1967年3月、山形県南陽市の生まれ。
近畿大学豊岡短期大学卒業。
2012年、『焔火(ほむらび)』で第6回小説現代
長編新人賞を受賞してデビュー。





昭和初期、十八歳の鉄は狸撃ちを生業とする家に生まれ、
一家は村八分にあっていた。
幼馴染で十六歳のおミツの家は盗っ人一家だった。
鉄とおミツはいつも地蔵堂で交わった。
あるとき、地蔵堂の扉が外から開き、「糞どもが」の声
のあと、気がつくと鉄は手足を縛られ後頭部がしびれた。
村長の息子と三人の手下がわらっていた。
村長の息子が森の奥に入った隙に鉄は縄をほどき、狸を
仕留めるために持っていた鉄芯で三人の手下を倒した。
森に入っていくとおミツは丸裸にされて切り刻まれて血
塗れになって木に吊るされて息絶えていた。
村長の息子を鉄芯で傷だらけにしたが、最後の力で崖か
ら投げ落とされた。
気がついたのは小舟の上で、港まで連れて行ってもらい、
そこで川で鮭を獲る網元に出逢った。
伊吹というその網元は面倒見がよく、鉄はそこでの生活
が気に入っていつまでも伊吹についていこうと思った。
少し金が貯まったときに仕事仲間の吾助に誘われて色街
に行き、そこでおミツにそっくりのあや子に出逢った。
あや子は目が見えず、瞽女(ごぜ)の出で厳しくも優し
い師匠を事故で失って苦界に投げ出されてから煮え湯の
連続の半生だった。
鉄は漁師暮らしとあや子との恋で、平穏で生き甲斐のあ
る生活を送っていたが、伊吹のところにとうとう巡査の
手配書が回ってきた。
伊吹は鉄を信じ、新しい着替えと多額の札束をもたせて
逃げさせてくれた。
鉄とあや子は瞽女と男瞽女として村人たちの敬愛をうけ、
いくつも峠を超えて生活を送っていた。
だが、またまた不幸が訪れた……。