『第38回 国際福祉機器展』
主催:一般財団法人 保健福祉広報協会
会期:10月5~7日
会場:東京ビッグサイト
昨年はパリモーターショーとスケジュールが重なってしまったために行けなかった福祉機器展ですが、今年は行くことができました。
自動車メーカー各社のブースでは、福祉車両について話を聞いたり、実際に乗り込んでみたり、操作方法を確認したりといった人が大勢いて大盛況。「自分の意思で移動すること」への欲求の大きさを実感しました。
翻って考えれば、公共交通機関にはまだ無数のバリアが存在しているということの証明でもあるわけですが、こうした個人移動手段と公共交通機関がうまく連携した、ユニバーサルなモビリティが少しずつでも実現していけば……と願わずにはいられません。
さてそういうわけで、今回は個人移動手段としての乗り物、車椅子に興味深いものがたくさんありました。そうしたものを紹介したいと思います。
まずは左右に傾斜した場所でも、低いほうに転回せずまっすぐ走行できる簡易型電動車椅子。アイシン精機のプロトタイプです。
外観は電動ユニットを追加した通常の車椅子とほとんど変わりませんが、ジャイロセンサーと加速度センサーを使った制御ユニットを搭載。左右の車輪の回転をそれぞれ制御することで、傾斜地でも直進できるようにしています。アイシン精機と独立行政法人・産業技術総合研究所、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の3者が共同開発したもので、現在も商品化を目指して開発作業中。
アイシン精機:
http://www.aisin.co.jp/ 次に紹介するのはニッシン(日進医療機器株式会社)のブースにあったVortexという商品。
フレームはCFRPのモノコックというスタイリッシュな車椅子。ニッシンの子会社であるカラーズ社(アメリカ)の製品で、日本では同社製品をニッシンが販売しています。金属パイプフレームでは実現が難しい、軽さと優雅な曲面を両立したシャープでスポーティなスタイリング。
こちらは同じくカラーズのShock Blade。カスタムカー感覚のスタイリング。バフがけされたフレームやホイールの輝きは、さながらアメリカ西海岸のホットロッド。
ホットロッド風なのはスタイリングだけじゃありません。座面下のサスペンションに注目。まるでダブルウィッシュボーンのような構造です。アメリカでは、車椅子でもファッション性重視のカスタマイズが盛んで、このショックブレードはカラーズで一番人気の商品なんだそうです。
Colours Wheelchair:
http://www.colourswheelchair.com/ 会場を歩いていて印象的だったのは、手で漕いで進む「ハンドサイクル」の出展が増えていたこと。これは株式会社オーエックスエンジニアリングの、販売予定のプロトタイプ。
手で漕げるということは、上肢の運動能力があるということ。ということで「自分で手軽に車椅子に着脱できる」構造を採用。ハンドサイクルユニットから片側2本、左右で4本のアームが伸びていて、まず上側のアームをフックに引っ掛けます。そして自分が座っている車椅子を、ウィリーさせるような感じで少しだけ前側を浮かせると、蝶番の原理で下側のアームが近づき半自動的にラッチに固定される仕組み。
オーエックスエンジニアリング:
http://www.oxgroup.co.jp/ これはfree×FREE project(株式会社フリーバイフリープロジェクト)が展示したアウトドア用車椅子。前輪がバルーンタイヤ、主輪はダブルタイヤという、まさにオフローダー。
フランスのVipamat社のHippocampeという製品で、主輪もバルーンタイヤに交換すれば水上走行も可能。車椅子利用者も家族や仲間と一緒にアウトドアレジャーやトレッキングを楽しみたい、そういう需要に応える車椅子です。個人所有以外でも、レジャー施設や観光地での貸し出しという形態での普及に期待。
フリーバイフリープロジェクト:
http://freexfree.jp/ Vipamat:
http://www.vipamat.com/ こちらもオフローダーですが、車椅子をそのまま積載するというか合体するというか。オットーボック・ジャパン株式会社が展示したScout Crawlerという電動ユニットです。
履帯の上にある黒い箱の中にリチウムイオン電池を搭載。ユニット重量は59.4kgで走行距離は12km。スロープの上げ下げやベルトによる車椅子の固定などは介助者が作業する必要はありますが、砂浜や雪原での走破性能や17°という登坂角度を確保。これもレジャー施設や観光地での貸し出しという需要が期待できます。
オットーボック・ジャパン:
http://www.ottobock.co.jp/ 一転してこんどは和の趣を持つ車椅子です。フレームが竹でできています。独立行政法人・産業技術総合研究所と日本航空、サン創ing(大分県速見郡日出町)の3者による共同開発。車両の製作はサン創ing社が担当。空港の金属探知機に反応しないので、乗ったまま金属探知ゲートを通過できてボディチェックをする手間が省ける、というもの。このため金属は一切使用せず、竹以外にセラミックやゴム、樹脂などを使用。強度確保や応力の集中を回避するために、竹の弾性を活用するフレーム形状がデザインされています。産総研の広報部によれば、開発に約4年を要したとか。
空港用と聞くと特殊なものだと思ってしまいがちですが、実はJIS規格の走行耐久試験をクリア、つまり日常的に、普通に使える製品です。ハンドメイドなので大量生産が難しいということですが、素材が竹と陶器という東アジアらしさは世界に誇れるポイントだと思います。日本人が使うだけじゃなく、海外からの観光客に日本の「おもてなしの心」を伝えるプロダクトとして活用してほしいものです。
福祉機器に商品性という概念が持ち込まれるようになって久しいですが、車椅子ひとつをとってもこれほど多様なデザインが展開されていることに驚き、また嬉しい気分になりました。これからも車椅子は、日常的な個人移動手段としての存在感がどんどん大きくなっていくことでしょう。そして車椅子が快適に通れない環境は人間的でない、という意識が広まってゆくことに期待したいところです。道路はクルマだけのものじゃありません。車道整備だけでなく歩道の拡充も。クルマを運転できない人にも、もっと自由な個人移動の権利を。
おまけ。
東京理科大学工学部・小林研究室の開発した「マッスルスーツ」。これは腰補助タイプで、金色の筒状の部分に空気圧式人工筋肉を搭載。ワイヤを介してプーリーを回転させることで筋力を補助します。画像奥に装着途中の姿が見えますね。今回すでに同種の製品がいくつか出展されていましたが、今後はこうした介護/介助用具としてのウェアラブル・マシンの市場が拡大しそうです。
東京理科大学工学部・小林研究室:
http://kobalab.com/ 次回の第39回 国際福祉機器展は、2012年9月26~28日、東京ビッグサイトで開催の予定。
国際福祉機器展:
http://www.hcr.or.jp/exhibition/index.html (文/写真:古庄速人)