妻が二度目の入院となってから、
もうちょっとで2週間になる。
まさか、この日に入院するとは
予想だにしなかったが、
自宅を旅立って行ったのは
3.11だった。
3.11に対する想いは、
人によってそれぞれだろうが、
11年前を知る者にとっては、
忘れがたい一日である。
再入院直前、僕は妻の画像や声を
iPadminiやスマホに残そうとしていた。
理由は、妻の様子を医師に
見てもらうためである。
はじめは、BPSDにより繰り返される
不安定な様子を追いかけたが、
再入院の前日になって僕の気が変わった。
刻々と変幻する症状のなかで、
多幸感に包まれたときの
幸せそのものの表情や声を
残したくなったからである。
医師に見せるためではなく、
僕自身のために……。
僕にとって記憶に残る3.11は、
2022年と2011年の2つとなった。
そういえば、2011年の3月11日は、
妻と映画の試写会の待ち合わせをしていた。
もちろん試写会は中止となったが、
携帯(当時はガラケー)は繋がらなかった。
打ち合わせ先から会社へ
ひたすら歩いて戻る途中、
国会議事堂の裏で、
奇跡的に電話が通じたのを覚えている。
電話が通じる前、妻へ
送ったはずのメールは未着だったが、
当時使っていたガラケーに、
いまも保存している。
なぜか消せなかった……。
そして今年の3.11、
妻を病院に預け、20時過ぎに帰宅した。
妻のきょうだいたちに入院するので、
緊急連絡先として名前を
借りたい旨を連絡したあと、
23時近くになってグラスにワインを注いだ。
3月6日に封を開け、
残りグラス1杯分となっていた
ウクライナの辛口ロゼである。
『サペラヴィ ピノ・ノワール
プレミアム ロゼ』(2,970円)という
オデッサ地方にあるアッケルマン・
ワイナリーの代物で、
黒海沿岸で広く栽培されている
サペラヴィというブドウ50%、
ピノ・ノワール50%のワインである。
茜色の液体からは、
ハッカのような清涼感のある香りと、
ほど良い酸味と甘み、
乳酸のニュアンスが感じられる。
バランスが良く長い余韻が心地よい。
ワイナリー名のアッケルマンは、
白い要塞を意味する。この要塞都市名は、
様々な支配者の歴史でもある。
古くはフェニキア、古代ギリシア、
古代ローマに始まり、東スラブ系の諸民族、
ビサンツ帝国、ジェノヴァ、モルタヴィア帝国、
オスマン帝国、ルーマニア王国、ロシア帝国。
支配者が変わるたびに名前が変遷した。
ウクライナ下の現名称は、
ビルホロド・ドニストロスキーというが、
最も有名な名称であるアッケルマンが、
ワイナリー名として採用された。
ウクライナと妻の周辺症状の
安定を願って乾杯!
何年かのち、2022年3月11日は、
忘れられぬ日になるかもしれない……。