妻の再入院により、僕の“ひとり暮らし”が再スタートした。

夕食は、極力つくるように努力している。

面倒になり出来合いのおかずを買ったときでも、

味噌汁だけはつくるようにしている。

でも、お椀1杯分の味噌汁をつくることほど難しいことはない。

ふたり暮らしが染みついているため、量を塩梅しても多めになってしまう。

おかずの場合は翌日に取り置き可能だが、宵越しの味噌汁はあまり聞かない。

 

妻が料理をしていたころ、

「うちの味噌汁は野菜いっぱいでしょ。サラダがわりだから」といっていた。

小鍋からはみ出しそうなキャベツを指摘したときの返答だった。

妻の味噌汁は一点豪華型だが、僕の味噌汁は複合具沢山型。

野菜等の種類が3種類以上なので、総量として多くなってしまうわけである。

 

 

妻が味噌汁をつくったのは、2020年の早春が最後だっただろうか……。

夕飯の支度中に話しかけられ、会話のキャッチボール状態になると、突然、怒り出すようになった。会話の受け答えで気が散り、火傷でもしたら危ないという理由からだった。

次の段階では、料理をはじめると、包丁で素材をカットしている最中に具合が悪くなった。

そして、途中から選手交代するように、僕が続きをすることが増えた。

不機嫌になる姿を見たくなかったので、夕食づくりは僕の役割になった。

素材のカットや皿洗いなど、部分的に妻の手伝ってもらうようなスタイルとなった。

いま思えば、妻は手順がわからなくなりはじめていたのだろう。

実行機能障害という中核症状のひとつである。

 

妻が料理をしなくなってから1年以上が過ぎた2021年5月18日、驚天動地の事態が起きた。何と、妻が夕飯をつくったのだ。1年以上のブランクがあったにも係わらず……。

メニューは、カレーライスだった。

そして、これが「最後の料理」となってしまった。

 

 

そんな記念すべき5月18日、妻が眠ったあとに僕が飲んだワインは「2019 Chenin Blanc Secateurs(Badenhorst Family Wines)」という南アフリカの辛口白。オレンジやナッツのロースト香などが感じられる2,000円前後のワイン。

背面のエチケットには、ユニークなんだか治安が悪いんだかよくわからない注意書き。

“DON’T DRINK AND WALK ON THE ROAD. YOU MAY BE KILLED.”

 

昨年の3ヵ月の入院中(9月末~12月末)はなかなか適量をつくれなかった味噌汁だが、

今回も試行錯誤は続きそうだ。