そんな時代にIT企業が生き残るためには、「無料」というエサでできるだけ多くの消費者を釣り、その中の一部の消費者に「有料」の商品・サービスを購入してもらうことで、ビジネスを成り立たせる「FREE戦略」をとる必要がある。デフレが進む日本では、特にこの「無料」というキーワードがかなり刺さっているようだ。
ただし、このFREE戦略は、実は日本以上に中国で有効に機能する可能性が高い。一般的に中国人は、庶民から富裕層まで、購入する商品・サービスの「価値」と「価格」のバランスにかなりうるさい。
そんなカネにうるさい中国人向けのビジネスにおいては、「無料」というキーワードが日本人以上に“刺さる”からだ。
日本よりも「FREE」化が進む中国
無料でお客を誘い込む悪徳美容室も
たとえば、中国でも快進撃を続けている化粧品販売のDHC。中国参入当初は、中国市場での認知度がほぼゼロからのスタートだったが、「無料サンプル」の配布などで一気に知名度を上げ、収益も急成長を続けている。
現在、中国のC2Cサイトで圧倒的なシェアを持つ淘宝網(タオバオ)も「FREE戦略」で成功した。サービス開始当初は、競合の易趣網(eBay)にかなり先行されていたが、「利用料金無料」を旗印にして、あっと言う間に易趣網(eBay)を抜き去ることに成功した(今では、易趣網(eBay)も利用料金を無料にしている)。
これらの例からもわかるように、中国ビジネス、特に消費者向けビジネスにおいては、FREE戦略が有効に機能する。逆に、中国人の「無料」好きを逆手にとり、騙す輩もいるくらいだ。
たとえば、「悪徳美容室」の例が挙げられる。無料でキレイな髪形にするという誘い文句で客を呼び込み、実際にはそのままでは帰れないようなひどい髪型にして、「まともな髪形にして欲しければカネを払え」というヒドイ手口で消費者を騙す悪い美容室もある。
「天下没有免费的午餐 」(無料のランチなど世の中には存在しない)」という言葉もよく使われている中国では、「商品、サービス提供者」と、「消費者」の間で「無料」をキーワードとした熾烈な駆け引きが日々行なわれている。
有料化での挫折を教訓にして
FREEモデルを確立したIT企業
そんななか、中国のインスタントメッセンジャー(IM)市場で圧倒的なシェアを
持ち、5億人以上が利用していると言われている「QQ」を提供するTencentは、「消費者向けFREE戦略」で成功した企業の代表例だろう。
Tencentが、当時欧米を中心に流行り始めていたIMサービスの中国ローカライズ版ソフトを開発し、「無料」で公開したのが1999年。その公開後9ヵ月で100万人の会員を集め、その後も驚異的なスピードで、会員を増やしている。Tencentの2009年の売り上げは、前年比73.9%増の約124億元。今は誰もが認める中国有数のIT企業の1つとして君臨している。
同社も、無料だったQQを有料に切り替えようとした時期(02年)があった。サ
ービス会員数の増加に従って一緒に増えていくインフラ整備などのコストの一部を賄
うためにQQを有料化することは、無料でサービスを提供しているTencentの理屈としては極めて合理的だと思う。
さらに、仮に会員1人当たり1元でも徴収することができれば、膨大な会員数を持つQQの場合、ものすごい収益になる。そんな思惑もあって決断したQQの有料化ではあったが、同社はすぐにそれを撤回し、無料でサービス提供を継続すると発表した。その理由は、有料化を知ったQQユーザーからの猛烈な反発にあったからだ。QQ有料化に激怒したユーザーは、MSN、Yahoo!など、競合のIMサービスに乗り換える動きを見せた。
このように、どんなに消費者に欠かせない存在になったサービスであろうとも、なかなか「有料化」に踏み切ることはできないのが中国だ。日本人とは異なり、元来既存のモノにロイヤリティが少ない中国人の場合、「無料」でのサービス提供を止めた途端にお客は逃げて行く。
そこで、無料でのサービス提供を続けていくためにも、何らかの形で収益を上げる方法を探ることになる。その方向性としては大きく分けて2つある。