イスタンブールで出会った女性リーダーたちから学ぶ
2026年6月4日~6日に、トルコ・イスタンブールで開催された
「Global Summit of Women 2026」に参加してまいりました。
現地で味わった国際会議の熱気をお伝えするとともに、そこで見聞きしたことを、
日本企業の組織開発や人材育成にどう活かせるのかという視点で考えていきます。
第1回となる今回は、サミット全体の雰囲気と、現地で特に印象に残った出来事を通して、
日本の組織における人材育成について考えてみたいと思います。
はじめにお断りしておくと、今回の会議だけで
「海外はこうだ、日本はこうだ」と語れるとは思っていません。
ただ、現地で感じたことと、日頃、研修現場で感じていたことがつながる部分があり、
気づきが人材育成に活かせるのではないかと感じた次第です。
あわせて、お読みいただく皆様に、会議の熱気が伝わればと思っています。
Global Summit of Womenとはどんな会議か
Global Summit of Womenは、世界各国の女性経営者、政治家、起業家、専門家が集まり、
経済、経営、テクノロジー、キャリアなど、
その時々に必要なことをテーマに議論を交わす国際会議です。
1990年の創設以来、35年以上にわたり、毎年世界各地で開催されています。
2026年のテーマは、
「Women: Building Bridges to a Bold Tomorrow(未来へ向けて橋を架ける女性たち)」
でした。
今回開催地であるトルコは、アジアとヨーロッパの結節点に位置します。
とても開催地にふさわしいテーマだと感じました。
今回、私が参加を決めたのは、DE&I推進や人材育成を考えるうえで、
世界の最前線で何が議論され、どのような価値観が共有されているのかを、
自分自身の目で確かめたいと考えたからです。
参加のための日程を約1年前から調整し、今回の参加に至りました。
3日間にわたるサミットでは、AIやデジタル技術の活用、
不確実性の高い時代におけるメンタルウェルネス、コーポレートガバナンスなど、
いま、どの国もが関心を持っているテーマについて議論が行われました。
たくさんのセッションが行われましたが、その内容だけでなく、
会場全体に流れる熱量や参加者同士の対話から得られる学びも大きく、
今後も継続して足を運びたいと思える機会となりました。
今回は、その雰囲気から感じたことを共有したいと思います。
壇上と客席のあいだに、心理的段差がない
セッションごとに登壇者がいるわけですが、
質疑応答では、多くの参加者がためらうことなく手を挙げます。
通常のセッションは大ホールで参加する人数が多いのですが、
事前に申し込む少人数制のメンターとのセッションもあります。
このセッションでも、次々と質問が飛び交い、議論が自然に深まっていきました。
前日に大勢の前で登壇していたスピーカーが、翌日、
ふらりと私たちのテーブルにやってきて、「ここ、いいですか?」と腰を下ろす。
そのまま、ごく自然に会話が始まる。
そういう場面が、何度もありました。
登壇者や有名な女性リーダーであっても、オーディエンスと一線を引く印象ではなかったのです。
登壇について、気負うでもなく、謙遜するでもない。
もちろん、これは私が居合わせた場面での印象にすぎません。
それでも、人前で話すことが「評価される場」ではなく、
「意見を共有する場」として機能していた――そんな感覚がありました。
熱量があり、ロジカルに伝える力
もう一つ、心に残ったことがあります。
登壇者が話す言葉の力強さです。
自分の言葉で、聴衆に語りかけるように話す。
それでいて、話のなかには必ず数字やデータ、根拠となる調査の話が入り、この両立が説得力につながっていました。
日頃から自分の考えを言葉にし、対話を重ねる経験の積み重ねが、その力を支えているように感じました。
日本の組織では、なぜ「意見を語る」ことが難しいのか
日本でよく話を伺うのが、「意見はありそうなのに伝えない人が多い」ということです。
つまり、「これを言っていいのか」と判断するのに時間がかかっているように思います。
その要因の一つとして、
発言が、共有ではなく評価の対象になっているのではないかと思うのです。
背景には、ハイコンテクスト文化、同じ感覚や経験を持った人が多い中で機能する
「空気を読む」「忖度する」といった価値観があります。
必要以上に主張すると「主張の強い人」と受け取られることを懸念し、
意見を控えてしまう場面も少なくありません。
いわゆる同調圧力です。
就職活動ではグループディスカッションを経験するのに、
社会人になると意見を交わしながら考える機会が急激に減ってしまう。
これは、大きなパラドックスではないでしょうか。
そのため、海外で語られる「心理的安全性」の考え方も、
日本の組織では、そのまま導入するだけでは十分に機能しない場合もあるという指摘もあります。
こうしたテーマは、欧米を中心とした組織行動研究でも扱われています。
「Employee Voice(従業員の発言行動)」という考え方では、
社員が意見や提案を発信できる組織づくりが重視されています。
さらに人材育成の観点から見ると、
「社員の自己効力感を育てる機会そのものが、まだまだ少ない」
ことも大きな課題ではないでしょうか。
女性リーダーの育成が難航している要因の一つも、
ここにあるのではないかと考えています。
意見を持ち、それを言語化して伝える。
小さな成功体験の積み重ねです。
こうした機会が不足したまま「管理職に手をあげてください」と言われても、自らの考えやビジョンを言葉にしてチームへ発信することに不安を感じるのは、無理もないことかもしれません。
ロジカルに考える力と、伝える力を磨く
さて、会議で目にした、あのプレゼンテーション力は、
感覚や度胸で身につくものではないと思います。
考えを筋道立てて組み立てる力があってこそ、
表現が豊かになるのだと思います。
そういう視点では、日本では若手社員や女性社員を対象に、
ロジカルシンキングやロジカルプレゼンテーションを体系的に学ぶ機会は、
企業の属性にもよるかもしれませんが、まだ十分とは言えない組織が多いのではないでしょうか。
筋道を立てて相手に納得してもらう伝え方は、感覚や度胸ではなく、学習で身につくものです。
フレームワーク(枠組み)を学び、それを実際に使いながら伝え方を習得していく必要があります。
フィードバックを受けられる環境があるか
さて、この会議で感じた女性リーダーたちの「自信(自己効力感)」について、
さらに考えてみたいと思います。
前述した、考え方や伝え方を学ぶだけでは十分ではありません。
必要なのは、自らが体験したことを「経験」に変え、
次に活かせる自信(自己効力感)です。
周囲との対話を通じて自分の経験を言葉にし、
他者からのフィードバックを受けながら磨いていく。
その機会があってこそ、「私の意見は価値がある」と感じられるようになるのだと思います。
私が過去に女性管理職の方にインタビュー調査をした際、
全員が「自分が組織を変えたかった」と答えていました。
つまり、「私なんて……」ではなく、変えられるという自信があるわけです。
安田(2012)の調査では、20代の女性正社員のうち、
業務を支援し最後まで面倒を見るような「面倒見の良い上司」のもとで働く女性ほど、
管理職への昇進希望が高いことが示されています。
女性のキャリア形成や昇進意欲は、本人の資質だけでなく、
キャリア初期における上司との関わり方に大きく影響を受けるということです。
私は、この背景の一つに「体験が経験になっていない」ということがあると考えています。
この転換を支えるのが、上司や周囲との対話であり、フィードバックです。
上司の方も、フィードバックをしたほうがよいとわかってはいても、
時間がないと捉えている人が多いことは、調査で明らかになっています。
これもまた、組織の次世代育成における大きな課題です。
心理学者アルバート・バンデューラは、
自己効力感を高める要因として、自分自身の成功体験だけでなく、
他者の姿から学ぶ「代理経験」や、周囲からの承認・励ましといった「言語的説得」を挙げています。
だからこそ、体験を体験のままで終わらせず、対話を通じて意味づけ、「経験」にすることが重要なのです。
グローバル人材や次世代リーダーを育てるためには、
ロジカルに考え伝える技術と、対話を通じて経験を意味づけるプロセス。
この両輪を回していく組織文化の醸成が欠かせません。
イスタンブールで見たのは、そのサイクルで育っていった人たちの、
ゆるぎないパワーだったのかもしれません。
おわりに
会議で堂々と自分の意見を伝え、
対話を重ねながら周囲を巻き込んでいく女性リーダーたちの姿を目の当たりにし、
企業規模や業種を問わず、このような次世代リーダーを育成するためには、
どのような組織文化や育成環境が必要なのかを、
あらためて考えるきっかけとなりました。
海外の事例をそのまま取り入れることが目的ではありません。
大切なのは、そこで見聞きしたことを、
自社の組織開発や人材育成にどう置き換え、実践につなげていくかという視点です。
次回以降は、各セッションでどのようなテーマが議論されたのかを、
詳しく掘り下げながらご紹介していこうと思います。
あわせてお読みいただけますと幸いです。
※この記事は、人事・経営層向けの専門メディア「日本の人事部」に掲載いただいたコラムを、
一部加筆・変更して掲載しています。
参考文献
安田宏樹(2012)「管理職への昇進希望に関する男女間差異」『社会科学研究』第64巻第1号,pp.134-154.
中原淳・トーマツ イノベーション(2018)『女性の視点で見直す人材育成――だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる』ダイヤモンド社.

