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危機に瀕するミュージック・インダストリー :一足お先にTPP状態① ~ストリーミングというABCD包囲網
(* 本シリーズ、長くなるので全5回くらいにわたって続けます)



どうも。

先月は音楽業界にいろんな事件がおきました。

LINEと Appleが、Spotifyのような定額ストリーミング配信サービスを始めた(始める)というのです。

そして、アーティスト側とグローバルIT企業の間でひと悶着が、という場面もありました。



■Apple Musicからテイラー・スウィフトがアルバム引き上げ 「アーティストに3カ月支払いなし」に抗議
ITmedia ニュース 6月22日(月)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150622-00000002-zdn_n-sci

【抜粋】
スウィフト自身はアルバムセールスも好調で、(3カ月の支払いがなくても)問題ないが、初めてシングルをリリースする新人や若い作曲家、「Appleのクリエーターと同じように懸命に働く」プロデューサーにとっては大きな痛手だと主張する。

 「Appleが(Spotifyのような広告ベースのサービスではなく)有料のストリーミングサービスを提供することは素晴らしいと思います。
(中略)また、この素晴らしい企業が無料の3カ月間、アーティスト、作詞作曲家、プロデューサーに支払うだけの十分なお金を持ち合わせていることも知っています」(スウィフト)

 「Appleがこのポリシーを変更し、この件で大きな影響を受けるであろう音楽業界の人々の気持ちを変えることはまだ可能だと、敬意を込めて提言します。私達はiPhoneを無料にしろとは言いません。
どうか、私達に音楽を無料にしろと言わないでください」とスウィフトはブログを締めくくっている。

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http://www.gizmodo.jp/images/2015/06/150623taylorswiftvstimcook.jpg


テイラー・スウィフトさんの抗議の結果、アップルさんは寛大にも、「無料期間中であってもアーティストに対する支払いは行う」と公言してくれました。


これには、我々のような下々の者達も「危機に瀕するミュージック・インダストリーに現れたジャンヌ・ダルク様やー!」と絶賛し、また、テイラーさんも自身の楽曲をApple Musicで配信することを承認することとなりました。



■テイラー・スウィフトさん、アルバム「1989」のApple Musicへの提供を承認: ギズモード
2015年06月27日
http://audioon.blog.jp/archives/1032399845.html



ところが、その後思わぬ続報が届きました。



■アップルvsテイラー・スウィフト騒動は芝居。パンドラ創業者が怒涛のツイート : ギズモード・ジャパン?
http://www.gizmodo.jp/sp/2015/06/vs_17.html


ローンチ直前のApple Musicを、宣伝するための”炎上型ステルスマーケティング”であった、とパンドラ創業者が指摘したのです。

つまりテイラーとアップルがグルだったというわけです。




この件、僕には真相はわかりませんし、また真相が明らかになることもないのだろうと思います。

ただ、言えることは、音楽がタダ同然になってしまったという事実には変わりなく、アーティストにとって大ピンチであることも変わりないということです




ここ最近の「定額制音楽サービス」をめぐる動きを、いったん以下にまとめておきます。

■定額制音楽サービスの新潮流ーーApple Music、Spotify、AWA、LINE MUSICは何を変えるか?
http://realsound.jp/2015/06/post-3537.html
【抜粋】いま、日本で「定額制音楽サービス」への注目が俄然高まっている。かねてから噂されていたアップルの「Apple Music」発表、「AWA」と「LINE MUSIC」の開始、Spotifyの新たな動きなど、この1カ月で一気に時計の針が動き出した。タイミングが重なった各社の動向をまとめながら、定額制音楽サービスのトレンドを考えてみた。

■今晩発表予定のApple Music、日本でもサービス提供へ!
http://iphone-mania.jp/news-74040/
【抜粋】新サービスは「Apple Music」の名称とされ、月額10ドル(1,250円)程度で約2,000万曲が聴き放題となる。

■ LINE、音楽聴き放題開始=アップル対抗、ソニーも出資
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150611-00000102-jij-bus_all
【抜粋】「LINE MUSIC」は、150万曲以上の楽曲が月1000円で聴き放題となります

■日経: 定額制音楽配信「AWA」の衝撃、舞台裏をトップが語る
エイベックス松浦社長、サイバーエージェント藤田社長インタビュー
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150529/281799/?rt=nocnt

■電通デジタル・ホールディングス、定額音楽配信サービスのSpotifyに出資 | TechCrunch Japan?
http://jp.techcrunch.com/2015/06/15/150615spotify/

■黒船音楽配信サービス・Spotify上陸へ  音楽産業の鎖国解くか 2013年06月25日(Tue)  WEDGE編集部
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2911?page=1

■日本は定額制音楽配信サービスの”黒船”が来港出来ないままの”鎖国”である
http://face.hateblo.jp/entry/2015/02/11/081112

■定額音楽配信が音楽市場をさらに縮小させそう : アゴラ
http://agora-web.jp/archives/1644882.html

■定額制オンデマンド型音楽配信サービス「LINE MUSIC」
公開12日目で300万ダウンロード、累計楽曲再生数1億6,000万回を突破
http://audioon.blog.jp/archives/1032181707.html
【抜粋】LINE MUSICも今はどんだけ再生されてもアーティストには1円も入らないです。




定額音楽配信サービスは、正直言ってしまって、作り手にとっては「やんわりとした死刑宣告」に等しい。


一応、ぼくは業界関係者として、今回のLINEとAppleの定額ストリーミングサービスの件は、情報解禁となる一ヶ月以上前から知っていました。
(今後さらにもう一社、某巨大IT企業が参入する予定となっていますし、Spotifyも日本でローンチします)


今までの作り手は、iTunes等で一曲約150~200円で販売し、その実入りが、数円~130円(その権利者の契約形態や原版権保有の有無による)でありましたが、

それに対し、定額制ストリーミング方式では、一再生が約0.03円~0.3円とかになってしまいます(笑)


あるアーティストにとって、一再生が0.1円であれば、100回再生されても10円、1000回再生されても100円とかって感じになります(原版権保有してないアーティストの実情はもっと酷い)。

「一生懸命作った曲が100万回も再生されたから10万円になったね、オレらバンドメンバー五人で割ると一人2万円だね! 儲かったね!」「一年で10曲くらいは作れるから、年収20万円だね!」なんて喜ぶアーティストはいないでしょう。


Youtubeで100万回程度再生されているアーティストが、どの程度の知名度であるのか想像すると、100万回も視聴されるためには、すさまじい努力と資本力が必要とされることは自明だろうと思います。



「いやいや、"ダウンロード購入"と"ストリーミング再生"では、その質がちがうでしょ? "ダウンロード購入は"一回で終わりだけど、"ストリーミング再生"は一顧客が何回も再生するってことじゃん。 100万回再生なんて余裕で行くっしょ!」と言う人...、現実認識が甘いですよ...。


Youtubeの広告収入は、アフィリエイター(動画制作者)に対する分配が、一再生につき0.05円(今年頭までは0.1円)です。

定額制ストリーミング方式と、収益額がほぼ同じということです。


つまり、、、グローバル資本家や経営者サイドは、Youtubeのアフィリエイターと、定額制ストリーミング発信するミュージシャンを、並列化して見ているということなのです。

ストリーミング時代においては、どんなに質の高い音楽を作ろうが、アフィリエイターと同じ額しか稼ぎ出せません。

シロウト芸を披露するYoutuberと、プロのミュージシャンの存在価値が同等になったとも言えます(笑)


Apple MusicやSpotify、Line Musicは、この価格崩壊を受けて、”定額制音楽配信サービス”を始めたということだろうと推測できるわけです(誰もこの真意をつかないけど)。


そして、二年後には、日本国内の音楽配信業の半分以上が、この”定額制”に移行しているでしょう




というか、普通に義務教育レベルの教育を受けた人間ならすぐに気づけるはずだろうけど、これはミュージシャンたちにとって、まったくの「無理ゲー」となります(^^)/


もしあなたがミュージシャンで、ミスチルでもSekai No Owariでもなかったら、この驚愕の数字を前にワナワナ震えて放心状態となるはずですし、

さきほどの「死刑宣告」という言葉が比喩表現でもなんでもなく、事実に即した表現であることもご理解いただけるかと思います。


今まで以上に急激なデフレスパイラルが生まれ、ミュージシャン、作詞作曲家、エンジニアなど、そのへんの人たちは、一部の有名人を残して、かなり死ぬ予定となるでしょう。


もちろん、ユーザーのみなさんにとっては、タダ同然で音楽が聴けるので、うれしいことですし、
そして当然、配信サイトを運営するIT企業にとっても、利益を叩きだせるので、良い事だろうと思います。

本件に関して、企業から依頼を受け記事作成を請け負うメディアは、良いことしか書きませんので、業界全体が盛り上がってるかのようにも見えますが、その影で、レコード会社やプロダクションは薄利多売モード、作り手は憤死という構図になるのかと思います。



別にぼくは「音楽家の生きる権利を奪うことになるので、定額制音楽サービスを利用しないでほしい」などと言うつもりも、グローバルIT企業を非難するつもりもまったくございません。


”悪貨は良貨を駆逐する”とも言うように、一度でも安価なもののメリットを享受してしまったら、誰も後戻りはできないのです。




我々クリエイターを含め誰にも、”この流れを止めることはできない”ですし、

大資本と業界自身が作り出したこのパラダイムシフトを拒否することもできません。





この手の話をしていると、「愚痴はやめろ」、「甘えだ」などと言う、新自由主義マインドの人がでてくると思います。

「今までの2倍3倍と働けばいいじゃないか?」という程度なら、我々もギリギリ許容できるでしょう。

でも「今までの10倍100倍働かなくてはならない」としたら、どうでしょう?



まともな神経してたら、給料が100分の1とかになることがわかってるのに、こんなこと続けられませんよ。



それでも多くのミュージシャンはバカだから続ける。


多くのミュージシャンにとって、音楽は自分の命より大切なものだから続ける。


どうしようもなく好きだから続けてしまう。







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http://u-note.me/note/47485749

10年以上前から、このグローバリズムによる”強者総取り”の流れは生まれていましたが、法による規制の少なかった音楽業界だったからこそ、

他業種に先んじて「セルフTPPを課してしまった」という状況なのだと思います。

というかもはや"セルフABCD包囲網状態"です。



当たり前のことですが、この件に関しては、クライアントや取引相手を非難することにもなりかねませんし、

また、ネガティブな発言をすることになってしまうことで、それによって虚栄で成り立っているアーティスト達や業界のイメージを崩すことになり、商売に支障が出ることにもなるので、ほとんどの音楽関係者が口を開こうとしません。

だけど、問題提起なくして、音楽に未来はないように思えるし、なによりHappyな社会にならないと思います。



法的規制やセーフティネットの少ない音楽業界において、グローバルIT企業はただただ市場原理にのっとってビジネスしてきただけだし、
対して国内のレコード会社も"レコ直"などの策を講じてがんばって市場を守ろうしてきてくれたけど、、、

結果として、2015年、とうとう音楽の価値がタダ同然になってしまいました。





今音楽業界で起こってる惨劇が 今後、出版業界やアパレル業界などでも繰り返されるのだろうと予測できます

IT業のビッグバンやグローバリズムの拡充に対して、後手後手になる法的規制(やっと去年末になって欧州で"Google法"が施行されたほどです)ではもう対処しきれないようにも思えますし、そこにさらにTPPなどの自由貿易協定システムが導入されると、他の業界にも似たような惨劇が起こりうるという理屈です。


「時代の流れだね」と一刀両断してしまえばそれまでだけど、これは、ほんとうにまずい(笑)



この件に関して、クリエイターサイドの言い分を擁護するような意見も多少ありますが、そんなのはグローバル化する一連の流れの中における予定調和の一環にしか過ぎないし、なんの変革ももたらさないのではないでしょうか。

しかも、ぼくの知る限り、この手の問題提起を発信しているメディアは、外資であるフィナンシャルタイムスの一社のみで(笑)、そして結局そのFTの社説の帰着点も、問題をレコード会社のせいにしたあげく、「この流れは止められないので、このままやり続けるしかない」といった消極的なもので、ガス抜き程度にしかになっていません。

■[Financial Times 社説 ] 無料配信で打撃受けるミュージシャン : 日経
(2015年6月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO88405460T20C15A6000000/
【抜粋】
苦労した仕事に対する正当な対価を得ていると満足しているロックミュージシャンはほとんどいない。
(中略)
所属レコード会社から受けた待遇に抗議して大物芸能人が顔に「奴隷」という言葉を書き、世に触れ回るといった実力行使ができる業界はほとんどない。
(中略)
悪者はだれだ? 
(中略)
レコード会社の利ざやは、売上高が急減しているにもかかわらず、比較的堅調さを維持している。
(中略)
問題の修復は市場によってもたらされなければならない。それはつまり、デジタル音楽配信の問題に対する解決策を見いだすということだ。テイラー・スウィフトさんはストリーミングサービスを信頼していないかもしれないが、それが最善の策であることに変わりはない。
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ということで、どうすりゃいいのか自分達で考えるしかないんですよね。

以下ちょっと長くなりましたが、音楽家にとって、このような地獄に至った経緯、その傾向と対策をまとめたいと思いました。

おそらく、他業界のひとにとっても、反面教師として、お役にたつのではないでしょうか。


結論から先に言うと、「どんなに残酷な世界であってもやるしかない!」と、”進撃の巨人”のセリフのような抽象論になってしまうかもしれませんが、

じゃあどうやってやるの?と問われたとき、 それを見つけるためには過去の失敗と現状から読み解くしかないのだろうと思います。


「もうダメかもしれない、今度こそ本当にダメだろう」と思いながらも、「やっぱりヤマちゃん辞めへんでー!」と奮起するしかないのでしょうし、

なんとかアイデアをひねり出して、現状から”EXODUS”するしかない、というのが僕からの腹案となります。




★ 危機に瀕するミュージック・インダストリー :一足お先にTPP状態 ~ストリーミングというABCD包囲網  : 目次


1) 序文:音楽がタダ同然になっちゃった(定額ストリーミング) >本記事

2) いわずもがなの違法ダウンロード(デジタル化の光と影)
http://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12046931592.html

3) グローバル化とIT化の荒波(暇つぶし業界に黒船来襲)
http://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12052421305.html

4) 文化的オワコン化 

5) 対処療法による焼け野原化と強者総取りシステムの拡充

6) 音楽関係者=コスモポリタンが陥る新自由主義

7) われわれ"河原乞食"の進むその先




本シリーズの目次を見ただけでもピンと来る人もいるかもしれませんが、続けさせてください。


ということで、長くなってしまったんで、続きは次回にて!(ツ)/


では!