1955年、東京都の生まれで、京都府在住。
幼少期から問題児で、都立高校では入学三日目に喧嘩
が原因で退学、十七歳で京都の移る。
1989年、『ゴッド・ブレイス物語』 で第2回小説すばる新人
賞を受賞してデビュー。
1998年、『皆月』 で第19回吉川英治文学新人賞。
同年、『ゲルマニウムの夜』 で第119回芥川賞受賞。
2009年、花園大学の客員教授になる。

好きな作家ではない。
むしろ作風は嫌いだといえる。
だが、手に取ってページを捲ってしまう。
そして、読み始めてしまう。
やっぱり好きじゃないと、いつも思う。
受賞歴以外の経歴は詳しく書く気にならないほど滅茶苦茶だ。







色をテーマにした九つの短編からなる作品集。
赤、紫、灰、黒、白、青、緑、黄、茶。
最初の赤はこんな話。

コマネチが活躍したモントリオールオリンピックやロッキード事
件があった年の夏のさなか、二十歳になったのをきっかけに
私は京都から東京に戻ってきた。
十四歳のころに収容されていた福祉施設の木工所で覚えたシン
ナーを皮切りに、施設を抜け出してからは大麻、コカインやLSD
などの非合法薬物を愉しむようになっていたので、真っ先に向
かったのはいかにも薬物が入手しやすそうな新宿歌舞伎町だ
った。
そこでアルバトロスというキャッチバーで働く咲ちゃんという娘
と知り合い、新大久保にあるRという暴力団の事務所がずらっ
と入っているマンションにある咲ちゃんの部屋に転がり込む。
別名ヤクザマンションと呼ばれるそこに私はすぐに馴染んだ。
そこでは欲しい薬物が簡単に手に入った。
注射器の中に逆流してくる血液の様を咲ちゃんは、こう言った。
「凄いわ、真っ赤なキノコ雲。
 広島長崎原爆投下よ、今日のはとりわけ綺麗」
咲ちゃんと二人でアルバトロスのカモを物色しながら歩いている
と、近くに深夜営業のぬいぐるみの店が開店していた。
巨大な赤いクマのぬいぐるみが中空にディスプレーされている。
咲ちゃんが店主に聞いたところによると、女の子が酔っ払いに
ぬいぐるみを買ってとねだる。
赤い大きなぬいぐるみは三万円也。
あとでそのぬいぐるみを店に持っていくと半額で引き取ってもら
えるのだそうだ。
店のおじさんによると赤という色は派手なくせにじつは汚れが目
立たず、弄ばれて手垢がついても夜目には平気なのだそう…。