、新興市場からのポートフォリオの流出は約 1,000億ドルで、世界金融危機の同時期の3倍以上となり高いリスクにさらされている。
・貧困国の多くは、先進国よりも少ない資力でありながら、大胆な財政的および金融措置を取っている。限られた公的資源を慎重に再配分しなければならない。
・失われた需要を拡大するため財政刺激策が不可欠だ。低インフレ国は、引き続き金融緩和を続ける必要がある。
・リソースが限られ、債務状況が持続不可能な新興・貧困国は、より多くのサポートが必要になるが、IMFは1兆ドルの貸付能力提供できる。
・低所得国を債務救済するために、IMFは期間を延長している。
・世界銀行と協力して、世界最貧国の二国間債権者への債務返済の停止を求めている。
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このゲオルギオワとIMFの積極財政路線があって、10月の財政モニターによる発信に繋がります。

 

NHK報道の元記事を書いたIMF財政局長のガスパール氏が、10月14日より少し前にも財政モニターから別の報告もしていますので、これにも注目してみましょう。

 

▼ 復興に向けた公共投資
IMF財政局長 ヴィトール・ガスパール  2020年10月5日

https://www.imf.org/ja/News/Articles/2020/10/05/blog-public-investment-for-the-recovery

 

国際通貨基金(IMF)の最新の「財政モニター」では、先進国と新興市場国で公共投資を拡大することが、現代史上最も急激で深刻な世界経済の崩壊から景気を回復させる上で助けとなりうることが示されている。
公共投資の拡大は、短期的には数百万件の雇用を直接創出し、より長期的にはさらに数百万件の雇用を間接的に創出することにもつながりうる。
公共投資を対GDP比で1%拡大する場合、投資の質が高く、また、公的・民間部門の既存の債務負担によって景気刺激策に対する民間部門の反応が弱められることがなければ、景気回復への信頼が強化され、GDPを2.7%押し上げるとともに、民間投資が10%拡大し、雇用が1.2%増加する可能性がある。


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このIMF財政局長のガスパール氏はさらに踏み込んだ発信も重ねています。

NHKの視点が完全に間違っていることが、ここでも証明されます。

FTの記事では、ガスパール氏は「各国はコロナ対策で散財し、債務残高が増えたけど、先進国には緊縮財政は必要ない。GDPを成長させるために公共投資するべきだ」という旨の発信しています。

 

▼ IMF:緊縮財政はパンデミックの財政への影響の緩和に不可避ではない (2020年10月14日、Financial Times)
https://note.com/goetche_chan/n/n451ccf30a321
 
また、WSJの記事では、IMFの財政モニターの報告から、「先進国でも中国のように公共投資したらGDPが上がる」という主旨の分析をしています。

 

▼ WSJ:「中国型」の財政政策、不確実性は追い風
IMFが富裕国に公共投資の大幅拡大を提案
https://jp.wsj.com/articles/SB11558895924352213554804587036912413905558

いかがでしょうか?

あのど緊縮だったIMFでさえ過去を反省し、そしてFTやWSJも積極財政という正しい経済政策を発信しようと努力しています。

なのに、NHKは、「世界の常識」が変わったことにも気づかず、いまだに逆行するようなことを続けているのです。

日本の財務省も、世界でもまれにみるGDP比でわずか5%足らずのコロナ財政出動で、国民を欺こうとしています。

普通の人であれば「バカじゃなかろうか?」と思いますよね。

財務省やNHKは、意地でも日本人を助けたくないのでしょう。

このバカな姿勢を絶対に変えなければなりませんね。



本日はここまで。

最後までご覧いただきありがとうございました。


cargo