出産が終わったあと、母豚を立たせて子宮洗浄を行っていると、産まれたばかりの子豚たちがヨタヨタ歩きながらJのほうへ寄ってきた。好奇心の強そうな目でじっと人間を見つめ、確かめるように鼻をすり寄せる。しかしこれからこの子豚たちが被る扱いを思うと、Jはその瞳をまっすぐに見返すことができなかった。
p.42
弱っている子豚や、体が小さすぎて成長が見込めない子豚は、取上げ時に淘汰、つまり殺処分の対象となる。簡単な方法は叩きつけだった。
子豚の亡骸を集めていると、頭部を腫らした死体や鼻と口のまわりを血だらけにした死体がよく見られた。初めは病気のせいかとJは思っていたが、のちにそれは叩きつけによる負傷だったのだと気づいた。
コンクリートの床に頭をぶつけられれば瞬殺するように思えるが、子豚たちは容易には死なない。あるときは13頭が叩きつけられたが、いずれの子豚もすぐには死なず、囲いの中に放られてしばらくのあいだ、はげしくもがいていた。
p.46-p.47
生産者は利益追求のために動物への配慮を捨て去った畜産の実態を知られたくない。
消費者はみずからが買い求める動物性食品の暗い背景を知りたくない。知れば自分が罪深い人間に思えるからである。
p.180
著者である井上太一さんのご了承をとったうえでご紹介しています。
by鶴田真子美(おかめ)