ミイラ取りがミイラになる

相互合意に基づき、経営・社員に対して、時に耳に痛いことにも苦言を呈するご意見番としての内部監査役が責務(役割)だった筈なのに、いつしかそんな役割としての合意も忘れ去られ、社内的に「アンチ」との評価を受けるようになってしまい、意味もなく忌み嫌われるようになってしまったことから心を病んでしまわれたご相談者の方との長きに渡るセッションが終了を迎えることになりました。

ご相談の詳細内容を綴ることは出来ませんが、問題の背景の原因を紐解いてみると、
同調圧力」・「沈黙の螺旋仮説沈黙の螺旋理論)」のキーワードに辿り着くことになりました。

体調も心姿も良くなったご本人から、意識・無意識を問わず、加害者にならぬための反面教師として、注意喚起の意味での関連記事を綴って欲しいとの強い要望を受け、かなり 無駄 に 長いのですが、お手透きの時にでもご一読願えれば幸いです。




同調圧力( Peer pressure)





何が切っ掛けだったのかは記憶にないのですが、数年前からマスメディアで頻繁に目にするようになった言葉に「同調圧力( Peer pressure)」があります。

同調圧力とは、「地域や職場や活動組織などの特定の集団において、意思決定や合意形成を行う際に、少数意見を持つ者に対して、暗黙のうちに多数意見に合わせるように誘導すること」を指す意味の言葉となります。

ダイバーシティ(diversity)の多様性の受容が叫ばれる昨今にあり、同時に反対語の意味にも近い同調圧力にもスポットライトが当てられている感もありますが、同調圧力は、少数意見の抑圧に通ずる民主主義や多数決の問題点として副次的に語られることも少なくなく、「他者と異なる見解を持つこと自体には何ら問題は無い筈なのに、多数意見の方に誘導し態度変容を迫られる場合がある」ことが問題視されています。

マイノリティ (少数者・少数派)の見解を持ち、異を唱える者に対する脅迫や、恥の感覚の刷り込み、常識を持たぬ変わり者扱いとする印象操作 etc. 場合によっては「一部の者の足並みの乱れが、全体に迷惑をかける」などと主張し、少数意見のデメリットを必要以上に誇張し、同調圧力をかけてきた集団組織から社会的排除が行われるなどの行為等もあり、同調圧力は、集団心理を悪用した言論統制や人権侵害にも繋がり、悪しきマインドコントロールの危険を孕むものだともいえます。

民主主義において、ルールとしての多数決はあったとしても、それは全体としての判断を合意形成としてまとめるための手段であり、マジョリティ(多数者)が全ての正義ということなどにはなる筈もなく、マイノリティ(少数者)の意見も他視点の考え方として受け入れ、相互尊重に基づき認め合う前提に立つことが大切なことであり、同調圧力による弾圧的な態度変容を迫ることはある意味、暴力行為といえ、意識・無意識の加害行為として諸注意が必要になるといえます。







沈黙の螺旋仮説(沈黙の螺旋理論)





善し悪しは別として、同調圧力を受けぬための自己防衛のための手段として、
自分以外の周りの全体傾向としての見解確認が出来るまでは、自分自身の意見表明をしない対応がクローズアップされるようになりました(消極的参加者)。

沈黙の螺旋仮説沈黙の螺旋理論)は、ドイツの政治学者エリザベート・ノエレ=ノイマン (Elisabeth Noelle-Neumann)さんが提唱した「政治学とマスコミュニケーションにおける仮説(理論)」のことです。

沈黙の螺旋仮説 ... ある物事についてマスメディアにより多数派と認識される世論が形成されると、そのような世論が同調の圧力となってさらに大きく世間を席巻していき、少数派意見が螺旋状に圧殺されていくといった世論の収斂が起こるモデル理論のことで、この循環過程によって公的な表明と沈黙が螺旋状に増大・縮小していく様から「沈黙の螺旋仮説(沈黙の螺旋理論)」と名づけられました。


沈黙の螺旋仮説 ... 世論の動向形成の大きな流れ 例

仮説1.人間は社会的な存在であり、ひとは生存本能的にも社会・組織内で孤立することを恐れるため、周囲の環境や社会の動向を観察し、そこから孤立することを避けようとするものである。

仮説2.「世論」形成の過程において、人々は周囲の意見や社会の動向を観察し、自らの意見が多数派であると思われる場合にはそれを積極的に公表するが、少数派・劣勢であると思われる場合は、社会的な孤立を恐れて、無根拠に沈黙することを選ぶ傾向がある。

仮説3.多数派とみなされる見解は声高に話され、少数派とみなされる見解は沈黙され続けるという環境循環が起き、社会において多数派の見解は大きく顕在化し、少数派の見解は小さく形成されるという「世論」が構成されていくようになる。


マスメディアは、この循環過程のなかで、人々が周囲以外の社会や環境を観察する際の情報源として重要な役割を果たし、且つ、大きな影響を与えることになります。

また、マスメディアは、「複数のメディアの表現内容の類似(共鳴性)」、「情報伝達の繰り返しの影響(蓄積性)」、「広範囲への影響(偏在性)」という、人々の環境認識に影響を与えやすい条件を持っており、その結果として、人々のメディアへの選択的接触が起こりにくくなっており、社会的情報や認識の入手はマスメディアを通じてするという方法論に依存しており、マスメディアが提示する「世論」像が人々の間に広がることで、その情報を基準とした選択判断が起こり、結果としてその「世論」像が現実化していくという点において、マスメディアは社会生活上に大きな影響・浸透力を持つものだといえることになります。


* 重 要 *
上記に綴った「マスメディア」の言葉を全体・組織集団 等の言葉に置き換える ことが可能で、ここではそれを前提にして綴っています。

また、沈黙の螺旋仮説(沈黙の螺旋理論)の沈黙の当事者となることは、本来の自分を抑え込み無理に自己否定を行うことでもあり、意思に反して環境循環に飲み込まれやすくなることから、結果としてストレス発生に繋がり、呪縛のように逃れ難くなってしまう可能性が高まることから諸状況には注意が必要になるともいえます。





解決(克服)方法




同調圧力が顕在化する状況のなかでは、沈黙の螺旋仮説が現象として現れてきます。

活性化された全体・組織集団というものは、より多くの言葉・見解が開示・検討されたなかから、最適解を導けるものであり(=組織判断の柔軟性)、目指すべき姿はここにあり、そのためにはダイバシティーの多様化する価値観の受容を前提に同調圧力を排除し、沈黙の螺旋仮説が起きないようにすることが大切なこととなります。

そのために沈黙の螺旋を克服する一つの方法として、議論進捗の中で、多数派にあえて反対する「悪魔の代弁者」という役割担当者を用意して、組織活性のために機能させることが有効だとされています(理想的には、参加者全員が適正なディベータ―となること)。

このような機能を担う立場を設定することで、グループ内の他の参加者も多数派に気兼ねすることなく自由に発想し、見解を述べることができるようになり(評価に帰着しない意見表明が出来る環境整備:他者尊重イズムが形成され、評価を気にせず自己表明がしやすい組織風土)、より高い生産性が期待できるようになるとされています。

「悪魔の代弁者」とは言わずも、組織がより良い強さを持ち結束するためには「嫌われ者・悪者役が必要だ」ということもあり(⇦ 対内的 : ※対外的には、共通の目的設定よりも、共通の敵を創り出す方が簡易的にはまとまりやすい)、役割としてこれを担わずとも良い組織土壌を作ることが大切なことに繋がることになります。

同調圧力も沈黙の螺旋仮説(沈黙の螺旋理論)の状況も排除して、相互尊重精神に基づき、少数意見にも耳を傾け、対応考慮が出来ることは柔軟に取入れるようにしていくことが個人・組織の両者にとって大切なこととなり、話しはチョッと逸れますが、これこそが適正な民主主義(組織運営)の姿だといえます。



はじめにもどる ... 閑話休題 ...



ご相談の開始の時は休職中だったのですが、
経過時間のなかで離職をする判断となり、その後、
通院と自宅療養が長く続く状況となっていました。

在職中に組織上の悩みがあっても、
離職をすれば悩みから解放されるともいえますが、
それは同時に悩む権利(問題解決の権利)を失うことでもあり、所属組織に対するロイヤルティーを高く・強く持っていらっしゃる真面目な方は、組織を辞めても「べき論」を持ち続け、元の所属組織があるべき姿に対する思いを抱き続けてしまうことが少なくありません。

個人が抱えた問題は、離職行為だけでは片付かぬものも間々あるもので、悩みの問題解決には、その先に横たわる深層の変容が伴わなければ、暫定的に身の周りのシチュエーションを変えただけの誤魔化しにより、問題の先送りとなってしまっているだけのことも少なくありません(環境変化の好転利用は可能です)。


組織の中で孤立を感じてしまうことは言葉以上に辛いものですが、ご相談者の方は、在職時には「理解・協力者として、同じ目的に邁進する仲間と思える人の存在を認識すること」が出来ずに過ごされていました。

ご意見番の立場・役割を踏まえ、是々非々の中立性を機軸姿勢としていたため、社員諸氏には一定の距離感を以って接することを是として捉えて日常を過ごしていたのですが、結果としてこれらの行為が味方としてのものではなく、敵としてのものとしての誤解を生み、その誤解がさらに別の誤解を生むような負のスパイラルに堕ち込んでしまっていたのでした。

同じ目的達成のためにより良くを求めた苦言が、非難や否定として捉えられ、仲間としての行為としては認識されず、敵との認識・扱いを受けることになったのですから、仕事に邁進すればするほど自分自身が傷を負うというなんとも矛盾に満ち溢れた不幸な状況でもありました。


結果、組織内の認識を改めることが出来ず、「なぜ」の言葉を抱えたまま心を病み、心と身体に変調をきたしてしまうことになり、紆余曲折はあるも結果として組織を離れることになったのでした。




顛末 ~ 問題解決の切っ掛け




「徹底的に自分自身を見つめ直す振り返りがしたい」と仰るご本人の要望に基づき、通常のセッションではなく、記憶のなかにある各シーンについてディベートを行う役目を担い、記憶されている出来事の想い出と論理と感情の整理にひとつづつ向き合うことになりました。

振り返れば気が遠くなるような状況でもありましたが、徐々に心の柔軟性を取り戻していく兆しはあるものの、ギリギリの極のお話となると元来の真面目さが自己防衛を強化するように顔をもたげ、べき論に帰着してしまうようなことを繰り返してもいました。


セッションが終了となったのは、同じ会社を辞めた元社員の方からの1本のメールを受け取ったことからでした。

在職中には分からなかったが、離職をして他社に勤めてみたら、ご相談者の方が必死の思いで伝えられていたことにやっと気づくことが出来、当時、あまりにも失礼な言動・態度をとってしまっていたことを振り返り、お詫びと共に感謝の気持ちを伝えたくて連絡しましたという内容が綴られていた連絡でした。

その後、離職者・在職者織り交ぜの同期会のような席に一緒しないかと誘われ、他の方々からも同じような話しをされ、心に響く感謝を伝えられることになりました。

これらのことが切っ掛けとなり自己効力感に対する疑心暗鬼が収まりはじめ、オンタイムでの成功を収めることは出来ませんでしたが、自分の歩みに反省点は数々あれど、以後に対しては自信を取り戻すことが出来たと言えるまでとなり、これでもう大丈夫だとしてセッションを終了する運びとなりました。


この出来事は、理解者・協力者としての仲間の存在の重要性を物語ることだといえ、物事が上手く進捗するための重要なポイントであることを改めて教えてくれるものでした。



組織に渦巻いていた
無意識の加害者よる犠牲者の誕生



問題解決のための「悪魔の代弁者」というのは
論理的に間違いはありませんが、
実態としてより良く機能させることは
一長一短でできることではありません。

肝心なことは、
自分自身・組織全体状況に対する「気付き
であり、このキャッチアップが出来た時に
柔軟性をもって解決に向けた対峙・対応が出来るか
否かが組織力として問われることになるのかと思います。

そのためのチェック項目として、同調圧力と沈黙の螺旋仮説の状況を見つめてみて欲しいと思いますし、自分自身が無意識の加害行為を行っていないかも同時に見つめてみて欲しいと思います。



そして綺麗ごとではなく「悪魔の代弁者」にならざるを得ない場合は、絶対に孤立無援な状況に己を追い込むことはせず、必ず理解・協力者の伴走を必須とすることを忘れずに願いたいと思うのでした。





意識的な加害者は、論外であり、
排除する必要がありますが、
無意識の加害者になってしまうことは、
諸注意を払うことで回避することが出来ます。


時に傷を癒すことは出来ても、傷跡は消えず、
一度失った時間を戻すことは出来ません。
たとえ後悔と反省と懺悔をしてみても
加害の責任など簡単に取れるものではありません。


「同調圧力」も「沈黙の螺旋仮説」も「悪魔の代弁者」も
本来はいらぬもの ... 無用な被害者をださぬためにも、
無意識の加害者にならぬように自他を見つめて欲しいと思います。


日々を笑顔で過ごすためにも、これらのことを
心と頭の片隅にそっと置いておいて欲しいと切に願います。



相互尊重と理解を基本とする柔軟な心姿を ...





付記 >>> ロシアのウクライナ侵攻・テニスの加藤未唯選手の失格騒動・タレントのryuchellさんの訃報とネット上の誹謗中傷・ジャニーズの性的虐待疑惑・東京五輪汚職・安倍元総理銃撃事件と政治批判・福島第一原発の処理水の海洋放出に伴う隣国の姿 etc.

同調圧力と沈黙の螺旋の観点でマスコミ報道と周りの状況を見つめ直して見ることで、意識・無意識の加害行為に対する気付きがあるかも知れません。... 見直すべき姿があれば反面教師に ...











笑顔の行方を見つめて

all written by careerwing  T.Yoshida@ponyo



素敵な笑顔溢れる1日でありますように!