大根峠の犬 | 印象物語

印象物語

音楽や映画そして馬のこと、気になる日本語や歳時記、旅行の他、
ライフワークになりつつある四国八十八か所歩き遍路のこと、
大好きな北海道やイギリスのことなど綴っていきます。
現在、休職中で復帰に向けて努力しています。どうぞよろしくお願いします。


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遍路の旅は、へんろみち保存協会発行の地図を見て歩きます。昔ながらの田んぼの畦道や土手のへんろ道が詳しくかかれていて、歩き遍路には必需品です。12年前に遍路を始めたときは、この地図の存在を知らなくて大変苦労しました。


これから歩き遍路を始めたい方へ、遍路の情報満載のサイトとして

「掬水へんろ館」もおすすめします。





昨年秋に第10版4刷が出ています




金剛杖や菅笠、輪袈裟など遍路装束を身につけていると、道に迷っても、地元の人から必ず声がかかり、「○○寺へ行くんですか?それなら・・・」と親切に教えてくれます。車を止めてまで声をかけてくれることもよくありますし、散歩中の方が「私も○○寺の方へ行くところだから、案内しましょう」と一緒に歩いてくれることもあります。


歩きながら話がはずみ、地元の人と一期一会のコミニュケーションが楽しめるのも遍路の醍醐味です。





お手製の道しるべもあります




徳島県の22番札所・平等寺の手前に、大根峠という標高200mほどの山遍路道があります。上りは急坂ですが、下りは長い緩やかな道で、途中から竹林が続く風情あるへんろ道は、好きな道のひとつです。





下りの竹林




12年前の初めての遍路のとき、ここで不思議な体験をしました。


峠への入口のある阿瀬比という集落に来たとき、どこからともなく犬が何匹か現れ、私を取り囲みながらついてきました。首輪のない犬もいて、野良犬だったら少し怖いなと思いながら歩いていると、いつのまにか去っていきましたが、1匹だけはずっとついてきました。





大根峠への道




やがて峠への登り口に来ましたが、その犬は戻ろうとせず、しっぽを振りながら私の前を歩き始めたのです。軽い足取りでぐんぐん登っては、ときどきふり返って、私がついてきているのを確認するように立ち止まり、また歩くのです。


峠に着いたとき、私は思わず「一緒に歩いてくれるのはうれしいけど、おうちに帰れる?」と犬に話しかけました。それでもその犬は、私がお水をひと口飲むのを待ってくれて、また先に下り坂を歩き始めました。





大根峠




長い下りを降り、里に出ると平等寺はもうすぐそこです。


阿南市のHPによりますと、むかしここを通った弘法大師が大きな大根を見つけたことから「大根(おおね)」と呼ばれるようになったそうです。




地元の方のありがたいお接待である水道です




里に下りてもその犬は、まだ私の少し前を歩いていて、本当にもとの場所に帰れるか心配になりました。しばらくして私は、平等寺の場所を確認するために立ち止まり、地図に見入っている間に前を歩いていた犬が見えなくなったのであたりを見回し、振り返ると、犬が今来た峠の方向へ帰って行くのが見えました。


その犬が、また峠を越えて戻ったかどうかはわかりませんが、あとから考えると、初めての遍路でその前日も20番鶴林寺、21番太龍寺と500mの山を2つ越え、今日も峠越えが続く私を励ますために一緒に峠を越えてくれたのではないか?と思いました。


急な登りを後ろから行く私をふり返りふり返り、「だいじょうぶか?もう少しだ、ガンバレ!」とでも言うように私に歩調を合わせてくれたことが、心強く嬉しかったです。




峠の入口にある竹の杖



遍路で使われる言葉「同行二人」とは、自分ともう一人は弘法大師を指し、お姿は見えずともお大師様は、どんなときも一緒に歩いてくださっている、という意味です。私はこのときの犬が、お大師さまのお遣いのように思えてなりません。







もしかしたらその犬は、私だけでなく、大根峠へ向かう歩き遍路を見つけたら、先達さん(遍路の道案内や巡拝の作法を教えてくれる人)のように峠へ案内していたのかもしれません。


あれから遍路のたびに、大根峠に近づくと、あの犬がまた現れるのではないかと、いつもしばらく立ち止まってしまいます。


そして私は、その犬がどこかで長生きしてくれていることを願いながら大根峠に向かうのです。






蝋梅



そうそう、そういえば・・・・・


四国は犬だけでなく、猫も遍路人に優しいようで、境内でのんびり日なたぼっこをしながら迎えてくれる猫ちゃんをあちこちで見ました。

「よぅ お参りでした」と言ってくれているようです。





高知34番・種間寺の猫ちゃん