昔、学校で習った景気循環論を今の景気に当てはめたらどうなるか考えました。

いわゆる「そろそろ景気も回復するだろう」という「そろそろ」の背景は、在庫循環です。
世の中で言われている景気の上げ下げは、ほとんどこれだと思われます。
学校で習った名前で言えば、キチンサイクルです。

確かにこの波はあるでしょうが、大きな上り坂の中にも大きな下り坂の中にも含まれます。
この波よりも大きな波が、今回の景況感を語るには欠かせないのではないでしょうか。
そうでなければ米国のクレジットバブルと住宅バブル崩壊を説明できません。

より大きな波として学校で習ったのが、ジュグラーサイクルで10年の波です。
これは設備投資サイクルと言われています。

もう一つはクズネツクサイクルで20年の波です。
これは住宅投資サイクルともベビーブーマーサイクルとも言われています。

そして、今回の景気後退は、この二つのサイクルが大きく影響しているのではないかと考えます。
従前の景気循環論を是とすると、過剰信用に支えられた過剰消費が後退したと考えられます。
消費減退から設備投資が抑制され、ジュグラーサイクルも下方に向かいます。
同じくクズネツクサイクルも下方に向かい、住宅バブルが崩壊しました。

クズネツクサイクルという意味では、住宅投資の視点だけでなく、人口動態的にも筋は通ります。

ベビーブーマーの退場が景気を下方に招くことは一般的です。
日本の場合、ベビーブーマー(団塊の世代)は1947-49年生まれです。
太平洋戦争終結による本邦帰還兵の子供たちが生まれた年代です。
彼らが40歳になった1987年に向けてバブルが発生し、5年後にバブルが崩壊しました。

米国のベビーブーマージュニアは日本から10-15年遅れです。
米国は戦勝国なので、世界に兵士が駐留し、帰国が遅れたためです。
彼らが40歳を迎えた2000年から米国の住宅バブルが発生し、08年に崩壊しました。
そしてベトナム戦争のため、米国のアラフォー世代は今後減少していきます。

個人的には、人口動態は経済活動のかなりの部分を説明すると考えています。

今後の経済は、こうした人口動態的な10-20年周期のサイクルに立ち向かわなくてはなりません。
その中で、財政発動による需要喚起は一つのサポート要因です。
これが自律的な需要回復につながるか、単なる需要先食いの先に反動減があるのかが課題です。

反動減を防ぐ、米国のクレジットバブル崩壊と住宅バブル崩壊を埋め合わせる需要とは何か?
この数ヶ月、多くのエコノミストにこの議論を吹っかけました
その回答を総合すると、「人類の英知でどうにかするとしかいえない」というものでした。

その「人類の英知」こそ、学校で習った最後の波、コンドラチェフサイクルではないでしょうか。
これは技術革新サイクルといわれています。
蒸気機関、鉄道、電気、戦争などで到来する波で、50年周期の波であると言われています。
政府の環境技術投資促進策は、この波を上げ潮にするためのものでしょう。

また、日本に関してのみ言えば、クズネツクサイクルの戻りにも期待できます。
すなわち、団塊ジュニアのアラフォー入りです。
今回、米国のアラフォー世代は縮小に入りますので、米国内需の拡大は当面期待薄です。
逆に、日本の団塊ジュニアは現在33歳。今まで婚姻市場を引っ張ってきましたが、一服しています。

日本経済はバブル崩壊後は団塊世代の退場により需要減退に悩みました。
同じタイミングで米国はベビーブーマーの消費旺盛な時代になりました。
当然、市場がそこにあるので、日本は輸出主導型の経済成長になります。
しかし、その時期も過ぎました。
次は国内団塊ジュニアが子育てに住宅を買い始める番になります。

今回の景気後退は構造的なものであり、回復に時間がかかるとの指摘が見られます。
一方で、より長い目で見れば、これとて一つの循環的なものと理解することも可能と思われます。
市場の失敗、による信用収縮が発生しています。
各国政府は、民間銀行を活用して信用創造を膨らまそうとしていますが、なかなかうまくいっていません。

米国は失敗の連続です。

JPモルガンはPPIP資金すら使わない、と宣言しています。
PPIPとは、Public-Private Investment Planの頭文字で、政府と民間が同額出資して不良債権を買い取る仕組です。
これで不良債権に価格がつき、寝ている資金が動き出すと政府は期待しています。
しかし、公的支援の対価を求められると警戒され、使われずに終わる可能性が高くなっています。

ほかにもTALFというスキームもあります。
Term ABS Loan Facilityの頭文字で、連銀がABSを担保に金融機関にカネを貸す仕組です。
ところが、これも実績がなく、4月7日の実績数値発表時には政府施策の有効性疑義から株価が下がりました。

もう一つ、似たようなのにTLGPというのがあります。
Temporary Liquidity Guarantee Program の頭文字で、金融機関の発行する社債に保証をつけて調達を容易にさせるものです。
預金保険機構が保証するので、金融機関が資金調達しやすくなるという期待がありました。
これも、3月30日にリンカーンナショナルという保険会社が活用しようとしたのに預金保険機構に拒否されました。
その後、リンカーンは格付会社に格下げを受けています。

これら、政府支援は利用すべき金融機関が拒否したり、政府が制限的に運用したりで、充分機能していません。
すなわち、政府が民間企業である金融機関を誘導しようとした施策は、あまりうまくいっていません。

「TARP返済」とは、信用創造の回復を支援するためのキャピタルインジェクションをアンワインドするものです。
せっかく信用創造機能を強化しようとしたのに、民間銀行からは「余計なお世話だ」とされてしまいました。
あまりにうまくいかないので、クルーグマン教授はバブル後の日本を馬鹿にしたのは間違いだったと自己批判しています。


そういう日本でも、経験があるはずなのにうまくいっていません。

日本でも、日銀による銀行への劣後ローン1兆円投入、金融機能強化法で政府が12兆円の資本注入を用意しました。
しかし、メガバンクは「政府の指揮命令系統に入ってたまるか」と逃げ回っています。
過去の公的資金注入では、政府に一挙手一投足を指図され、挙句トップ年収1500万円などの待遇に追い込まれたからです。

一方、貸付の元手になる資本は不足していますから、貸し渋りで対応しようとしています。
その結果、資金調達できない企業が倒産に追い込まれ、不況がさらに加速する、という悪循環になっています。

株安に対しても、三井住友が発行済株数の1/3に及ぶ増資を発表し、発表日はストップ安となりました。
それでもいいから政府の指図は受けない、という決意の表れです。

三菱UFJも昨年度に大型普通株増資を行ったので、みずほは増資に出遅れました。
08/3期末の株式/純資産では、みずほ106%、三井住友81%、三菱UFJ72%と、もっとも負担が重いのにも関わらず、です。
この数値が25%とのことで、りそなの時価総額がみずほを抜く、とか訳の分からないこともおきています。

結局、銀行が民間企業で、上場して株価が付いていて、投資家への責任を負う以上、政府指導にも限界があります。
株主を裏切って世の中のために尽くせ(=公的資金を受けて企業へ資金供給せよ)と言っても、できません。
昔は日本興業銀行などが国策に対応して資金供給したものですが、時代は変わりました。

このような中では、政策金融機関の存在が不可欠になります。
日本なら、政策投資銀行やゆうちょ銀行が使えます。
米国でも、ファニーメイやフレディマックを事実上国有化して、住宅金融市場に資金供給しています。

こうした政策金融機能がすっかり弱くなっているのが現状です。
この際、りそな銀行や新生・あおぞらを100%国有化して、政策金融機関にしてしまうのはどうでしょうか。

同時に自己資本比率規制に上限を設け、TierⅠ比率が6%以上になったら業務改善命令を出すのもいいと思います。
(無論、抜け道は無限に発生するので、きちんと目張りをしておく必要があります)

「神の見えざる手」など、恐怖に覆われた今の金融環境では期待できません。
この失敗は、民主主義のコストとも言うべきで、そのコスト負担として政策金融機関の維持育成が求められます。
決して財務省官僚の天下り先、というくだらない位置づけではないことを啓蒙すべきではないでしょうか。

週刊東洋経済の「徹底見直しガイド保険・共済・年金」
週刊ダイヤモンドの「まだまだあった!保険のムダ」
週刊エコノミストの「いよいよ生保」

このところ、生命保険会社の危機を煽る特集が立て続けに雑誌で組まれています。
新年度の保険加入検討を狙ったマスコミの販売戦略と大和生命破綻が背景にあると考えます。

確かに破綻のリスクはありますが、大和生命は本社を二度売った特殊な生命保険会社でした。
朝日生命も最近二度目の本社売却をしたので、どうかと思っていますが。

それよりも、最近の就職ランキングで保険会社の躍進が気になっています。
保険会社に就職することに魅力を感じている人が多くなっている、ということでしょう。

http://www.diamond-lead.co.jp/ranking09/b-danshi.pdf




生命保険は人間の命にかけるものなので、市場は人口に比例します。
その人口は確実に減っているので、保険市場も確実に縮小しています。


死亡保険の契約高は以下の通りです(単位は兆円です)。
グラフは日本の大手7社の合計で作りましたが、これで市場シェアの9割になります。


Cannalistのブログ


生産年齢人口が減っているので、当たり前ですが右下がりになっています。
これが最も影響するのは従業員の待遇面です。

保険会社には費差益という利益項目があります。
これは、会社がお客さんからもらった経費予算を節約して得た利益です。


契約高が減ると、お客さんからもらった経費予算がどんどん減っています。
一方で、保険会社の従業員は同じようには減っていないので、費差益がひどく下がっています。
大手7社の実績は下記の通り。08年度は上期を季節調整して推定しました。単位は1000億円です。



Cannalistのブログ


大手7社で今も4000億円もある事実に驚きもありますが、簡保は一社でこのくらいあります。
一方で、大手7社は、このままいくとあと4年でゼロになるという衝撃もあります。

保険会社の経営者は優秀ですから、そんなことにならないように経営していくでしょう。
その方策は二つあり、一つは日本の人口を増やすこと、もう一つは経費を減らすことです。

保険会社がどんなにがんばっても、人口は増やせないでしょう。
そうなると、経費削減しか方法はありません。

保険会社の待遇は良いことで有名です。
しかし、経費のほとんどが人件費である保険会社の経費削減は給与カットになります。


保険会社の従業員の給料は、これからものすごく下がることが予想されます。
それなのに、就職人気は高いのは不思議なことです。

自民党がGDPの3%となる経済対策を発表しました
再来週27日に法案提出の模様です

内容は既に報道の通りですが、ふと気づいた点。
G7で否定した保護主義が巧妙な隠れ蓑に包まれて内包されていることです。

「マンション購入者に贈与税免除」「エコカー購入支援」「省エネ家電購入支援」「地デジ購入支援」など。
いずれも、これら施策の商品供給者は日本企業以外ありえません。
研究費減税も同様で、日本の成長エンジンである輸出製造業を支援する色彩のものです。

基本的に、財政支出による景気浮揚効果というのは、あまりない、と言われます。
鎖国しているならともかく、自由貿易の中では喚起した需要が海外に流出するためです。
給付金で海外旅行に行ったり、イタリアブランドのバッグを買ったりするのはもってのほか、ということです。

上記の理由で、EUは財政支出に極めて後ろ向きです。
EUでは日本以上に資本の移動が自由であり、財政支出をやってもやっても隣国に流れてしまいます。
米国も同じで、だからこそ他国に財政出動をG20で求めました(精神的合意に留まりましたが)。

そういう米国も保護主義的です。
自動車セクター支援策が代表例ですが、他にも外国人へのワーキングビザを絞り込んでいます。
太陽電池もパネルのコストより建設コスト、高速鉄道も車両のコストより建設コストの高い投資です。
要は、海外に需要の流れにくい施策を選択的に行なっているのです。

当初、米国は自国の住宅ローン債務者についてのRMBSを買い取るとしていましたが、撤回しました。
そして米国の大手銀行への直接資金注入に変更しました。
これも保護主義的な視点から見ると当然の話です。

なぜなら、RMBSの債務者は米国人ですが、債権者はUBSとかRBSとか農林中金とかだからです。
つまり、米国政府のRMBS買取は、受益者に米国以外の金融機関が多く含まれるのです。
なぜ米国人の税金を使って、他国の金融機関を救済しなくてはいけないのか、と考えるのは自然でしょう。

こうした国家間の需要分捕り合戦の中で、優勢に戦い、かつ露骨な保護主義にならないような策が必要です。
今回の自民党案にはこうしたオブラートがかかっているのです。
さすがは財務官僚。

民主党も似たような政策を発表していますが、労働者寄りの色彩上、どうしても家計支援になっています。
その分、需要が海外に流れがちになります(中国からの輸入品の集まりである100円ショップで買ってしまう、とか)。
自民党のほうが、その意味では国家間競争上は戦略的かなと思いました。

ゴールドマンサックス証券は14日に5000億円の増資を完了しました。
その増資の成功は、充分に戦略が練られたものでした。

この増資の狙いは米国政府から投入された1兆円の公的資金返済です。
AIGやメリルの幹部へのボーナス支給を批判され、GMはCEOがクビになりました。
返済は先鋭化する公的資金投入企業への経営批判をかわすためです。

昨年度、ゴールドマンサックスは銀行持株会社に変更になりました。
これに伴い、従来の決算期11月が12月に変更になります。

ゴールドマンサックスはこの決算期変更を活用しました。
好決算を演出して、増資を円滑に完了させようとしたのです。

米国政府は、銀行には公的資金を行なうが証券会社には行なわないとのスタンスでした。
ゴールドマンサックスは、公的資金を得るために銀行持株会社になったのです。
これに伴い、決算期も変更となりました。
これを利用して、逆に公的資金返済の条件整備をするというのが皮肉です。

今回のゴールドマンサックスの決算発表は、二つの決算期を同時に発表しました。
一つは11月決算から12月決算に変更されたことに伴う12月単月の決算。
もう一つは1-3月の決算です。

一般的に報道されるのは、1-3月決算のみで、12月単月決算は無視されます。
これをゴールドマンサックスは活用しました。
すなわち、損失をなるべく12月単月に寄せ、1-3月のロスを減らしたのです。

具体的には、12月単月のわずか1ヶ月で1600億円の貸倒コストを計上しました。
1―3月にも800億円の貸倒コストは計上しましたが、月当たり85%の急減です。
当然、1-3月の決算は「好決算」となります。

ゴールドマンサックスは決算発表と同時に増資を発表しました。
そして1日でこれを完了させたのです。
決算内容の吟味を充分に行う時間を投資家に与えませんでした。

さらにゴールドマンサックスの演出は念入りです。
本来14日に発表予定としていた決算発表を、突然1日前倒ししたのです。
前倒しで好決算を発表し、サプライズを演出、同時に増資を発表して1日で募集完了しました。

さらに、この決算期変更の活用はこれだけではありません。

ゴールドマンサックスはAIGへの債権を最も多く保有すると言われてきました。
当時の財務長官ポールソンは、ゴールドマンサックスの元CEOです。
ポールソンがリーマンを潰したのにAIGを温存した理由がここにあるとも噂されています。
リーマンはゴールドマンサックスにとってのライバルで、AIGは債務者だったのです。

その後AIGは国有化され、その最大受益者のゴールドマンサックスの資金回収が注目されていました。
それがこの12月単月決算の中で行なわれているのではないか、とささやかれています。
通常の四半期決算についての詳細な公表と分析がされない特殊決算期に混ぜたのではないかと。
実態は公表されていないので当事者にしか分かりません。

さすがゴールドマンサックス。
公的資金投入を受けた結果の決算期変更をここまで活用するとは。
我々も大いに見習わないといけません。