憶えているかドーハの悲劇を。
よくあるニュース映像。その瞬間
ベンチにいた中山は身を捩り両手で
顔を覆ったまま斜め後ろに崩れ落ちる。
カズは無言で鳩が豆鉄砲を喰らったような
顔で立ち尽くす。そして背番号10番は
力なく芝の上に沈んだ。唇はただ
「カミサマ…」と唱えていた。
初のワールドカップ出場を。
日本の悲願を賭けたアメリカ大会
アジア最終予選。イラン戦を落とし
崖っぷちに立たされた日本は、北朝鮮を
撃破、続く仇敵韓国戦をカズの「足に魂
こめました」ゴールで勝利し、本大会
出場をいよいよ目前、とする。
誰もがそれを確信し浮かれていた。
アルアリ・スタジアムをあとにする
イレブンたちも皆一様に高揚していた。
ただひとりを除いては。この男。
背番号10番。ラモス瑠偉。
皆笑っていた。彼だけが険しい表情で
一言吐き捨ててテレビカメラの前を足早に
通り過ぎた。「○×呶△≧拿※!!」??
早口過ぎて聞き取れない。
そのときは自分も含め誰も
気にも留めてなかった、はず。その時点
では。それくらい誰もが一様に高揚していた。
後日、悲劇を伝えるニュースが、彼の言葉を
繰り返し流し続けた。繰り返し。
クリスマスは25日。
彼の唇はそう警告していた。
歓ぶのはまだ早い。イヴはイヴ。イエス・
キリストが、聖なる御子がこの世に誕生したのは
25日。まだ何も。決まってないじゃないか。
浮かれるな。騒ぎ立てるな。はしゃぐな。
ブラジルの格言。背番号10番は
預言者、だったのか。神様がピッチに
遣わした、フットボールの聖なる…いや
それはないか(笑)カリオカほど野蛮で狡猾な
フットボーラーをオレは知らないもの。
きょうは25日。うつくしき聖なる
矢は25日に放たれた。誕生日おめでとう。
メリークリスマス。ジーザス。オレは…
キャプテンニッポンは限りなく汝の
ものなればなり。かくあれかし。
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