想い出のモノたちのSDGs

様々な境遇により、社会的弱者となってしまって
いる子供たちへの支援を行っている知人から、
本・レコード・CDなどを寄付して欲しいとの
申し出があり、「家にあるモノなら全部持って
いっていい」と伝えるも、あまりの量の多さに
後日、トラックを借りてスタッフと一緒に引き
取りに家までやって来た。

子供達が手にするような本なのか、聴くような
レコードやCDなのか分からぬがと伝えるボクに、
彼は、良くある質問なのか、優しい笑顔を浮かべ
「ご心配なく。大丈夫です」と言い切った。

あまりの歯切れの良さに「そ・そうなの?」と
聞き返すと、子供たちは、自分の好みのモノを求める前段階の「何でも構わぬので本が読みたい・音楽が聴きたい」といった、もっと乾き切った状態にいることが多いため、好みでは無いモノに触れる事さえも大切な機会のひとつなのだと教えてくれた。

大切なことを忘れて、頭でっかちになってしまっていたのかもしれない ...

小学校から音楽は大好きだったが、中学になりギターを手にしてから完全にのめり込み、兄の影響で家の中には、常にクラシック音楽とビートルズが流れ続けていて、ひとりの時にはラジオから流れて来るFENのポピュラーミュージックに胸を躍らせていたことを想い出してもいた。

そう ...
毎日が新鮮で、宝探しのような日々だった ...


渡してしまうことを惜しむかのように
懐かしい想い出が詰まり切っているCDを流しながら、
大量に用意をしてくれた段ボールに本・CD/レコードを詰め込んでいった。

レコードとCDはエイヤーと後ろ髪を引かれることなく箱詰めしたのだが、本についてはつい思わずぺらぺらとページを捲り、ドックイヤーの付いたところはまるまると眺め見たりしながらの箱詰めだったので、何とも時間が掛ってしまったのだった。

ジャンル・内容・年代等々、一切気にすることはないと伝えられてはいたが、大量にあるハードボイルド(hardboiled)小説たちも好きになってくれるかな等と言った気持ちも芽生えながら、レイドバックした気分のなかゆっくり々整理は進んでいった。



ハードボイルドとは ...

ハードボイルドhardboiled)」とは、
ゆで卵などが固くゆでられた状態を指すが、ここから転じて、

感傷や恐怖などの感情に流されることのない、冷酷非情で精神的・肉体的に強靭、妥協しないなどの人間の性格を表した登場人物によるミステリーのジャンルとなり、暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体で綴られることが多いとされている。

個人的には、レイモンド・チャンドラーの作品が大好きで、私立探偵フィリップ・マーロウのシリーズは何かに取りつかれた様に正に読み漁った作品群だ。

子供の自分が見たそこに描かれていたのは、正に大人の世界であり、人としての生き様というよりも「男」としての生き様の世界が奥深く広がり、愛しか知らぬ餓鬼が、愛憎の姿をも知る切っ掛け・手本・キャリアモデルとなったのがチャンドラーが描くフィリップ・マーロウの姿にだったのだ。


大人と子供との違いとは、矜持の有無であるように思う。

自信・自負・誇り・プライドとしての意味も含まれるが、他者や己の欲望に流されることのない自分自身の生き様を確立し、これを全うするためにストイックなまでに自己制御と抑制を自らに課して歩む心姿と行動が、矜持の姿となる。

整理の手を止めてあれこれとページを捲り続けたフィリップ・マーロウの姿と新たに本を手にする若者たちを想いながら、ハードボイルドという生き様の姿勢がどう映るのだろうかと、妙な悩みの世界に引き込まれてしまっていた。



Words of 「 Philip Marlowe 」 ...







さよならをいうのは、少し死ぬことだ。
To say Good bye is to die a little.



ギムレットには早すぎる。
I suppose it’s a bit too early for a gimlet.



撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ。
Take my tip – don’t shoot it at people, unless you get to be a better shot.









タフでなければ生きていけない。
優しくなれなければ生きている資格がない。

If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive.
If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.




論理的になればなるほど、創造性は失われる。
The more you reason the less you create.



静かなバーでの最初の静かな一杯 – こんなすばらしい一杯はない。
The first quiet drink of the evening in a quiet bar – that’s wonderful.








アルコールは恋に似ている。
最初のキスは魔法のようだ。二度目で心を通わせる。
そして三度目は決まりごとになる。
あとはただ相手の服を脱がせるだけだ。


Alcohol is like love. The first kiss is magic,
the second is intimate, the third is routine. After that you take the girl’s clothes off.




真実には2種類ある。
一つは道を照らしだすもの。もう一つは心を温めるもの。
前者は科学、後者は芸術だ。
芸術なき科学は、配管屋に手術用の鉗子を持たせるかのごとく
使い道のないものである。
科学なき芸術は、民俗と感情的ペテンの粗野な混乱だ。


There are two kinds of truth: the truth that lights the way and the truth that warms the heart.
The first of these is science, and the second is art. Without art, science would be as useless as a pair of high forceps in the hands of a plumber.
Without science, art would become a crude mess of folklore and emotional quackery.




未来への願いを込めて ...

いつの時代も本や音楽は、人生の手本であって欲しいと願うのだ。

憧れとしてのキャリアモデルをその中に見出すのでも、逆に嫌悪の対象となるのでも、どちらにおいても道標になってくれる。

「男が男らしくあり、女が女らしくあるように」などと言うと大バッシングを受けてしまうような世の中を感じているが、肝心なことは「自分らしさ」への気付きであり、そこに性別が加わり、判断軸のひとつとしていくことに間違いなど微塵もない。

他人による悪しき強制はあってはならぬことだが、自分自身が背負った性別や社会的な役割や諸状況等々を踏まえた時、自分の人生に責任が取れるのは自分以外にはいない。

その意味でいうと、昔に比べ今の子供たちの方が「自分の人生を見極めるための考える力」が問われているのだと痛感する。
待った無しの現実にあって、本や音楽は何度も繰り返して確認することが出来るのだから、これを活かさぬ手はないだろう。


自分自身を形付けてくれた本やレコード・CDを手渡した子供たちと会話を交わすことはないのだろう。

それでも共感・拒絶のどちらであっても同じ対象についての会話が出来れば素敵だとも思う。

実際には叶わぬ無いもの強請りなことではあるが、同じモノを読んで・聴いた時に何が芽生えるのかを楽しみにしつつ、開いた本のページを閉じ、想い出と共に段ボールへと押し込んだのだった。










笑顔の行方を見つめて

all written by careerwing  T.Yoshida@ponyo



素敵な笑顔溢れる1日でありますように!