a改訂:財務省発表のBEIを添付

 期待インフレ率とブレーク・イーブン・インフレ率

 

日銀は3月の金融政策決定会合で「2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」として大規模な金融緩和政策を終えた。この2%の物価安定目標というのは、しかし、具体的に何をみているのか曖昧で、不確実。ここでは期待インフレ率とブレーク・イーブン・インフレ率を学ぶことでより明確化したい。

 

期待インフレ率とは

 

期待インフレ率は予想インフレ率、またはインフレ予想とも呼ばれる。英語では、"expected inflation rate"と表記される。

※この場合の「期待」は理論的に想定するという統計学上の用語とみなすと分かりやすい。ちなみに「期待値」はexpected value。

 

これは家計や企業が予想する将来の物価の変動率を指す。このため将来の実際の物価や景気に影響を与えると考えられ、先行きを予測するうえで重要な指標といえる。

 

中央銀行の多くが金融政策の方向性を判断するためにこの期待インフレ率の動向に着目する。

 

観察・測定方法

 以下3点があるが、厳密な測定は困難。

 

(1) 家計や企業に対する中央銀行のアンケート調査から算出する。

 

(2) ブレーク・イーブン・インフレ率を利用する。

  ※BEI: 固定利付債と物価連動国債の利回り差

 

(3)  過去のインフレ率の実績から算出する。

 

金利との関係

 

・名目金利 − 期待インフレ率 = 実質金利(フィッシャー方程式)                  ・・・ 式(1)

 

・名目長期金利 − 長期の期待インフレ率 = 実質長期金利         ・・・ 式(2)

 

・名目短期金利 − 実際のインフレ率 = 実質短期金利                                  ・・・ 式(3)

  ※なお長期は5年あるいは10年、短期は1年とする。

 

1) 景気過熱の抑制目的で中央銀行が利上げをした場合、名目金利は上がるが、期待インフレ率が

  高ければ、実質金利は低いため景気の過熱は継続する。

  一方、期待インフレ率が低いと、実質金利は上昇し、景気過熱は収まる。

 

2) 名目金利が低く期待インフレ率もマイナスの場合、中央銀行が利下げしても実質金利が高いた 

  めに景気低迷からの脱却が困難であることがある。

  一方、期待インフレ率が高められれば、実質金利は低下。景気を拡大させることが可能。
 

ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI: Break Even Inflation rate)について

 

1. ブレーク・イーブン・インフレ率とは

 

市場が推測する期待インフレ率を示す指標。物価連想国債の売買参加者が予測する今後10年間における年平均物価上昇率を示す。ここでいう物価変動はコアCPI、生鮮食品を除く総合指数(日本の場合)を基準にする。

 

実質金利とは、物価連動国債の利回りのこと。実質金利と長期金利(長期固定利付国債利回り)の間には、理論的に次の関係式が成立する。

 

・ 期待インフレ率 ≒ 名目長期金利 − 実質長期金利                     ・・・ 式(4)

  ※式(4)は式(2)から導かれる。

 

実質金利は物価連動国債の市場価格から計算できるので、同年限における通常国債の市場価格より長期金利と対比することにより、期待インフレ率を算出することが可能となる。

 

ただし実質金利に対する物価連動国債の市場価格は、期待インフレ率以外の要因として需給関係や流動性などのリスクプレミアムの影響を受けると考えるのが通説である。

 

※BEI:ブレーク・イーブン・インフレ率  ≒  名目金利 - 実質金利の関係も成り立つことから、次の関係が成立するかという疑問が出てくるが、理論的にも実証的にもそうでもないとか(Geminiによる)。

 

    BEI  = 期待インフレ率 x α  、αは係数  ・・・ 筆者作

 

2. 投資指標としてのBEI

 

この場合は「物価連動国債」を投資対象とする。期待インフレ率の定義の裏を返した内容。BEIは将来のコアCPI(食品・エネルギーを除く消費者物価指数)がBEIと同じ水準であると名目債と同じリターンを生むと解釈できる。

 

したがって将来のコアCPIがBEIを上回ると考えるなら物価連動国債をロング。下回るならショートするという判断で投資判断ができる。

 

日銀が測定するインフレ期待の指標とは?

この疑問に直接的に回答する論説に参照サイト4がある。

日銀は前回の金融政策決定会合で短期のゼロ金利政策を解除した。その際、2%の物価安定目標が見通せるとした。しかしこの2%とは何をみているのか不透明である。

 

著者の木内氏はここで、日銀が金融市場の予想物価上昇率に注目していると推察している。信頼性や円安などの影響に左右される指標である点なども踏まえつつ注視すべきだとする。

 

 

川内氏が指摘したBEIは5年債に基づくもの(現在のBEIは1.44%程度)であり、一方ここで示すBEIは10年債に基づく値(1.5%超えた、参照サイト5.)である。いずれも日銀が目指す2%にはまだ届かない。

 

「中長期の予想物価上昇率が+2%に達しても、実際の物価上昇率が+2%程度で安定する保証はないが、中長期の予想物価上昇率が+2%程度に達していなければ、実際の物価上昇率が+2%程度で安定することはないだろう。つまり+2%の中長期の予想物価上昇率は、+2%の物価目標達成の「必要条件」と言える。それが現在+1.4%程度にとどまっているということは、+2%の物価目標が達成されるかどうかはなお不確実、ということになる。」・・・木内氏参照サイト4.から引用。

 

日銀から公表される内容の裏付けとして合致する材料のひとつである。以下は財務省から発表されるBEI(10年債に基づく)。 1.488%とされる。

 

 

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ご健康に、ご安全に! 投資は自己判断・自己責任で!!

※本日の参照サイト

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