彼女はまるで遠い世界へと飛び立つ鳥が
特別な風を身にまとうように、とても
自然にとても優美に服をまとっていた。
まるで服を着るために生まれてきた。
ああそんな感じの、いわく云いがたい美しい着こなしの
女性は存在する。トニー谷の伝記映画かと思ったら
当てが外れた。村上春樹の小説を映画化して、それをまた
ノベライズしたような奇妙な小品で、春樹が春樹なだけに
どこまでもグレーだが、なんかいいなこれ。じわじわ。
いと惜しさと愛しさに満ちた。
失うやるせなさと愛する歓喜が交錯する。
二役を演じた宮沢りえがいい。埋まらない孤独を
体現したイッセー尾形もいい。そうか、オレは
着る服が美しいひと、服を美しく着るひとが
好きだったのだね。なかなかそんな、着衣の正否を
語った映像や文献ってなかったじゃんか。そっか。
脱ぐより着れ。
着衣で交わそう。