れいわ新選組の前参議院議員候補の大西つねき氏の動画での発言が炎上しました。

現在はこの短い動画がネット上に残っているのみで、当該動画自体は削除されています。
https://www.youtube.com/watch?v=x7DsNJBX8XY

朝日新聞までがこの事案を取り上げて、ネットでは「ナチスの優生思想か」という向きで大騒ぎになっています。
https://www.asahi.com/articles/ASN795SFXN79UTFK00T.html

上記動画だけを見ると「何言ってんだこの人」と怖い印象を受けます(そのように感じるよう編集していると思われますので当然ですが)が、動画の続き部分は以下のようになり、だいぶ印象が変わります。

 

「れいわ新選組若者勝手連」の方が文字起こししてくれました。

そうなんですよ。これ本当ね、死生観の話になると思いますよ。いつまで我々はもうひた すら長生きさせるために、どれだけ自分たちの時間と労力をそれに使うのかっていう話は 、みんなが考える必要があるし、皆が必ず死ぬということを覚悟する必要があるし、そこ はもう避けては通れないと思いますよ。  
(中略)
高齢者自身の選択。もちろんそれぞれの選択はあるんですけど、それぞれの選択っていう か、やっぱりシステム的に変える、システム的っていうか、その、例えば、本人だけの選 択ではなくて、社会的な選択ってある程度していく必要ってあるじゃないですか。
ベッドどれだけ用意する、ベッドをどういう風に、例えば数が、もうとにかく全員に、何 があっても足りるようなベッド数を保つということは、それをケアするための膨大な多分 若者が必要だったりして。これもどこまでもやればいいって話ではなくて、どっかである 程度、数とかね、そこら辺は選択する必要がありますよね。
(中略)
まあいいんですけどね、それぞれ考えがあってね。でも僕はそういう政治家になると思い ますよ。結構冷徹にいろんなことを判断していく。それを考えることを僕は要求すると思 います。なんか感情とかじゃなく。
そうじゃなくて、気持ちは分かるけど、その気持ちだけで全部解決するわけではないので、結構割となんか過去において、我々ってそういうなんか情緒的な判断とか感情的に とか、頑張って人がいるからそんなことを言うなとか(笑)、あとはなんでしょ、なんか 一生懸命やってんだからどうとか、そんなんで、なんか割と戦争があんだけ長引いたのも 、なんかそんなような、何でしょう、合理的な判断ができなかったからなんじゃないです かね、と思いますけど。
(中略)
命のためと言いながら、個人の尊厳を奪ってることが多いように見えるって、僕もそんな 気がしますね。難しい、そう、ほんと難しい問題なんですけど、難しい問題をちゃんと我 々、正面切って考える必要ありますよね。
で、考えることを僕は皆さんに、考えてもらうための発信はたぶんすると思います。結局 最終的に皆さんにやっぱ決めていただく必要があるんですよね。僕が決めることじゃない ですよ。僕はこう思いますよって、どう思いますかっていう、あくまでもこれ投げかけな ので。 その結果、とにかく長生きが一番っていう人たちが大勢だったらそういう風になるんでしょ。たぶんそういう人たちが大勢だったら、僕は選ばれないのかもしれませんけど。それ はそれ、僕の考え、それぞれ考えがあっていいということですね。(終)

*中略は私の編集によるもの。 当該箇所の全文はこちら↓↓↓
https://twitter.com/reiwawakamono/status/1281680237990776833

 

この発言に対し、れいわ新選組代表の山本太郎氏は、「弁明は通用しない」 「発言を謝罪し撤回するか、れいわを離れるかの二択しかない」と大西氏に伝え、その結果、大西氏は発言を撤回し謝罪したという流れになりました。
これから大西氏を含めたれいわのレクチャーや総会が開かれるということなので、もしオープンなものなのであれば、私自身も学びの場にしたいと感じました。
https://www.youtube.com/watch?v=22tmQnw2HiY

しかし、それとは別に、大西氏の「命の選択」「命の選別」という発言が、なにか「まがまがしい記号」に置き換えられ、その記号を中心に藁人形が作り上げられ、叩いても良いフリー素材のような扱いになっていることには違和感を覚えます。

私自身の大西氏に対する感覚は、今までどちらかというとそこまで深いシンパシーを感じることもなく、「自己啓発系の延長上の何かなのか?」というように感じることもしばしばあったという具合ですが、今回の件は、彼の意にそぐわない形で批判・誹謗中傷を浴びているのようにも感じられるので、彼の発言の真意を知りたいと思った次第です。

そして、大西氏の話が「終末期医療」と「コロナ対策」でごっちゃになっているため、炎上した短い動画を閲覧しただけでは、受け手側が彼の考えを理解できないのではないかとも思いました。

「終末期医療」に関しても「コロナ対策」に関しても、私にはどのやり方が正しいのか判断できるほど知識はないのですが、大西氏には弁明の機会は与えられるべきだと思います。

当該炎上動画より少し古い日付の動画を見ると、大西氏はコロナ対策に関して、「自粛と経済対策の失敗によって失業や自殺が多発する。トリアージは必要になる」という向きで同じような熱弁をふるっていて、炎上した動画においても「コロナ対策」が大西氏の念頭にあったことは感じ取れます。
氏のコロナ対策はかなり過激ではありますが、雑に言うとスウェーデンや藤井聡教授のやり方と似ているようです。

(*私は大西氏の言う「マスクもソーシャルディスタンスも必要ない」には大反対です)
https://www.youtube.com/watch?v=r5FQtjNCx3Q

 

「命の選別発言」はそのワードの過激さだけを強調されるかたちで批判対象とされた印象もありますが、例えばスウェーデンは実際に政府のコロナ対策としてトリアージを行っています。


トリアージとは、患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うことで、語源は「選別」を意味するフランス語のトリアージュ(仏: triage )から来ているらしいです。

助かる見込みのない患者あるいは軽傷の患者よりも、処置を施すことで命を救える患者を優先するものであるとされています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B8


スウェーデンでは、高齢者は集中治療室でのコロナ治療が適応外とされていて、医療施設には送られず、介護施設や自宅で息を引き取るかたちになります。
https://forbesjapan.com/articles/detail/35156/2/1/1

もともとこの国は、高齢者医療において胃ろうを禁止にするなど、無理に延命するより人間の尊厳のほうを重視してきた経緯があります。
措置を行えば延命できるのに、緊縮財政志向も相まって、政治的決断によって寝たきりを廃絶する方向に舵を切ったのです。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/45510?page=3
そして同じように北欧を中心とする欧米でも、この寝たきりを回避する方針がとられているようです。

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20120620-OYTEW61295/

このスウェーデンでも、日本と同様に、民営化やコスト削減の潮流が押し寄せ、公営医療制度が縮小してきました。
そのような背景もあり、過大なコロナ対応で医療崩壊が起きる恐れがあるため、ノーロックダウン戦法を取ることを選択したようでもあります。
緊縮財政の影響で供給能力が棄損された状態ではまともな医療もできませんので、ここにも選択に迫られた事情があるということでしょう。
https://forbesjapan.com/articles/detail/35156/3/1/1

集団免疫作戦やトリアージ作戦が功を奏したのかわかりませんが、結果として、感染者数や死者数も減少しました。

「スウェーデン方式は人口あたりの感染者数や死亡者数が多いから失敗だ」との指摘もありますが、イタリアやイギリスよりも少ないという事実があり、また、第二波以降、中長期で見て結果的にどうなるかはわかりません。
 
画像をお借りしました→ https://challengingpappa.com/2020/03/02/swedencoronavirus/


また、上図の「集中治療中」と「死亡者数」のところを見ると、80代以上には集中治療が行われず死亡したことがわかります。実際にトリアージが行われていました。

スウェーデン政府の感染症対策の顧問であるジェセック教授は「ロックダウンは(感染者・死亡者数の)グラフの曲線を平坦にはできるかもしれないが、深刻な状態となる時を先延ばしするだけだ」と発しています。
https://president.jp/articles/-/36593

 

加えて、スウェーデン国立衛生委員会の局長であるオリビア・ウィッツェル氏は、3月中旬には「十分な医療用品へのアクセスが制限されているため、当局は生存する可能性が最も高い人々に対し資源を分配するための制度の準備をしている」と述べ、トリアージのガイドラインを準備していると発表していました。
https://sputniknews.com/europe/202003161078576623-sweden-prepares-triage-guidelines-amid-acute-coronavirus-situation/

藤井教授も自粛に反対しています。

「自粛には感染者数を減らす効果はほぼない」、または「日本では80歳以上が罹患しても10中八九は軽傷の症状だというデータもある。コロナと風邪は大差ないと言っても過言ではない」「僕はどちらかというと自粛しない緩和派で、明確にアンチ自粛派です」「死なないように生きるのなんて不可能。死ぬことを絶対に避けようとしているからいろんなものが歪んでくる」というような主張をしています。
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20200706/
https://www.youtube.com/watch?v=YcxykrtY8wQ

自粛やロックダウンをしても感染者を減少させる効果はあまりないため、マスクやソーシャルディスタンス等の防護策を講じ経済活動を続けるべきだ、という向きです。
(*この件については、私自身は判断を保留しています)

ちなみにユーロ圏では、2020年の第1四半期のGDPは大幅なマイナスでしたが、スウェーデンはプラス成長しています。
経済的ダメージによって失業者や自殺者を増加させるより、コロナ感染拡大による高齢死者の増加を許容する選択をしたともいえる状況です。
 
https://forbesjapan.com/articles/detail/35156/3/1/1

 

以上をもって、大西方式は、スウェーデン式や藤井方式と似ているとしました。
(*藤井先生方式の場合は「若者は死亡率が極めて低いのだから、死亡率の高い高齢者を中心に治療しろ」という向きですので、トリアージは取らないという方針のようです)


私個人は大西方式はもちろん、スウェーデン式や藤井式にも賛成できかねない部分が大きいです。というか浅学のため判断できません。
もし自分の親が罹患したらと考えると心情的には「延命させてくれ」と懇願するかもしれません。

しかし、例えばある医療現場で一台しかECMOがない状況下で、ECMOをつけても高い確率で死ぬ高齢者と、ECMOをつければ助かる可能性の高い若い患者がいたとしたら、それはトリアージするしかないこともわかります。

そして報道はされませんが、医療現場においては、このような選択に迫られることもあったかもしれません。

よく「医療か経済か」という議論がありますが、どっちも取るのが当然だとも思います。
しかし一方で、医療分野や経済全体の供給能力の限界がそれを許さない場合もあります。二兎を追いかけることが許されない、選択に迫られる場合もあるだろうことは理解できるのです。

おそらくすべての反緊縮派が賛同するはずですが、我々には「国には金があるんだから、全ての人を救うべきだ」との理念があります。
しかし供給能力不足だけはどうしようもないのです。

感染症が拡大したからといって、急に医療施設や保健所、医療従事者等の人材、または医療用器具などが作れるわけはないのです。

 

そして多くの人が、「第一波より第二波のほうが小さい」と漠然と考えておられるのかもしれませんが、例えばアメリカの場合は、第二波は第一波を優に上回っていますので、医療分野の供給体制が破壊されるかもしれないことも考えておいたほうが良いと思います。


出典: CDC(アメリカ疾病予防管理センター) https://www.cdc.gov/


コロナ対策ではなく終末期医療の現場であったとしても、若者の働き手という供給能力の不足がトリアージ問題となる可能性もあるでしょう。
この場合は急激に起こるものではなく、事前にある程度の予測が成り立つはずですが、私には、その時の対策の議論を避けることが理性的だとは思えません。


介護ロボットをいっぱい作る? 外国人労働者をいっぱい受け入れる? 少子高齢化を解消する?
私の頭ではいまいち即効性のある良い解決策が思いつきません。

究極的に言えば、「何があっても医療供給体制の拡充を図り、寝たきりであろうが終末期の高齢者の延命を図るべきだから、その他の産業のあらゆるサービスを削減してでも若者の労働力を高齢者医療にまわすべきだ、と自信を持って言うことができるのだろうか?」という問題にぶつかるのです。
大西氏が問いかけていたものはこういうことなんじゃないかと思いました。

(実際に計量分析をしたわけではないので、どの程度の労働力が医療分野で不足しているのか定かではありませんが)

だから議論する余地もなく、大西氏を優生思想だとかナチス呼ばわりするのは、とても論理的とは思えないのです。


だって、スウェーデンはナチスなんでしょうか?




以上、ご覧いただきありがとうございました。
cargo


追記:
このブログを途中まで書いていて、2日間くらいアップすることをためらっていました。
「またポリコレ至上主義者たちが押し寄せて非科学的見地から誹謗中傷の的とされ、辟易した気分になるのか…」と考えたからです。
でもある市議が、私の考えとほぼほぼ同じようなブログを公開していたので、私もアップしてみようと思いました。

 

追記2:

欧州の人口100万人あたりの死者数を調べました。

スウェーデンは比較的多いほうだけどスペイン、イギリス、イタリアよりは下。

ノルウェイ、フィンランド、デンマーク、ドイツよりは上です。

https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/death.html?kw=sweden%2CGermany%2Cfrance%2Citaly%2Caustria%2Cunited%20kingdom%2Cdenmark%2Cspain%2Cswitzerland%2Cfinland%2Crussia%2Cnorway%2Cnetherlands%2Cpoland