「オオカミはいた。そして、ヤマイヌも。」を掲載するに辺り、過去の掲載分に眼を通していましたら、本年3月10日、17日、24日の3回に渡り、掲載済みでした。

ただ、ニホンオオカミを勉強する為にどうしても避けて通れない件ですので、再度、3月掲載記事を下に思考して行きたいと思います。

 

山根一眞の動物事件簿

 

ライデンのタイプ標本が「ハイブリッド」だというのは、TBSTV「世界ふしぎ発見!」スタッフがライデン博を訪ねた時担当のスミーンク博士も、「これはハイブリッドだ」と言っていました。

 

TBSTV世界ふしぎ発見!

 

この辺の事を大まかに記すとこうなります。

オランダのライデン自然史博物館所蔵ニホンオオカミ標本は、ドイツ人医師シーボルトが日本国内で集めたものです。

 

ドイツ人医師シーボルト

 

ライデン博蔵のニホンオオカミタイプ標本は、頭骨A/B/C/3点とA頭骨に付随する全身骨格、そしてC頭骨に付随する剥製です。

 

ライデンのタイプ標本

 

頭骨B(左)/c(右)

 

それらを一括りに、初代館長のテミンク氏がCanis hodophilax と命名したのですが、シーボルト記述の文献にはオオカミとヤマイヌを長崎の出島で飼育したと反論しているのです。

 

ライデン博初代館長テミンク

 

後の研究者により、「A頭骨及び全身骨格はイヌ」であることが明らかになったのですが、B/C/頭骨と剥製をニホンオオカミとして、現在まで引き継がれていました。

 

右A頭骨左B頭骨/の湾入

 

ライデン博の当時の担当で有った「スミーンク博士」は、B/C/頭骨の外部形態が著しく違っていた為、B/をニホンオオカミC/をヤマイヌとして、取材に訪れたTBSTV「世界ふしぎ発見!」スタッフに説明しているのです。

 

ライデン博の担当官スミーンク博士

 

ニホンオオカミの遺伝子解析の魁である「石黒直隆」氏が数年前、ライデン博のC標本に於いてミトコンドリアの遺伝子解析をしたのですが、

予想に反して「ニホンオオカミ」としての結果が出たので吃驚した。

そしてその数年後、「同標本を核遺伝子での解析をしたら、オオカミとイヌの交雑種だった」と云う事です。

ミトコンドリアでの解析は「母系遺伝」としての結果が生じるが、核遺伝子では「父母の遺伝子が」判明する為・・・なのですが、遺伝子解析の著しい進歩が為された近年でこその結果なのです。

 

石黒直隆氏

 

石黒氏がタイプ標本をヤマイヌと見当付けたのはどんな理由だったのでしょうか。

1.剥製の外部形態からの理由付け・・・日本国内の剥製3例と比べると、ライデンの剥製は小さく外観も異なる。

2.頭骨の外部形態からの理由付け・・・B/頭骨、C/頭骨の神経孔の数と湾入の形態が異なっていた点。

3.そして、採集者であるシーボルトの記録を探った・・・

 

B/頭骨の湾入部

 

C/頭骨の湾入部

 

多分それらを総合して、タイプ標本はオオカミとイヌとの交雑種(つまりヤマイヌ)と考えたのだと思います。

ミトコンドリアDNAでの解析でオオカミとなっても、核DNAの解析でヤマイヌと結論付けが為される・・・と、石黒氏は密かに思っていたと私は推測します。

 

ライデン博の当時の担当官だったスミーンク博士は、タイプ標本頭骨A/B/C/を比べ、明らかに違っている事を指摘し、

A/頭骨はイヌ、B/頭骨はオオカミ、C/頭骨はオオカミとイヌとの交雑種(つまりヤマイヌ)とTVカメラの前で指摘しています。

 

左からA/B/C頭骨

 

30年少し前、TBSTV「世界ふしぎ発見!」に出演した際、私は上記スミーンク博士のコメント入りDVDを、番組スタッフの好意で入手していました。

 

雪の中のロケ

 

国内及び世界中に保管されている(英/蘭/独)ニホンオオカミの頭骨標本の、その殆どを調査して来た私は、オランダのタイプ標本と国内の数標本に違和感を感じていました。

タイプ標本がヤマイヌで在るなら、違和感を感じている数標本も、同じ解析方法に於いてヤマイヌとしての結論付けが為されるのでは・・・と考えている処です。