先日、日銀の新人事が決定されたのですが、総裁と副総裁の人事で、一人興味深い人物がいると立命館大学の松尾匡先生に教えてもらいました。

新副総裁の若田部昌澄さん

この人事信任の投票で、自由党議員は当たり前のように黒田総裁には反対しているのですが、若田部さんに全員賛成しているのです。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/vote/196/196-0316-v003.htm

これは私、気になります!!

そんなわけで本日は若田部さんを少しDigしてみます。


まず、若田部氏が監修した、もともと政治学者だったマーク・ブライス(Mark Blyth)氏が書いた経済学の著作があるのですが、その書評がおもしろかった。

 機能しない「ゾンビ経済学」?
 「債務が多すぎるから今のうちに削減しておこう」という主張は、欧州はじめ様々な国で叫ばれた。この手の緊縮策は、「痛みを伴う」「身を切る」といったフレーズと共に、日本の一部でも人気だ。だが、本書は緊縮策を「危険思想」と断ずる。答えは単純。緊縮策は、実際に機能してこなかったから。
 実証的に問題がある(理論的に死んでいる)のに、世に生き残っている経済思想は「ゾンビ経済学」と呼ばれる。著者は緊縮策というゾンビ経済学を、代替医療・えせ医学の比喩を用いて批判する。実際には金融政策や財政政策が効いたにも関(かか)わらず、効いたのは緊縮策なのだとうそぶく姿は、確かにえせ医学者らの振る舞いに似ている。
 必要なのは成長、緊縮は回復を妨げる。そう論証していく本書は、緊縮策に共感を示す人には劇薬だろう。だが求められるのは、覚悟や勇気より、確かな効果。増税と歳出削減が叫ばれる今、緊縮の意味を考え直したい。
    ◇
 若田部昌澄監訳、田村勝省訳、NTT出版・3456円
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2015121300015.html
緊縮策という病 「危険な思想」の歴史 [著]マーク・ブライス

 

以上は、荻上チキ氏(「シノドス」編集長・評論家)の書評であると思われますが、私はとても端的に核心をついた文章であると思っています。
それにしてもさすが荻上チキさん、政治学や社会学だけでなく経済学にも明るいのですね。
私は朝生の田原総一郎氏は早く引退し、荻上氏に後継を譲るべきだと感じていますが、みなさんはどう思われますか?
(TVではネオリベや改革派しか高く評価されないので三浦瑠璃氏のような人間がのさばる結果になってしまっているのですが,,,)


それでは、若田部さんの経歴から、どんな人物であるのか紐解いていきたいと思います。
 

▼ 若田部昌澄  Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%A5%E7%94%B0%E9%83%A8%E6%98%8C%E6%BE%84
【抜粋】
若田部 昌澄(わかたべ まさずみ、1965年 - )は、日本の経済学者。日本銀行副総裁。早稲田大学政治経済学術院教授。
ケンブリッジ大学、ジョージ・メイソン大学、コロンビア大学にて客員研究員も務めた。

専門は経済学説史であり、マクロ経済学ではないものの、リフレ派の学者として量的緩和の強化を早くから唱えていた[6]。インフレターゲットについて「日銀法を改正して、物価目標を入れ込むべきである」と述べている[7]。

日本経済について「経済成長が必要ないという主張は、本当に考えられない話である。日本は十分に豊かになっているというけれども、実際には名目GDP(国内総生産)が停滞し、日本は貧しくなっており貧困層も増えている。名目経済成長率が上がらないと、日本は財政が破綻するような方向にいかざるを得ない[8]」「名目経済成長率が上がれば、多くの課題が解決しやすくなる[9]」と主張している。

日本の財政については「大事なのは債務残高そのものよりも債務残高とGDPの比率である。財政支出を切り詰め増税をすれば、政府のGDP比債務残高が減るかといえば、そうはならない。財政を縮小すると不況がやってくるが、それから景気はよくなるというのが財政再建派のロジックである。しかし、不況で経済が縮小してしまうと、縮小がさらに景気の悪化を招きかねないため、税収が減少していって財政再建はうまくいかない公算が大きい」と主張している[10]。

原発について「経済活動のためにはエネルギーは必要であるが、経済成長と原発には具体的に何の因果関係もない」と述べている[8]。

TPP推進派であり、反TPP派である中野剛志の主張を批判しているが、中野の議論もきちんと経済学に基づいたもので、立つ経済学が違うのだということを説明している[11]。経済学者の森永卓郎は「国内市場の保護のために最も強力な手段は為替である」という点に関しては、若田部と中野の立場は一緒であると述べている[11]。

2015年11月、安倍晋三首相に、2017年4月に予定していた消費税率の引き上げの延期を提案した[12]。2019年10月に予定している消費増税も延期すべきという立場を取る[12]。

 

なるほど、TPP推進派というのだけひっかかりますが、私の好きなガチウヨの中野剛志・京大院準教授とは反目するわけではない,,,うんぬんと書いてあるので、このへんは注視していくべきなのでしょう。


次に若田部氏によるForbsの英語記事も翻訳、抜粋してみます。
 

 ▼ Why The Fear Of A Fiscal Crisis In Japan Is Overblown
    なぜ日本では財政危機の恐怖が爆発しているのか
Forbs NOV 23, 2017
https://www.forbes.com/sites/mwakatabe/2017/11/23/why-the-fear-of-a-fiscal-crisis-in-japan-is-overblown/#53b7209f34ae
【翻訳・抜粋】

アベノミクス第二の矢は財政出動だったはずだが、実際は13年以降は縮小し、増税することによって庶民から搾取し続けている

・実質賃金が低下しているにも関わらず社会保障費を上げていることが脅威となっている

・原因は政策立案者と一般市民の、財政赤字に対する過剰な懸念。 私が主張してきたようにこの緊縮財政が日本の科学技術力を枯渇させている。

・コノロンビア大ワインスタイン教授は、「日本は純負債対GDP比」が低く、日本の財政危機の可能性は低い」と説く。

・名目金利と名目成長率の間の格差をあらわすグラフ(この値が大きければ、日本の負債GDP比率は爆発的になる)は、一定で、非常に小さく、債務GDP比率は爆発しない。

・日銀の金融政策のおかげで、日本の名目成長率は名目金利を上回っている。 これは、日本の負債GDP比率が爆発的にならない理由が多い。

為政者と国民は財政危機を心配しなくてもよい。 代わりに政府は財政政策をより拡大すべきである。


要するにプライマリバランスより、「負債対GDP比(世界標準の指標)」を重視すべきで、それは特に危惧すべき状況ではないことから、緊縮財政に陥るよりは財政出動して景気回復すべきやろ、というような論理となります。

「日本の財政危機論は誇張だ」ということです。

Forbesの英語記事をもう一件。
 

▼ Japan Desperately Needs An Opposition Party That Understands Basic Macroeconomics
NOV 28, 2017 
日本は、基本的なマクロ経済学を理解する野党を必死に必要とする
https://www.forbes.com/sites/mwakatabe/2017/11/28/japan-desperately-needs-an-opposition-party-that-understands-basic-macroeconomics/#e08084c5eeb8
【抜粋・要約】

・昨年の総選挙で自民党が圧勝したのは国民が保守化したからだと語られるが、有権者は自民党に投票した理由は、アベノミクスによる雇用改善を理由にした傾向がある。

・対する野党政治家は経済学の基本的な理解を欠いている。経済政策を充実させれば自民党に勝てる可能性が高い。

・希望の党、民進党などの野党は慶應義塾大学の経済学教授・井出栄策の経済哲学を取り入れている

・井出教授の経済政策は、「日本経済はもはや成長することができないので、政府は所得の再配分を通じてリスクと不利益を共有しなければならない」とする成長悲観が基本的な前提となる。

・米国をはじめとする、日本よりも一人当たり所得の高い他の国々も強い成長を見せているなか、日本経済がもはや成長しないと考える理由は理解できない

・日本の若い有権者は成長ペシミズム(悲観主義)に陥ってはいない。彼らは単に彼らの幸福、収入、仕事の改善を望んでいる。

・弱い野党は民主主義に悪影響をもたらす。野党との強い競争がなければ、与党は政策を改善するインセンティブが少なくなる。日本は之まで以上に有能な野党を必要としている。

 

安倍自民党は圧勝しているが、日本の有権者は「保守化」などしていない。
野党が、アベノミクスに代わる正しい経済政策を掲げれば、有権者の支持も得られるし、失われた20年を脱することもできるだろうと鼓舞しています。


最後にもう一件だけ、こちらの日本語の記事を引用します。
 

▼ いろいろ変わっちゃったから、もう一度本当の経済の話をしよう――『本当の経済の話をしよう』刊行一周年記念
若田部昌澄×栗原裕一郎
2013.08.15 Thu
https://synodos.jp/economy/5221
【若田部氏発言を抜粋】

 「そうなってしまった(参院選に負けた)のは野党の弱さですよね。自民党の手中にまんまとハマってしまったという感じです。
それに、単にアベノミクス全体を批判するのではなく、増税だったり、第三の矢の有効性など、争点にすべきことはほとんど話題にあがりませんでした。典型的なのは民主党で、自分たちで推進したことだから増税には反対出来ず、「第三の矢」は自分たちと同じだから批判出来ない、という状況でした。」

「ほどほどのインフレで経済を成長させるというのは、諸外国では当たり前の考え方なんですよ。その下で環境問題や経済成長に関わるコストの部分、再分配や教育にも取り組んで行きます。まずは、経済成長が前提となり、その過程ででてきた問題をリベラル的な観点からフォローするという考えです。」

「アベノミクスについて簡単に解説すると、アベノミクスでは「三本の矢」と銘打ち、第一の矢に「大胆な金融緩和」、第二の矢に「機動的な財政運営」、第三の矢に「民間投資を呼ぶ成長戦略」の三本をうたっています。
第二の矢については、4月から補正予算がついただけですし、第三の矢である成長戦略にいたってはまったく動いていません。今、実際にやっていると言えるのは第一の矢だけなんです。第一の矢については私は高く評価しています。」

「安倍政権が発足してから一年半から二年後には実感出来るところまで回復すると思います。ただ、これも他の政策に影響を受けるので、消費増税をやると確実に回復は遅くなるでしょう。もし、増税に踏み切らないのであれば、けっこう早く達成出来るのではと感じています。円安が急激に進み、株価が急速にあがっため、今は予想よりも早回しで動いてますね。実際に物価も上がりはじめました。ドミノ倒しのように影響していくなら、最初のドミノを押す勢いが強かったと言えるでしょう。」

「物価だけが上がって給料は上がらず庶民は生活が苦しくなるだけ、という事態はない?という心配する人もいあるが、それはないでしょうね。アベノミクスの大前提は、働きたいけど働けない人がいて、使われるべきだけど使われていない設備・機械があるということです。つまり、デフレによって経済が停滞していただけで、余力はまだまだあるということが大前提なんです。
 もし、そういった余力がないと、賃金が上がらないので、物価だけが上がってしまい、いわゆる「スタグフレーション」になってしまいます。」


なるほど、4年半ほど前の若田部氏の所感ですが、ほとんどあたってますし、僕たちともほぼ同じ経済政策を支持していますね。

ひとつだけ予想が外れたのが、最後のほうの「物価だけが上がって給料は上がらず庶民は生活が苦しくなるだけ」という状態にはならない、といったところ。

実際には失業率改善を除けば、「スタグフレーション状態」です。

これは安倍さんが、この5年の間に金融市場のみにお金を流し、実体経済には財政出動しない政策、つまり緊縮財政に転換したからです。

主にマネタリストがこの罠に陥りやすいようですが、中央銀行がどんなにお金刷って市中銀行に渡しても、実体経済の需要が冷え切っているので、市中銀行は実体市場に投資できず、金融市場にお金を投じてしまうのです。

お金が実体市場に出回らないと、人々の消費も所得も増えないし、デフレ脱却なんかできません。

市中銀行が投資しないのであれば、政府が財政出動するほかないわけです。

ところが、自民党の財政規律派ばかりか、左翼を中心とするマルクス経済主義者たちやマスコミも「国の借金が1000兆もあるのに、無駄遣いして将来にツケを回すべきではない!財政規律せい!」と豪語している。

いやいや、上記の記事でも若田部氏が語っているように「諸外国のリベラル政党はインフレで経済成長させるのが大前提」「政府は財政政策をより拡大すべき」「日本の財政危機論は誇張だ」ということなのですが、どうも家計と国家財政のメカニズムを混同してしまっているようなのです。。

このような「積極財政」の考え方はコービンをはじめとする欧米の左派政党では常識であり、、また日本でも枝野幸男氏や山本太郎氏、立命館大の松尾匡教授、藤井聡京大院教授などが提唱し続けています。


例えば現状の日本の財政状況において財政規律がそれほど重要ではないとする証左として、実質的永久債(ほぼ永遠に借り換えできる国債のメカニズム)が挙げられると思いますが、この実質的永久債のメカニズムに関しては京大院教授で内閣参与の藤井聡先生と暗黒卿・高橋洋一氏が説明しているので、ぜひ参考に。
https://www.youtube.com/watch?v=WTSEgi2kmK8
高橋洋一氏は、あまりにも醜悪なアクロバティック安倍擁護と、ネオリベ特有の自画自賛から嫌いな人も多いだろうけど(笑)、経済理論についてはけっこうまともだと思います。


とにかくひとりでも多く積極財政派を増やし、デフレ脱却、格差縮小しなければいけません!


そんなわけで、本日はここまで。

ご覧いただきありがとうございました。

また次回。

cargo



PS①
官邸前、議事堂前でデモが頻発しています!
私も時間あるときは行きますが、皆様もぜひご参加を!
https://bud-jp.com/index.html
https://ja-jp.facebook.com/public4f/
http://maga9.jp/demoinfo/
http://www.mkimpo.com/minibbs/webcal/list.cgi?form


PS②
▼ 植草 一秀×マット安川: どうなる?日本経済!アベノミクスとトランプノミクス
2018年3月30日
https://www.youtube.com/watch?v=gMEhMq2kfu4

 


PS③


https://i.imgur.com/TPlIjCK.jpg
これじわじわくるw 尊師をマンセーしてればいつか必ず自分も税金・公金のバラマキ対象になる日が来ると信じ、エンゲル係数が上がろうと実質賃金が下がろうと、尊師の嘘と虚構をアクロバティック解釈し続ける狂信者達を想像してしまいますw