1963年3月6日、岡山県久米郡久米町の生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。
1998年、『ナイフ』で第14回坪田譲治文学賞。
1999年、『エイジ』で第12回山本周五郎賞。
2000年、『ビタミンF』で第124回直木賞。
2010年、『十字架』で吉川英治文学賞。
2014年、『ゼツメツ少年』で毎日出版文化賞。






<T市・長山西小学校を一九七三年の卒業した六年三組
の同窓生の皆さん。今年九月に校舎の取り壊し工事が始
まるので、予定を早めてタイムカプセルの開封を七月二
十日午後一時より行います>。
新聞に載ったこの記事を読んだ今年三十九歳になる十七
人が旧校舎前に集まった。
タイムカプセルを作ろうと言い出した白石先生(女性)
は六年三組が卒業して間もないころに雑木林で遺体で発
見されていた。
ダブル不倫の果ての絞殺だった。
当時、男子女子それぞれのリーダー格だった安西徹夫と
真理子は夫婦になった今もみんなの中心にいた。
真理子はのび太こと高橋克也が初恋の人で、今も変わら
ないと公言してみんなの歓声を誘った。
克也も真理子を好きだったので悪い気はしなかったが、
二人を見るジャイアンこと徹也の視線が気になった。
二次会のあと、徹也と真理子は先に帰ると部屋を出たが、
その直後に徹夜の怒鳴り声と真理子の悲鳴が響いた……。
1969年9月20日、千葉県船橋市生まれ。
早稲田大学人間科学部卒業後、編集者、フリーライター
を経て作家に転身。
2006年、『ラストサムライ 片目のチャンピオン武田幸
三』で第17回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。
2021年、『おいしくて泣くとき』で「うつのみや大賞」
2021年大賞を受賞。






四十五歳でさえない営業課長補佐の本田宗一は家庭で
も肩身が狭く、体を鍛えようとスポーツクラブSABに
通うことにした。
そこでの初日、二メートルオーバーのマッチョなおか
ま通称ゴンママに出会う。
ゴンママこと権田(ごんだ)鉄雄に筋肉トレーニング
方法の初歩を教えてもらってうれしくなった本田は終
了後にゴンママの店「スナックひばり」に行った。
そこはSABの常連たちのたまり場で歯科医の四海(し
かい)良一、七十近いがスケベなことばかり考えてい
る社長こと末次庄三郎、現役高校生の国見俊介、謎の
セクシー美女井上美鈴(みれい)たちがいた。
いつも本田のことを「きもっ」と言っている一人娘の
彩夏がフランスにシェフの修行に行きたい言い出して
ひと悶着起きた。
井上美鈴は少年漫画誌に月影拓巳というペンネームで
バイオレンス系の連載を描いている。
今回は締切が迫っていて主人公の男が女の子に振られ
るシーンを描くのだが、粋なフラれかたが思い浮かば
なくて悩んでいた。
そのときゴンママがヒントをくれた。
高校生の国見俊介の両親は六年前に離婚し、母親は別
の男と都内のどこかに住んでいるらしい。
父や多忙で顔を合わせることは少ないが、生活費だけ
はたっぷりくれるので俊介は好きなことをしている。
学校帰りにジムに立ち寄った俊介は、スタッフに連れ
られてやってきた新人を見て驚いた。
小学六年のときの同級生だった向山恵那だ……。
1965年3月31日、東京都の生まれで札幌市在住、女性。
北星学園大学卒業。
2007年、『散る咲く巡る』で第41回北海道新聞文学賞
を創作・評論部門で受賞。





警視庁捜査一課の梶原勇一と我城薫子(がじょう・か
おるこ)が佐藤真由奈のマンションにやってきた。
府中市宮町の路上で刺殺された戸沼暁男(とぬま・あ
けお)のスマホに佐藤真由奈の連絡先があったから。
真由奈は戸沼暁男という名に覚えがなく、写真の男は
恋人のあっちゃんこと高橋彰で、今年中に結婚する予
定だったといった。
暁男には妻子がいて、真由奈に貢ぐために消費者金融
から百三十万円の借金があった。
アリバイが成立した後も真由奈の妄想は止むことがな
く、薫子を呼び出してはあっちゃんの思い出を語った。
暁男の家の塀に「ひとごろしの家」とスプレーで落書
きされたり、ゴミ入りの袋が玄関前に置かれたりした。
妻の杏子が疑われていたのだった。
ネットでも誹謗中傷があふれかえり、中二の史織、小
四の優斗は家から出られなくなった。
暁男の大学時代のゼミの名簿に三井良介の名があり、
良介は三ヵ月前に新宿の歩道橋から転落死していた。
去年の九月に戸沼暁男一家は異業種交流会のキャンプ
に参加していて、そのとき一人の女の子が川で水死し
ていた。
キャンプを仕切っていたのは三井良介だった。
さらに水死た女の子の父親、渡瀬川邦一が新宿駅のホ
ームから転落した……。
いぬい・くるみ、1963年10月30日生まれの男性。
静岡県静岡市出身で、静岡大学理学部数学科卒業。
大学卒業後はIT企業に就職してソフトの開発を行う。
小学生のころからミステリーが好きで、中学時代には横溝正史
や江戸川乱歩賞受賞作をつぎつぎに読んだ。
高校生になると海外のミステリーにも興味を広げ、みずからも
執筆を開始する。
1998年、『Jの神話』で第4回メフィスト賞を受賞してデビュー。






三十九歳の林雅賀(まさよし)は東京で官庁勤めをしてい
たが、書評や文庫解説の副業がばれたのをきっかけに棗市
(なつめし)に戻ってミステリ専門の古書店を開いた。
経営はインターネットの通販でほぼ足りていて、店舗はコ
ーヒーコーナーもあり趣味のようなものだった。
日曜日の午後、常連客のバツイチ独身で雅賀と高校の同級
生だった大村龍雄、町内の柴田電気店の息子で高一の柴田
五葉(ごよう、男子)、小学校の先生でこの春から棗市に
やってきた茅原しのぶが集まってきた。
大村が昨日、仕事で上京したさいに立ち寄った「くまのみ
屋」という居酒屋で十数人の不思議な集団にあったという
話を始めた。
宗教でもなく血縁関係もなさそうだし、なにかのオフ会か
もしれないと、四人の推理が始まった……。

蒼林堂古書店常連客の推理にまつわる連作短編集。
1958年2月4日、大阪府大阪市生野区の生まれ。
大阪府立大学工学部卒業。
1985年、『放課後』で第31回江戸川乱歩賞祖受賞してデビュー。
1999年、『秘密』で第52回日本推理作家協会賞の長編部門。
2006年、『容疑者Xの献身』で第134回直木賞と第6回本格ミス
テリ大賞の小説部門。
2012年、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で第7回中央公論文芸賞。





翔太、敦也、幸平の三人は盗んだクラウンのバッテリー
が上がってしまい、乗り捨てて住宅地にある店舗兼住宅
の廃屋に入り込んだ。
真夜中の二時だというのにシャッターの内側に置かれた
段ボール箱に郵便口から封筒が落ちてきた。
月のウサギと名乗る若い女性からの悩み相談だった。
自分はオリンピックの代表候補になっているが、恋人が
癌に倒れたので合宿や遠征を諦めて看病に専念したい気
持ちが強いのに彼は自分のことにかまわないでオリンピ
ックを目指してほしいという。
それでナミヤ雑貨店さんの噂を聞いて手紙を書いたのだ
という。
とりあえず何か書こうと三人は相談してアドバイスのよ
うなことを書いて裏の牛乳箱に入れた。
直後にシャッターの郵便口から封筒が落ちた。
そんなやり取りが二、三度繰り返されて月のウサギはモ
スクワオリンピックを目指していることが分かった。
ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議してアメリカが不参加
を表明し、ヨーロッパ各国とともに日本もボイコットし
た大会だった。
とりあえず月のウサギの問題は解決したが、さらに別の
人間からの封筒が来た……。