1997年は非常に忙しい年でした。
前年10月秩父野犬の撮影に成功し、今泉博士の所見を得てその存在を公にすると、嵐の様にメディアから取材依頼が殺到したのです。
限られた時間の中で取材を受ける訳ですから、ロケ現場への行きと帰りに乗る車は違うメディア・・・そんな事が幾度も有ったように記憶しています。
 
多くのメディアが1回限りの放送でしたが、前回記した「うぇいくあっぷらんど」ともう1社、TBSTV「世界ふしぎ発見!」を制作する「テレビマンユニオン」からは再度の取材依頼がありました。
本年71日(土)で1.439回を数える長寿番組ですが、最初に私が関わったのは1997年で20年前の事になります。
 
番組のその時のテーマはオランダの国立ライデン自然史博物館並びにシーボルトで、ニホンオオカミのタイプ標本は幕末に、シーボルトが集してライデン自然史博物館に展示して有りますから、私達の活動に大いに関連が有るのですが、何故か制作担当者のニホンオオカミへの思い入れが強く感じられました。

イメージ 1
フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト

山中のロケは1日掛かりで自然との闘いの中でしたが、その合間担当ディレクターから思いもかけない事を聞かされるのです。
全く違う場所では有りましたが、私が撮影した秩父野犬と非常に良く似た動物と遭遇した事が有ると!
 
2014年秋に行ったフォーラムで参加者に配ったレジュメに、
4.大塚 修一・・・・・見た・・・・・・・・・・・・・・富士山麓
   日時は不明(1996年以前)だが、TVのロケに向かう途中富士山麓で遭遇。
    後日撮影・発表された秩父野犬にそっくりだった為、プロデュースするTBST
       V「世界不思議発見」シーボルト編で八木を起用する。
   撮影後その事を打ち明けられたのだが、それらは見狼記の際の金尾氏
   と 同じ。】と記されています。
 
撮影が終わった帰りの車中で、「来年もう1回オランダをテーマにやりますので、八木さんお願いします」と云われ、約束通り1998112123の連休に三峰山中で撮影が行われました。
放送は翌年116日でしたが、ディレクターの大塚氏はシーボルト及びニホンオオカミに関し丁寧に取材され、番組中で二人のナビゲータにこう語らせています。
 
ここはライデン国立自然史博物館です。
シーボルトがオランダに送った日本コレクションの内、貴重な動植物の標本はここにおさめられています。

イメージ 2

中でも未だに大きな謎になっている動物が有ります。
それは今から90年前に絶滅したと考えられているニホンオオカミなんです。
その謎のニホンオオカミの剥製がこちらなんですが、小さくてオオカミらしくないですね。

イメージ 3

実はシーボルトはこの標本をオランダに送るまでの事情をこう書き残しているんです。
「私は牝のヤマイヌを大阪で買った。」
「私はヤマイヌを数年間出島で飼った。」

イメージ 4

「その皮は今ライデンの博物館にある。」

イメージ 5

「私は生きているオオカミも二頭見て両方を購入した。」

イメージ 6

「頭の形を見ればヤマイヌとオオカミは直ぐに見分けがつく。」
何と、シーボルトが買ったのはヤマイヌとオオカミと言う別々の動物だったのだ。
そして、何年も生きた状態で観察した後、別種の動物としてライデンに送ったのである。

イメージ 7

ところが、受け入れた博物館の手違いから、ヤマイヌとオオカミの標本が一緒にされ、Canis hodophilax(ニホンオオカミ) と名付けられたところから混乱が始まったのである。
(受け入れた際の博物館の初代館長は、コンラート・ヤコブ・テミンクで、ニホンオオカミの学名はCanis hodophilax Temminck,1839 となっている。)

イメージ 8
コンラート・ヤコブ・テミンク

因みに、ニホンオオカミの標本として最も有名な剥製の台の裏側には Jamainu (ヤマイヌ)と書いてあります。

イメージ 9

イメージ 10

やっぱりこれはオオカミでは無かったのでしょうか?
この剥製にして言えば、これはニホンオオカミでは無くて、違う生き物だと思います。
考えられる可能性としては、飼い犬つまり日本在来種のイヌが野生化した物か、或いは恐らく、ニホンオオカミと野生イヌとの間に出来た新種だと思います。】

イメージ 11
 
皆さんお気づきの事と思いますが、番組ナビゲーターが語っている内容は、20年前に新潮社のシンラ「山根一真の動物事件簿・狼」で記されている内容とほぼ同じです。
それは、「世界ふしぎ発見!」も「山根一真の動物事件簿・狼」もオランダまで足を運び、シーボルトに関わる書物「FAUNA JAPONICA」「江戸参府紀行等を綿密に調べ上げているからこそなのです。

イメージ 12
 FAUNA JAPONICA (日本動物誌)
 
私たちの理論構築もそこから始まっていますので、「ニホンオオカミとヤマイヌは違う動物」として、研究している訳です。
シーボルトが言う様に、「頭の形を見ればヤマイヌとオオカミは直ぐに見分けがつく。」・・・・・国内外に遺された頭骨標本を数多く調査すると、そうなるのです。
Jamainu」の標本を手にして、ライデン博の哺乳動物部門学芸員スミンク博士が「ニホンオオカミと野生イヌとの交雑種がヤマイヌ(だろう)」と語る件に関しては、正確な事は解りませんが。
 
2回目の放送は仲間と山中でオオカミ探しをしている様を紹介して貰いまして、雪の中でしたが非常に楽しい時間を過ごす事が出来ました。
オランダロケに際しては、私の為にタイプ標本の写真、VTR映像その他諸々を撮って戴きました。
それらは、標本比較の資料等で現在も活躍中ですが、大塚氏が富士山麓で遭遇した動物に思いを込めているが故の事だったと感謝しています。

イメージ 13
ニホンオオカミの爪は黒?で論争した事が有った