私の下に届く生存に関する情報は大別して、「目撃情報」と「咆哮を聴いた」とするものです。

「目撃情報」が届けられた時は先ず「耳」の状態と「尾」の状態を伺うのですが、「耳が寝ていた」「尾が巻いていた」以外は質問を次のステップに移す訳です。

動物の身体の大きさ・・・例えばイヌで言うなら何種位の大きさ・・・とか、毛並みの状態等を伺うのです。

「咆哮を聴いた」・・・の情報の場合は、TPOを伺い過去に得られた周辺での情報との突合せを行います。

奥秩父山中ですとその殆どに足を踏み入れている為、その現場の土地所有者も凡その見当が付きますが、国有林内となると二の足を踏まざるを得ません。

土地、山の管理上の問題で、安易にカメラ設置が出来ないのです。

 

処で皆さん、鹿の妊娠期間をご存じでしょうか?

一般的には210~230日と言われ、5月中旬から7月にかけての出産、特に6月中旬が最も多いとされています。

発情期は9~11月頃で、繁殖期には優勢なオスが数頭のメスを囲い込むそうです。

その時優勢なオスがどんな行動をとるかと言うと、自分の存在を示す―ラッテングコール(雄叫び)―をするのです。

 

9月28日の雄叫び

 

10月17日の雄叫び

 

11月15日の雄叫び

 

5月31日鹿の親子

 

7月11日鹿の親子

 

聞き慣れれば何の問題も有りませんが、一般的にはオオカミの咆哮と間違われます。

過去に届いた生存に関する事例を掘り起こすと、幾つかの事例が届いています。

2010年10月21日掲載の「三峯山遥拝殿で4名が遠吠えを」の女子大生の件。

 

遥拝殿から奥宮を望む

 

2011年9月4日掲載の「登山者から目撃情報」中、

【2010年11月中旬、縦走路中の山頂で遅い昼食を採っていた時、獣の咆哮が聞こえて来た。

半信半疑で下り始めて間も無く・・・小さな石の祠に辿り着いて再度同じ獣の咆哮が・・・。

怖くなって帰り道の坂を急いで下っている途中、10m位先の登山道を横切ったイヌ科動物に遭遇した。】の事例。

 

飛竜山頂で音声収録を試みる

 

目撃現場にカメラを設置

 

登山者からの聞き取りでは、「2度の咆哮と10m先の登山道を横切った動物を同一」と考えていました。

しかし、諸々の状況からそれぞれが別の動物だった・・・と考えるべき事が解って来ました。

そして、遭遇現場に2年間カメラを設置し観察した結果、遭遇動物はキツネだった事実が有りました。

 

遭遇現場に現れた動物-1

 

遭遇現場に現れた動物-2

 

2012年6月3日掲載の「斐太亥之介論」中、

【岳人(編集部)のIさんに大峰山中での体験を聞いて来ました

2006年か2007年の11月、大峰山脈を単独で南下縦走していた時、

迷平(舟ノ垰周辺)のテント場からちょっと南下したところで、幕営中に東面から声を聞いたそうです。

声は1匹だけでしたが、吠え声でもなく、遠吠えでもなく、“犬とは思えず、野性味があって怖く感じた”と云う事の様でした。】

 

他にも多く「咆哮を聴いた」とする情報を当ブログに掲載していますが、他は9~11月頃の繁殖期以外でその咆哮は雄鹿以外のそれと考えられます。

 

こんな雄鹿も撮れています

 

また、上記3例も―ラッテングコール(雄叫び)―以外の咆哮かも知れないので、宜しくご理解ください。

YouTubeのニホンオオカミ-3の末尾に記した

【驚く事は、閲覧数が50万件を超え800件以上のコメントが有り、その6割超の人達が「ニホンオオカミ論」なのです。

とすると、私達に届いた「ニホンオオカミ生存情報」の再吟味をする必要が生じた…と云う事です。】の様に、

今回は、私達の下に届いた生存に関する情報の再吟味をしたいと思います。

 

私達に届いた多くの生存情報ですが、出来る限りの範囲で現場まで足を運び、場合によってはトレイルカメラを設置し、2年間ぐらい観察することにしています。

1つの情報だと「点」に過ぎないのですが、2つ情報が重なれば「線」になり、3つの情報なら「三角形」になり、それが「多角形」になった典型的な現場が「三峯山」周辺と云う事で、現在設置したカメラは50台を超えているのです。

 

三峰山周辺地図

 

その山域になりますが、三峯神社が女人禁制だった時代、女性の参詣で賑わったため別名「東国女人高野山」ともよばれる、臨済宗建長寺派の禅寺T寺があります。

 

山中深くのT寺

 

T寺の境内

 

5~6年前になりますが、そのT寺に立ち寄った際吃驚した事がありました。

周辺に民家等は存在せず迷惑をかける事等は無いからでしょうが、広い境内に十数頭のラブラドルレトリバーが放し飼いだったのです。

イヌ好きの私にしたら天国の様な場所に思えたのですが、或る日困った情報が飛び込んできました。

 

三峯神社から雲取山に向かった登山者が、「山中でラブラドルレトリバーに道を塞がれ、登山を断念した。」と言うのです。

若しかしたら…と云う事で、T寺から三峯神社間に設置して有るカメラのチェックをして見たら、吃驚、吃驚、吃驚。

しっかり2頭のラブラドルレトリバーが映っていたのでした。

 

2頭のラブラドルレトリバー

 

と云う事は、2014年10/23掲載の「湯気が出る程の最新情報」に記した

【三峰山周遊ルートとなるT寺経由で車を走らせていた時、ガードレールの下から顔を覗かせていた動物に気付きました。

ライト越しでは有りますが、白っぽくグレーが混じった模様の、かなり大きめのイヌ科動物だったそうです。

一目でイヌとは違うと感じましたが、耳の形状、尾の形状はよく判らなかったと言います。

ただ、巻き尾で無かった事は確かで、二人の車が来なければ道路を越えて、山に登ったのでは・・・とも。】の事例は、その可能性が大・・・とも言えます。

ラブラドルレトリバーの尾は巻いていません。

ただ、耳は寝ていますので、その辺が不明だったのは心残りだった・・・と。

 

ガードレール近くに在った鹿の亡骸

 

もう一例。

【初めまして、山岳信仰の研究を専門としている大学生です。

去年(2013年)の5月、私も狼のような獣を見る経験をし、以来山岳信仰と共に狼の文化的立ち位置や生存の確認を独自に行っていました。

今回、このような会の存在をネットで見かけたので御連絡させていただきました。

一般学生でも協力できるようなものでしょうか。】

「神社の宿坊に泊まって、早朝奥宮参拝に行く途中、眼の前を白い動物が横切った!」と言う事例だったと思いますが、白い動物の目撃例と言うのは、この事例と雲取山登山の方がラブラドルレトリバーに道を塞がれた件だけ。

20数年間カメラで奥秩父山中の野生動物を観察していますが、白い動物の撮影はT寺飼育のラブラドルレトリバーだけだと云う事は・・・。

 

白狼は神話の世界だったのか

 

そして、この場所の至近距離で足跡を見つけた事例。

【上記現場のカメラ設置位置から5分位下った場所に刻まれた足跡で、トロット歩行のそれが20~30m続き山中に消えていた、誰でもイヌ科動物と判る足跡でした。

写真撮影・計測等をしていると若い女性の登山者が登って来ましたので、途中イヌ科動物を見なかったか尋ねるとすぐさま首を振られました。】・・・の事例で2019年3月13日、三峰山中でした。

 

トロット歩行の足跡

 

70mmの足跡

 

しっかりした足跡だったが

「YouTubeのニホンオオカミ」3回目になりますが、前項コメント欄に下記文面の掲載がされました。

“柴犬と亀達日記“さんからで、5月21日の投稿でした。

 

【私は、何頭もの日本犬(北海道犬、紀州犬、甲斐犬、柴犬)を飼育して来ました。

 現在も飼育しています。

 宅の周りには、本土キツネも沢山居ます。

 私も 動画を何回も観ましたが、体型、尾尻、頭部の様子から、キツネではありません。

 キツネと言う人は、キツネを見た事が無い方だと思います。

 犬でもキツネでもない、ニホンオオカミだと思います。】

 

国立科学博物館剥製

 

国立科学博物館全身骨格

 

ただ、写真の動物が何物であるか・・・を、多数決で決めることは出来ない訳で、非オオカミ論の中には“キツネ”と特定した意見も多く有りました。

 

【1. 役所で自然保護や野生動物に関する問題に対処する部門にいました。

この映像の動物はキツネの可能性が高いですね。

キツネとは特徴が違うというコメントが散見されますが、おそらくそれはキタキツネやアカギツネをイメージしているからだと思います。

映像の動物は特徴から察するに日本の本州四国九州に生息するホンドギツネだと思われるので、創作物や動物園等でしかキツネを見たことが無い人はイメージとの乖離 

があるかと思います。

2. 石の台に撒いてある粒状に見えるエサは、米それとも他の穀類でしょうか?

雑食性の強いキツネが喜んで食べるエサで、オオカミがこのエサにおびき寄せられてやってくるとは考え難いです。

そしてオオカミのエサとなる動物がカメラで頻繁に撮影されていないと、この近辺がオオカミが生息するのに適した環境とは考えられないと思います。

生態が適応変化して体も小さくなり雑食性になったニホンオオカミが、ひっそりと種を繋いでいる可能性もありますが、この外見だと野鼠や野鳥の卵やカエル程度しか

捕食できない雰囲気です。最後の全身シルエットは、ホンドギツネかなと思いました。

 

石の上の餌を食べる動物

 

3.今からめっちゃ夢のない事言うけど… オオカミは知っての通り肉食性で肉しか食べない 狐は雑食性で肉や芋とか米を食べる。 カメラの前に置かれてるのは多分穀物類。

カメラマンは狐を撮ったんじゃない?

4.尻尾の長さを見ると多分狐かな?ニホンオオカミ何処かで生きていたら良いですね。

 

尻尾の長さに注目

 

5.モノクロだから無骨に見えたりするけど彩色すればいつものキツネになりますよ。

 

八木撮影のキツネ-1

 

八木撮影のキツネ-2

 

6. 思っていた以上に狐ですね。だからと言って命の価値は同じですのでこれからもがんばってください。

7.(映像が)アップの時に瞳の虹彩が縦に見えるのでキツネです。犬とオオカミは丸。

 

瞳の虹彩が縦に見える

 

8. これはキツネの可能性大。

キツネは光を受けたときネコのように縦型に瞳孔が収縮する。

イヌやオオカミは人間と同じように丸いかたちのまま収縮する。

9. 残念ですがキツネの目の特徴を持っているようです。キツネの瞳孔は、イヌ科では唯一、猫と同じ縦長だそうです。

10. 正面口の細さ、口から顎にかけての白毛の特徴、眼、目下のくま模様、耳裏の黒、体格… ニホンオオカミよりホンドギツネの特徴が多い。

 

耳の裏が黒い

 

耳の裏注目

 

 

11.縦長の瞳がキツネのそれに見える。尾の長さや毛量もキツネっぽいなあ。

確かに一般的な狐は顔がもっとほっそりした印象だが、ググってホンドキツネの写真を見るとこの映像によく似た個体もいる。

しかもニホンオオカミの剥製と見比べるとかなり違った印象。本当に生きていればそれはそれでロマンがあるのだが。

 

東京大学所蔵剥製

 

和歌山大学所蔵剥製

 

4月21日の当欄で、

【本来の問いは「どんな動物をニホンオオカミと呼ぶのか」であるはずなのに、現実には逆転して「ニホンオオカミとはどんな動物か」という問題になってしまっている。】…と、京都大学の田隅元生助教授が著した「ニホンオオカミの実体を頭骨から探る」からの文面引用をしています。

つまり今現在、ニホンオオカミの形態云々を述べるには、分類学上のルールである「タイプ標本」との比較が最良の方法なのです。

 

ニホンオオカミタイプ標本

 

同じく、キツネのそれですと、「瞳孔が猫と同じ縦長」「耳の後ろが黒い」等が知れている訳で、YouTube上の動物との一致点が見出される訳です。

私達は30年近く山中にトレイルカメラを設置しニホンオオカミの姿を追っているのですが、今回の動物の姿はカメラ設置当時から得ています。

 

トレイルカメラで捉えたキツネ

 

ただ驚く事は、閲覧数が50万件を超え800件以上のコメントが有り、その6割超の人達が「ニホンオオカミ論」なのです。

とすると、私達に届いた「ニホンオオカミ目撃情報」の再吟味をする必要が生じた…と云う事です。