ほとんど一日おきくらいに卵焼きを作ります。
コンスタントに作り続けていないと、カンが鈍って下手になってしまうから。
そして、子どもの頃の思い出がぎっしり詰まっているから・・・
ここから先は、楽しい話ではありません。
ただ、私の中ではすでに解決していることで
どのくらい冷静に語れるか、トライしてみます。
長くなります。
ご用とお急ぎでない方は、おつきあいくださいませ。
卵焼きは、母から教わった唯一の思い出のレシピです。
いや、そんなはずはない。
もっといろいろ教えたのに、おまえがちっとも覚えなかった。
母はそう言います。
このへんからもうすでに、双方の言い分に食い違いが生じています。
たぶん、母の言うことが正しいのだと思います。
いろいろ教わった中で、たまたま卵焼きの作り方だけが
私が教わりたいと思ったちょうどそのときに、タイミングよく、母が教えてくれたから
記憶に残っているのだと思います。
でも私にとっては、それしか無いのですから、大切な思い出です。
なぜ、そんな思い出に固執するかというと
実は私、子どもの頃は、母に愛されていないと思っていたからです。
母は姉のことばかりかまって、私には目もくれないと。
両親が姉だけを連れて遠くに行ってしまう夢を見て
心臓バクバクで目を覚ましたこともあります。
今思えば、そんなはずはなく、ちゃんと愛されていました。
ある程度の年齢になって、母の話を聞いてみて、なるほどと納得したり
自分が大人になり、親になってみて、いろんなことが理解できて
なーんだ、そういうことかと苦笑いしてみたり。
そんな思い出がぎっしり詰まっているのが、私にとっての卵焼きなのです。
ママ友さんたちや、先輩ママさんたちの話を聞くと
「一番上の子は手がかかる。」
だそうです。
私には、娘ひとりしかいませんから、そのへんの感覚がよくわかりませんが
とにかくそうらしいです。
下の子は、上の子が教わったり叱られたりしているのを横で見ていて
自然と飲み込んで自分でやるから、手がかからない。
そういうものらしいです。
また、私の母の言い分としては
それもあるけれど
何か教えたいことや伝えたいことがあるときは
一番上の子に言っておけば、それを上の子が下の子たちに教えるから
一番上の子にだけ言えばよいのだと。
現に自分もそんなふうにして育てられたものだ。
自分が直接母親から何かを教わったことなど、ほとんどなかったよと。
長子が責任を持って下の子たちの面倒を見るという、
母の頭の中には、そんなピラミッド型の図式があったのです。
なるほど。
ただ、そのシステムは、母が6人兄弟だったから有効だったとも言えます。
私の場合は、姉と私のふたりきり。
片方はしょっちゅうかまってもらって、もう片方はほったらかされる
そんなふうにも解釈できますし、現に私はそう感じていました。
いつもいつも叱られていた姉を、長女って大変だなあと思う反面
羨ましくも思っていました。
それに、母と姉の親密な関係は、いつも私を傷つけました。
「母さんがこんなこと言ってたよ。」と姉が言えば
ああ、私のいないところでいつの間に、ふたりだけでそんな話してたんだろう、と。
「母さんから編み物教わったから、あなたにも教えてあげる」と言えば
母さんは姉さんには教えるけど、私には教えてくれないなあ、と。
姉妹で喧嘩をすれば、「姉さんの言うことを聞きなさい。」
もちろん、母からこってり油を絞られていた姉は
それはそれで、しんどかったことでしょう。
しかし、矛先がまったく自分に向かないというのも、なかなかつらいものです。
自分がまだ小さいからかな?とも思いました。
私が姉の年になったら、母は私にもいろいろ叱ったり教えたりしてくれるだろうかと。
姉とは3歳ちがいの私、辛抱強く3年待ちました。
でも、3年たっても5年たっても、待遇は変わりませんでした。
子どもの頃の3年間は、長かったこと!
3年後の失望も大きかったし。
ところが、母に言わせると
おまえは何でもひとりでやってしまう、手のかからない子どもだった。
何もしてやらないうちにどんどん大きくなって
ひとりでさっさと遠くに行ってしまったと。
あーあ!まったく。
家族として寝食をともにしていたって、これだけ見解に食い違いが生じます。
他人どうしの間柄ならなおさらのことです。
もしも、少しでもお互いを理解できたら
それはめっけもんで、一等宝くじを拾うくらいのラッキーだと思います。
だから、相手の心を気遣う思いやりと
自分の気持ちを素直に表現して伝えようとする姿勢がとても大切だと思います。
そう思えるように育ったことが、母からの一番の教育だったかもしれません。
また、おかげさまで、孤独を得意とする人間になりました。
孤独をかみしめて味わう時間が、私の人生を豊かにしてくれていると思います。
それに、どこへ行ってもひとりで、そこそこ暮らしていけるし
たいていのことは、ひとりで解決できちゃう。
無敵じゃん、私。
大人になった今は、母の忙しさも少しは理解できます。
だから、ほんの少しだけ苦笑いしながら卵を焼きます。
「母さんが、私にも教えてくれた!」と嬉しかった気持ちを思い出しながら。
そんなふうにしか周囲を見ることができなかったお馬鹿さんな自分を
よしよし、お前もよくがんばったなと思いながら。
姉にも、長女のおつとめごくろうさんとつぶやきながら。
何よりも、忙しさの中で大奮闘しながら、私たちを世話してくれた母に感謝しながら。

