セ・ボン、アサノ。
リッチなカツカレー 1400円
たった1400円につべこべと
迷う勿れ。ネット上の「カツはそうでも…」
とぬかすクチコミに踊らされる勿れ。
アサノは、カツカレーである。
今なお現役で、週3日は顔を出すという
先代は、カツカレー以外のメニューを
頼もうとする客に対し、否応なし
「ウチはカツカレーの店だからね」
必ず言う。何度通っても必ず
言われた。「このブタは高座豚でね…」
口上は続く。顔まったく覚えない。
客よりカレー。カレー至上主義。
二代目は柔和な方で
「親父が迷惑ばかり申しまして…」と
恐縮しきりで、今はカツカレーのゴリ押しも
されぬが、やはりアサノは、カツカレー。
もはや様式美。すべては緻密な
計算の上に成り立った伝統芸能なわけで
カツがどうだとか、昼飯代がねえの提灯だのと
女々しいことをほざくなと言いたい。
この路地裏に立つとパリの
ポンヌフの袋小路を思い出す。マドリーの
最高にうまいトルティージャを食わせる店も
こんな風に煤けてた。カサブランカの夕暮れは
旧市街のどこを歩いてもこんな感じだった。
ロッド・スチュワートの生まれた
ロンドン、ハイゲートの′Gasoline Alley′も
きっとこんなところ。浅川マキの名訳で。
何もかもが
うまくいかなくてさ毎日毎日が
これじゃオイラが生きてることさえ
無駄な気がしてきた
帰ろう
オイラが生まれた あのガソリンアレイへ
帰ろう
細い路地の あのガソリンアレイへ
ハイゲートの路地裏にも
黙って座るだけで、頑固そうな爺さんが
最高のミートパイを出してくれる店が
きっとある。そして言うんだ。
「ウスターソースをたっぷりかけて食え」
と。否応なしな言い方でさ。
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