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(第2話はこちらです)
矢が刺さった蔓薔薇姫の胸からは、
どんどん、どんどん血が滲んできました。
若者は姫を抱き起こし、叫びました。
『大丈夫ですか!しっかりしてください!
ああ、なんということだろう。
どうしたらいいんだ・・・』
血の気を失った姫は呟きました。
『わたしを城へ・・・父上、母上のおそばに
連れて行ってください・・』
若者は姫を馬に乗せ、蔓薔薇姫の城へと急ぎました。
『誰か!誰かいませんか!?姫がっ・・!』
城に着き、叫んでもやはり誰も出ては来ません。
姫は消え入るような声で言いました。
『わたくしを、部屋へ・・寝かせてください・・・』
姫の部屋には、ビロードとレースで覆われた美しい
天蓋付きのベッドがあり、コンソールの上には
立派な花瓶に、蕾の薔薇がたくさん活けてありました。
壁には在りし日の、若く、美しい蔓薔薇姫の
肖像画が掛けられておりました。
静かに、ゆっくりと若者は姫をベッドに寝かせて、
医者を呼びに行こうとしたとき、若者の服の裾を掴んで、
姫はこう言いました。
『わたくしはもう駄目です。あなたはご自分を
責めないで下さい。あの場所に居たわたしが
いけないのです。
けれど、もし・・・
悪いと思う気持ちがおありなら・・・』
『姫、蔓薔薇姫、なんでも言ってください。
どんなことでもいたします!』
『ありがとうございます・・それでは、
わたくしが死んだ後・・この城に眠る
両親や皆のことをお願いしても・・?』
『もちろんです。お任せください。私は隣国
の王子です。安心してください、姫よ。
他には何か、何かありませんか?』
すると、血の気が失せて、虫の息の姫が微かに
微笑み、本当に聞こえるか、聞こえないかの声で
囁きました。
『では、死ぬ前に一度だけ・・あなたのような
殿方に・・くちづ・・・』
隣国の王子である若者は、蔓薔薇姫の頬に
手を伸ばし、顔を近づけ、そっと、静かに
くちづけしました。
ポンッ
何かが弾けるような音がしました。
するとどうしたことでしょう。
コンソールの上の薔薇の蕾が一斉に開き始め、
見事な花を咲かせたのです。
そして、城の中にも音が、人々が起きだして
動き始めた気配が伝わってきました。
庭でもやはり、花が一斉に咲き始め、鳥や
動物たちの鳴き声が戻ってきました。
王子が目を開けると、壁に掛けてある肖像画
そっくりの蔓薔薇姫が、つぶらな瞳で王子の
ことをじっとみつめていました。
両の頬は、ばら色に染まっていました。
『姫・・、元気になられたのですね?』
『王子様のおかげで・・・呪いがとけたようですわ』
『呪い・・?』
その時、姫のところに、父王、母君さまが
長い長い眠りから覚めてやってきました。
姫は涙を流して、お二人に抱きつきました。
そして、その後はもちろん、蔓薔薇姫と隣国の王子は
結婚し、末永く幸せに暮らしました。
けれど王子はひとつだけ、未だに解せない疑問を
抱いていました。
それは、愛する姫が、
『わたしの呪いがとけたのは、あなたが
年老いたわたくしに、くちづけして
くださったからですよ。
本当にありがとう、あなた・・・』
と、折に触れ言うのですが、
王子の目には初めから、蔓薔薇姫は
若く美しい姫君として映っていたのでした。
・・・・・・・・・
姫が倒れた泉のほとりには、金色の花びらの
蔓薔薇がひっそりと咲いておりました。
おしまい