チュウハイです。

 

 

少し前の記事でアコギの黎明期について書きました。

 

その中で個人的にMartin史が気になっていました。

 

 

 

まあ、この年表で概ね分かるんですけど。でも、

 

・Martinブランドの鉄弦アコギを正式に販売開始した時期

・Xブレースを正式に採用した時期

 

これらがいまいち明確でなくて、実際どうだったのよ?と。

 

手に入る当時のカタログから、具体的に紐解いてみます。

 

 

 

まずは1898年。この頃は鉄弦やってないです。

 

 

 

簡単にモデル名、スペック、サイズと値段表が列挙されて、実物の様子が全く分からない、粗い写真が載ってます。

 

勿論、弦に関する記述は無く、全てガット弦ギターです。

 

ネックがcedar(恐らく今のSpanish Cedar、セドロ)となっていることからも、ヨーロピアンギターの延長で作られてる感じがします。

 

構造的にもほぼファンブレースの時代かと。

 

 

 

時間が飛んで、1919年。

 

MartinがDitsonブランドの鉄弦ハワイアンギターを作り始めた3年後です。

 

 

カタログ冒頭、弦に関する記述が出てきます。↑左ページの該当箇所を拡大すると。

 

「通常はガット弦。鉄弦用ギターはオーダーです。」

 

メインはガット弦ギターで、鉄弦ギターも作る、という感じです。

 

個別のページはこんな具合。

 

 

 

では1924年です。22年に初の鉄弦2-17がリリースされている筈です。

 

こちらも冒頭に弦に関する記述が出てきます。

 

拡大。

 

「Sytle 17は鉄弦のみ。Style 18は通常鉄弦で、ガット弦用はオーダーしてね。他のスタイルは通常、ガットの高音弦+シルク巻き低音弦です。鉄弦はオーダーしてね。」

 

やはり鉄弦専用17、18シリーズがカタログ入りしてます。

 

 

Style 17のページに「String: Steel, for regular playing」と記述。

 

Style 28は、「ガット弦」とされています。

 

 

つまり、Style 17と18のみが鉄弦ギターとしてラインナップされているわけですが。

 

後のページにこれが掲載されてます。

 

 

わざわざ載せているので、1924年のMartinギターは、Xブレースが標準なのでしょう。

 

Style 28などの主力ガット弦ギターも、その構造は既にXブレース(鉄弦に耐える)になっている。

 

という感じなのでしょうね。

 

 

 

これを見て思い出しました。

 

Martinのビンテージ好きの中でも1920年代は扱いが難しいらしく。

 

「鉄弦張っていいのか?」

 

が議論になっているんですよね。

 

この時期、Martinのメインはまだガット弦ギター。しかし、構造的には恐らく鉄弦に耐えるXブレース。

 

という、怪しい時期なので混乱を生んでいる模様。

 

 

 

では1930年です。

 

史実では、1929年にOMモデルが発表され、全面的な鉄弦への移行が成されています。

 

カタログ冒頭に弦に関する全体的な記述はなく、各製品の説明に「Steel Strings」の記述があります。

 

 

安価なStyle 17と18、14FジョイントのOMモデルは完全に鉄弦専用になってます。

 

 

12FジョイントStyle 42は鉄弦が標準。ガット弦用が特別オーダー製作になりました。

 

史実通り、1930年には鉄弦が標準です。

 

ガット弦ギターは、「特別オーダー」となってるんですね。

 

 

 

で、1935年(ドレッドノート発表翌年)になると。

 

使用弦に関する記述がどこにもなく、「言うまでも無く鉄弦ギター」てことになってるようです。

 

 

とはいえ、カタログの最後には「ガット弦」のプライスリストが掲載されてはいます。

 

 

 

 

 

ということで、重要なとこだけ抜き出すと

 

1919年 ガット弦ギターが主力、鉄弦はオーダー品

1924年 ガット弦ギターが主力、鉄弦ギターカタログ入り、構造はXブレースが標準化

1930年 鉄弦ギターが主力、ガット弦ギターは特別オーダー品

1935年 鉄弦ギターのみ

 

 

やはり1920年代付近が過渡期なんですね。

 

社歴が長く、保守的だったために鉄弦への参入が遅れたMartin。

 

鉄弦への切り替えに15年ほどかけていて、やっぱり時間かかってなと。

 

 

 

ここ暫く、いろいろとアメリカのギター史を調べてきましたが、

 

アコギもエレキも、ジャズやカントリー、ブルーグラスよりもハワイアンがその発展に大きく寄与しているような印象を受けました。

 

意外な印象なんですが、どちらの文脈にも必ず「ハワイアン」が出てくるし、結構決定的な影響がある気がしています。

 

知らんけどw

 

その辺を更に深掘りするにはアメリカの文化史の話になってしまいますな。

 

 

 

では。