日本の紫陽花を世界に広めたシーベルトさん
本格的な梅雨の長雨と一緒に過ごす時、自然の恵みへの感謝を忘れて鬱陶しさが勝ってしまいそうになる心を優しく癒してくれるのは、静かに佇む紫陽花の姿だったりします。
いまでは、アメリカ・ヨーロッパ各国などで観賞用に広く栽培され、多くの品種が作り出されている紫陽花ですが、紫陽花の原産地(原種)は日本で、世界に日本の美しい紫陽花を紹介して広めたのは、鎖国時代の1823年8月、長崎にオランダ商館員の一員として渡来し、オランダ人と偽って出島に滞在し、医療と博物学的研究に従事したドイツ人医師のシーボルトさんになります。
シーボルトさんが日本にやって来て、病気を患った方々に西洋医術を施すと評判が評判を呼び、直ぐに「名医現る」との噂が世間に知れ渡ったそうです。
それもあってのことなのか、長崎の市の花は紫陽花と定められており、マンホールには紫陽花のデザインが施されていて、この時期は紫陽花に纏わるお祭り行事も多く開催されます。
そして、長崎では紫陽花を「あじさい」ではなく「おたくさ・お滝さん花」とも呼んで、多くの方々に慈しみ親しまれています。
それは、梅雨の雨に打たれながらも楚々と健気に咲く紫陽花の姿と、シーボルトさんと愛妻「お滝さん」との愛情の物語が背景にあるからなのでした。
シーボルトさんの愛情の物語
巷で噂の名医と聞き、シーボルトさんのところへ患者としてやって来たのは、長崎の遊女「其扇(そのぎ)さんでした」。
「其扇」さんの本名は「お滝」さんと言いましたが、彼女に一目惚れしたシーボルトさんは、1823年8月に長崎にやって来て、同年11月には、故郷の両親に宛てて「日本で素敵な女性と結婚をした。お滝さん以外の女性を妻に迎えることは絶対にない」と綴った手紙を送っているそうです。
やがて二人の間には「お稲」さんという女の子も生まれ、幸福な日々が過ぎて行きますが、一時帰国しようとしていたシーボルトさんの荷物から、当時国外への持ち出しが禁じられていた日本地図や葵の紋の羽織などが見つかり、これによりシーボルトさんにはスパイ容疑がかけられ、1829年にお滝さんとお稲さんを長崎に残したまま、国外追放の身となってしまったのでした。
帰国したシーボルトさんが、お滝さんに宛てた、たどたどしい日本語の手紙には、
日々、私は、お前、また、お稲の名をしばしば言う
いつか、お前を、またお稲を、もっと愛する者を見るのだろうか
と2人に対する愛情を綴られましたが、会えぬ身ゆえにさらに思いが募り、深まっていったのだろうことが痛い程に窺い知れます。
しかし、当時の日本では結婚そのものの意味も今とは違い、程なくして、親戚の勧めに抗いきれず再婚したことを告げるお滝さんからシーボルトさん宛ての手紙が、お滝さん自身の肖像を蓋に描かせた煙草入れとともに届けられることになりました。
余儀なく義理にて他へ嫁し申候
他人と結婚はせざるを得ぬが、どうか忘れないで欲しいとの切なる願いに込められた真実の愛の心姿をシーボルトさんはしっかりと受け止められたのだと思います。
シーボルトさんは、日本の滞在中に自然科学の研究にも情熱を注ぎ、数多くの植物の採取・調査・分類を行っていますが、その中でも一番美しかったのでしょう、日本原産の空色の紫陽花に少しでも愛するお滝さんの面影を留めたいと思われたのだと思います。
オランダに帰還してから、植物学者のツッカリニさんと共著で発刊した「日本植物誌」にアジサイ属 14 種を新種記載しており、その中で花序全体が装飾花になる園芸品種のアジサイを「 Hydrangea otaksa Siebold et Zuccarini 」と命名されたのでした。
「Hydrangea otaksa(ハイドランゼア オタクサ)」とは正に「お滝さん」のことで、「オタキサン」ではなく「オタクサ」となっているのは、シーボルトさんが愛するお滝さんの名を呼ぶ時の発音そのままであるそうです。
正岡子規さんの紫陽花もどこか ...
残念ながらも「オタクサ」という名前は、別の学者により既に名がつけられていた品種だったことが判明して無効とされてしまったため、植物学上は有効名ではないことと、自分たちにとって縁も所縁もない人の名を憶えさせられることは迷惑なことだと、学者達からは猛批判をされたそうです。
それでも長崎の方々は、長い歴史のなかで故郷の地で綴れ織られたシーボルトさんとお滝さんとの真実の愛の物語に深く共感し「あじさい」ではなく、敬愛を込めて「おたくさ」と呼ぶのだそうです。
紫陽花や 昨日の誠 今日の嘘
正岡子規さんは、紫陽花の刻々と色を変えていく様を人心の移ろいに重ねて詠まれましたが、その移ろいは、紫陽花は紫陽花として変わらずも、取り巻く環境が変化してしまうことの、シーボルトさんとお滝さんとお稲さんの悲恋の状況にも思えてしまうのでした。
梅雨の長雨に打たれながらも美しく佇む紫陽花の姿にお二人の愛情の姿を感じつつ、いまでもお二人の心は受け継がれ続けているのかも知れません。
真実の愛の心姿があるがゆえに雨のなかでも静かに凛と美しいのでしょうか・・・
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