2月下旬になってから、当ブログのアクセス数が多くなっています。

その原因ですが、国立科学博物館紀要の季刊誌「国立科学博物館紀要」に、『国立科学博物館所蔵のヤマイヌ剥製標本は、ニホンオオカミCanis lupus hodophilaxか?』とする論文が2月22日に発表されたからだと思います。

2月28日にはNHKニュースでも取り上げられ、ブログのアクセス数が1.500近くに跳ね上がっています。

 

ヤマイヌ剥製標本

 

この論文は「小森日菜子/小林さやか/川田伸一郎」各氏の共同執筆で、当ブログでも関連の記事を、去る2022年7月22日/7月29日の2週に渡って「子供たちのニホンオオカミ」として載せています。

特筆すべきは、筆頭著者の小森日菜子さんが 当時小学校5年生(現在中学1年)だった事です。

 

論文にして検証することで・・・

 

著者の小森さんは,2020 年11 月3 日国立科学博物館筑波研究施設で開催された「科博オープンラボ2020」に参加した際に,ニホンオオカミに似た剥製標本M-831が標本棚に置かれていることに気がついた事から、この度の論文に繋がっているのです。

 

科博オープンラボ2020

 

小学生の時作成した資料1

 

この剥製の口吻部の輪郭がニホンオオカミのタイプ標本の姿を描写した『Fauna Japonica』(Temminck, 1842–1844) の図と類似し,額段が浅く,前肢が短く,頬ひげがある点等がニホンオオカミに似ていると考えたのです。

 

小学生の時作成した資料2

 

本論文の主たる考察は、当該標本のラベル、標本台帳、文献、本研究で見出された関連資料から、当該標本の採集あるいは取得情報を検証して、ニホンオオカミである可能性を検討していますが、頭胴長を含む各部位の計測をする中、形態学的特徴にも触れています。

 

当該標本M831のラベル

 

関連資料

 

論文中の多くに賛同するものですが、形態学的特徴中の幾つかの項目で疑問を生ずるのも事実です。

例えば、下記「外部形態の検討」の記述。

  1. 身体の大部分がタン色を帯びた灰褐色で,頭部と四肢以外は比較的長い毛で覆われていた。
  2. 背中から尻にかけて濃いチョコレート色の毛が混ざり,側背面から尻付近で松皮模様が見られた。
  3. 尾は房状の毛で先端が黒色であった。

尾は房状の毛で先端が黒色

 

   4.耳介から下顎にかけては頬髭があり,上下唇と頬は灰白色,下唇口角部と耳介後

      面及び前肢後肢裏側の一部に赤茶色の毛が 混じっていた。

   5.口の隙間から歯は見えず,剥製内部に頭骨は入ってないと推測され,頭部の額段

    (ストップ)は浅く不明瞭だった。

   6.前肢は内側に狼爪があり5 指,後肢は4 趾で,爪はいずれも黒褐色だった。

   7.当該標本からは陰嚢が確認され,オスと判定された。

   8.当該標本は,身体の左側面はススのような汚れが付着し,毛が黒く変色した箇所

      があった。

   9.前肢は伸びた状態ではなく,肘を曲げて少しかがんでいるような姿勢をし,右足

      首と尾が紐で縛られ固定されていた。

 10.また,左耳は横に倒れ,右耳は折れ曲がり,従来の成形ではなく,破損と考えら

      れる箇所がある。

左耳は横に倒れ,右耳は折れ曲がり

 

10項目中3以外は賛同出来るのですが、3の尾は房状の毛で先端が黒色であった。・・・とする部分に付いて、私の見解とは違っています。

 

私は過去に於いて、今泉吉典先生指導のもと、幾多の頭骨標本及び毛皮標本発掘に関わって来ました。

三峰山博物館所蔵の毛皮3点の全ては、今泉先生のお墨付き。

3点とも私が先生の自宅に持参し、机に向い合せで着席の中、レクチャー戴いたものでした。

独国ベルリン博物館所蔵、全身骨格及び毛皮標本の再発見も、今泉先生御指導の下でした。

 

今泉先生と机に向い合せ

 

三峰山博物館毛皮の尾端A

 

三峰山博物館毛皮の尾端B

 

三峰山博物館毛皮の尾端C

 

分類学者である今泉先生は、タイプ標本と持参の標本とを比較をする訳です。

Canis hodophilaxの命名者で、ライデン自然史博物館のテミンク[TEMMINCK]初代館長が日本動物誌(Fauna Japonica)上にて著した、ニホンオオカミの特徴の一つである“尾端に房を得ず”は、重要な観点とも言うべきものです。

 

日本動物誌(Fauna Japonica)

 

これは、今泉先生の大先輩にあたる「岸田久吉」氏も述べていましたし、今泉先生も標本調査の時必ず心した事項でした。

 

岸田久吉氏