前項末尾にて「岸田久吉」氏の事を記しましたので、今回は此処から始めたいと思います。
岸田久吉氏は「日本哺乳動物学会(1925年設立)」を黒田長礼氏等と共に設立した哺乳類学者ですが、多くの書物(文献)も残しています。
その中の一つ「哺乳動物図解」236ページに『尾端は有色の房を荷はず。』の記載が有りますし、それは「日本動物誌(Fauna Japonica)」からの引用です。
「哺乳動物図解」-1
「哺乳動物図解」-2
「哺乳動物図解」236P
236P当該箇所
そして、黒田長礼氏が後年著した「日本哺乳類図説」にも同様の記述が見られます。
黒田長礼氏
「日本哺乳類図説」
私は、二ホンオオカミの目撃情報が届く際「身体の大きさ」「耳」「尾」の状態を最初伺い、その後他の細部確認に移ります。
剥製標本の場合も同様で、写真で送られて来る剥製/毛皮標本も同じ感じです。
写真で送られてきた剥製標本
今から5年ほど前、私たちは群馬県富岡市の県立自然史博物館を訪れました。
群馬県立自然史博物館
高崎高校に長く保存されていた「ヤマイヌ」の剥製標本を調査する為でした。
その剥製は経年劣化が激しく、私達も標本を前にして、痛ましい気持ちになった次第です。
そして、「身体の大きさ」「耳」は兎も角「尾」の状態に違和感を感じました。
劣化した剥製
剥製の尾の状態
県立高崎高校のラベル
剥製を前に私は、学芸員の方に「長谷川館長の見解は?」と問いました。
著名な古生物学者である長谷川館長は科学博物館OBで、私とは「袖すり合うも多生の縁」的な存在でした。
すると、「一瞥をくれただけ!」の答えが返って来たのです。
館長は会議中と云う事でその理由を確認する事無く、上野村の洞窟から発掘された頭骨の調査をした後、博物館を辞したのです。
ニホンオオカミ上顎標本
そのラベル
此処からは私見ですが、科学博物館に所蔵されていたM831剥製標本を、岸田久吉氏/今泉吉典氏を始めとする歴代の研究者たちは、その存在を知っていた。
しかし、群馬の県立自然史博物館の長谷川館長の様に「一瞥をくれただけ」で素通りした・・・のでは無いか?
M831の尾が房状の毛で先端が黒色・・・だったが故に。