前項「幻のニホンオオカミ」で記した、神経孔が左右6個あるイエイヌの頭骨に関してですが、三重県のオオカミ研究家故世古孜氏が1990年に今泉先生に届けたものです。

このイヌに関して私は、古代ニホンイヌ研究家の故岩田榮之氏から詳細を伺った事が有ります。

 

岩田榮之氏

 

世古氏の手元に来る前、奈良県十津川村の猟師が飼っていたそうで、飼い主は狩猟時仲間から誤射され命を落としてしまいます。

そして世古氏がそのイヌの2代目の主となるのですが、岩田氏がそのイヌを見て「ニホンオオカミ的」と言った為、その言葉に惹かれた世古氏は頭骨を調べたいが為、イヌを殺してしまうのです。

 

世古孜氏

 

和歌山大学蔵のニホンオオカミ剥製は、十津川村産と言われていますから、オオカミと交雑したイヌが先祖だった事は十分考えられる訳です。

 

和歌山大学蔵剥製

 

岩田氏云う事の「死んでから頭骨を調べれば良いのに。殺してしまうから、祟りが自分の処に跳ね返って来た。」…と。

その後世古氏は奥さんに殴り殺されてしまうのです。

岩田氏いわく「あのイヌは主人二人を不幸な死に追いやった・・・魔性のイヌだった。」…と。

 

平成4年1/4のASA新聞記事

 

ニホンオオカミの研究をしていると色々な事にぶち当たるのですが、私は先人達の戒めを胸に置き、程ほどにと考えているのです。

1996年10月に、私の車の前に立ち塞がった「秩父野犬」。

アクセルを踏むこと無く写真撮影に留まったのは、世古氏の事例が頭を過ぎったのかも知れません。

 

秩父野犬

 

【半世紀も前に絶滅したはずの中央アルプスに、突如現れた一羽のライチョウ。

「飛来メス」と、稀代の鳥類学者・中村浩志が出会い、前代未聞のライチョウ復活プロジェクトが動き出した。

 

稀代の鳥類学者・中村浩志氏

 

気候変動、人間による環境破壊、様々な天敵の襲来・・・・・。

次々と襲い掛かる難題に、独自の発想、最先端科学の知見、尽きることのない情熱によって立ち向かう「チーム中村」。

氷河時代から生き残り、日本の高山だけに残された「奇跡の鳥」を絶滅から救うため、プロジェクトに邁進する人々の姿を描く。】

 

ライチョウをヘリ輸送

 

開かれたライチョウ観察会

 

上記の書籍は本年4月末、集英社インターナショナルから発売された「ライチョウ、翔んだ。」です。

 

ライチョウ、翔んだ。

 

山岳ジャーナリスト近藤幸夫氏の処女作で、氏は朝日新聞社員としての安定した道を投げ打ってまで、中央アルプスでのライチョウ復活に身も心も捧げています。

2018年夏、木曽駒ケ岳で見つかった1羽の「飛来メス」をベースに、本年確認できた繁殖可能なライチョウが120羽、その子供たちを含めると現在350羽以上のライチョウが中央アルプスの各地で生息しています。

 

 

 

ヒナを育てる飛来メス

 

 

ライチョウの復活作戦は信州大学中村浩志名誉教授の執念と、それに惹かれたスタッフ及び近藤幸夫氏の生き様が書かれているのですが、ニホンオオカミ探しにも重複する事例が多々含まれて、非常に参考になりました。

 

『空白の五マイル』で2010年の第8回開高健ノンフィクション賞を受賞した角幡唯介氏も 「失われた自然を取り戻すには、狂気ともいえる執念で人生を捧げなくてはならない」と推薦コメントを捧げています。

 

角幡唯介氏

 

『空白の五マイル』

気が狂う様な今夏の暑さ!!!

7月は御身大切と云う事でカメラメンテナンスの入山は1回のみになりました。

因みに昨年7月は4回の入山を数えていますから、暑さが殊のほか厳しくなったのか、それとも体力の衰えが著しくなったのか・・・。

そんな訳で時間の空いた時は、様々な論文等に眼を通すようにしていますが、皆さんに是非読んで頂きたい文面が有りましたので提示します。

出処は不明(1992年5/3発行/週刊朝日百科の「動物たちの地球」?)で、読み終わった時「謎が深いニホンオオカミの謎」が益々深まる・・・様な文面ですが、30数年前の今泉吉典先生の記述です。

 

今泉吉典先生

 

幻のニホンオオカミ

 

幻のニホンオオカミ

 

オオカミは口が耳まで裂け、足跡が5本指だと日本の古文書に記されている。

だがここでニホンオオカミCanis hodophilax というのは、そのような伝説のオオカミではなく、シーボルトが小野蘭山の「本草綱目啓蒙」などに記されたヤマイヌと判定してオランダ、ライデンの博物館へ送った野生犬のことである。

 

ライデン博物館蔵タイプ標本

 

この短毛(背毛4㎝)のヤマイヌは、タイリクオオカミC.lupus より短脚で耳が小さい。

ところで上野の博物館に古くからあった福島県岩代産の野生犬は長毛(背毛9cm)で、ライデンのヤマイヌとは違うようにみえる。

だが、その骨格はタイリクオオカミやシェパードより長胴、短脚で、ヤマイヌに等しい。

 

福島県岩代産のM100剥製

 

そればかりではなく、耳が短く、背筋の黒色が体側の灰色毛より長く暗色縦帯(松皮模様)を形成し、橙褐色の前肢全面と淡色の内面の境に暗色縦班があるところまで、ヤマイヌにそっくりである。

周知のように、タイリクオオカミは夏冬で毛の長さが変わる。

ヤマイヌもこれと同じで、岩代の野生犬はヤマイヌの冬毛のものではないだろうか。

するとこれに似た大英博物館(奈良県鷲家口産)と和歌山大学の野生犬も冬毛のヤマイヌということになる。

 

大英博物館蔵剥製

 

和歌山大学蔵剥製

 

ヤマイヌの特徴

 

短脚長胴のヤマイヌは平原の生活に順応したイエイヌC.familiaris やタイリクオオカミと違って、名前のように山岳で生活する原始的な生物らしい。

ヤマイヌは、頭骨の重心が前方にあり、下顎を組み合わせた頭骨を机上に置くと、下顎後端が地に着かないことでもイエイヌと区別できる。

平岩米吉氏が発見したこの特徴は、私が調べたヤマイヌの頭骨(ライデンの2個、大英博物館の1個、および国内の15固)に例外なくみられたが、イエイヌでは吻が長い品種でも頭骨の重心は後ろにあった(103個調査)。

 

下顎後端が地に着かない

 

イエイヌの原種らしいディンゴC.familiaris dingo (11個)も同様である。

ところがヨーロッパ、アジアと北アメリカのタイリクオオカミは調べた頭骨(175個)の45%がイエイヌ型で、この形質ではヤマイヌとイエイヌの中間であった。

イエイヌの頭骨側面下方には、脳神経や動脈を通す孔が5個開いている。

ところがライデンと鷲家口のヤマイヌの頭骨のにはこの孔が6個のものがあった。

これは前から3番目の孔(正円孔)が外頸動脈を通す骨のトンネル(翼蝶骨管)内に開いていて外から見えないか、トンネルの前に露出しているかの違いである。

 

神経孔が5個

 

今泉先生のスケッチ

 

6個の型は原始的な状態を示すと思うが、これがヤマイヌ(11個)では頭骨の64%に見られたのに、タイリクオオカミ(197個)では8%にしか見られず、イエイヌ(103個)とディンゴ(11個)では見たことがない。

 

神経孔が6個

 

紀伊深山に潜む謎のイヌ

 

ところが、1990年、三重県のオオカミ研究家故世古孜氏は、この孔が左右ともに6個あるイエイヌを見つけて頭骨を送ってきた。

 

オオカミ研究家世古孜氏

 

それは大内山系の雌イヌだそうで、頭骨の重心はイエイヌ型だが、口蓋、頬弓、前頭骨などの形態はイエイヌと違ってヤマイヌに似ている。

大内山系のイヌというのは、大正時代に雌イヌを山中に繋いでヤマイヌと交配させ、これを繰り返して作出した雑種だそうだが、頭骨からも両者の雑種のように見える。

すると世古氏が、紀伊の深山に現在も少数生息し、イエイヌが恐れて近づかないと主張する野生犬は、ヤマイヌか、ヤマイヌとイエイヌの雑種の可能性があり、実態を調べる必要があると思う。

というのは、もしそれが雑種なら、近年カナダに増えつつあるコヨーテC.latrans とイエイヌの雑種「コイドック」のように、両親種のどちらとも習性が異なる新しい捕食者に発展して、生態系に重大な影響を及ぼすかもしれないからである。

またその中には、1905年に鷲家口で捕獲されたのを最後に絶滅したと信じられているヤマイヌ、つまり純粋のニホンオオカミが混じっていないとも限らないと思う。

野生犬は富士山須走口の森林にもいるが、ここのはイエイヌが野生化した野良犬にすぎない。

だが、紀伊にいるというのはただの野良犬ではなさそうである。

 

八木所有イヌの頭骨

 

頭骨裏面には湾入が有る

ブログ上での発信を始めて20年。

前項7/11発「届いたオオカミ情報」で621+α回を数えます。

(記録として残された物は2010/6/25からになっていますが、それ以前の記事は誤消却されています。)

そんな中、ブログ掲載こそしていませんが、(読み返しても吃驚する位)色々な方たちとのやり取りが残されています。

今回は気に留めた人たちからの文面と、そのやり取りを紹介したいと思います。

 

1)2016/8/12 I氏からのメッセージです。

明治以降に生息確認が為されて居ない、ニホンオオカミを探しておられるのですね。

人間側での開発が進み、オオカミの棲息環境を著しく破壊して来たことが、絶滅の原因なのでしょうね。

大変なお仕事です。

 

ニホンオオカミのタイプ標本

 

その昔、狼は信仰の対象でした。

奥秩父にはヤマイヌ信仰が今も活きている様ですし、もしも、生息が確認出来たら素晴らしい事ですね。

その時は、むしろ騒がずに、静かに見守ると云う事が肝要の様に思えます。

人間の自然破壊も、止めなければなりません。

 

ヤマイヌ信仰の三峯神社

 

A)コメント有難う御座います。

>生息が確認出来たその時は、むしろ騒がずに、静かに見守ると云う事が肝要の様に思えます。

とのお考え。それはそれで、一つの考え方であると思います。

ただそれは、「すべての人間が善人である」前提で成り立つ考え方だと思います。

二ホンカワウソの研究者町田吉彦氏の著書「かわうそセンセの閑話帳」をご覧頂ければお判りになると思いますが、

漁師はハマチの養殖生け簀に来るカワウソを殴り殺し、砂地に埋めているんです。

それと同じ事が国内の山中で、人知れず行われています。

特別天然記念物のニホンカモシカに於いてです。

そうした事例を知っているからこそ、ニホンオオカミの生存を明らかにしたいのです。

 

町田吉彦高知大学名誉教授

 

「かわうそセンセの閑話帳」

 

ニホンカモシカの死体

 

2)2016/8月中の何件かの、M氏からのメッセージを纏めたものです。

私は野生動物に対し勤しみ、日本古来から生息する貴方たちの求める野生動物と、幾度か出会い生存確認をしてきています。

「求める動物は、貴方たちが推測する以上に、ある条件の自然環境下においてのみ、全国的に生息しています。」

 

ある条件の自然環境下とは

 

貴方の言う「ニホンオオカミの生存確認」は全国の皆と横一線の対等な関係であります。

熱い気持ちを持ち、全国の皆と共に活動してください。

日本の全ての人々に「canis hodophilax」が現在でも生息する確固たる情報提示をし、公的機関に対しても理解させ、絶滅動物からワンランク下げた状況にすることが貴方の務めで有ります。

なぜならば、数十年間求める野生動物を探し続け、調査研究して来た成果とし、生存証明を成し得、周知することが、八木博さん!

貴方の今回の人生において与えられた宿命ですから。

(中  略)

 

最後に一言だけお伝えいたします。

「求める野生動物は赤外線自動カメラを必要以上に嫌います。

 

使用している赤外線カメラ-1

 

 

使用している赤外線カメラ-2

 

 

使用している赤外線カメラ-3

 

使用している赤外線カメラ‐4

 

そのために自動カメラを使う際は、落ち葉や木の枝、土などを混ぜた容器の中に、本体を3日間ほど寝かした状態を作り、その後に、素手では無く皮手袋を使用して設置下さい。

そして一日の中で昼間山々を歩くフィールド調査は避けて下さい。

遭遇確率は下がります。

調査活動は夜間のみで、安全管理の中3名で行ってください。

遭遇確率は飛躍的に上がります。

嘘、偽りの無い、多少上から視点のアドバイスですが、効果は期待できます。

今後とも山々での活動は、充分お気を付けください。   

 

A)M氏とのやり取りは、非常に多くの回数を重ねました。 

これだけの事を示されているのですから、私としてはお会いして、もっと交流を深めたいと考えていました。

そして、住所、氏名、電話番号等の開示を求めたのですが、残念ながらそれが最後となったのです。

【これまでも複数の方々に対して、必要以上に個人情報を個人情報を名乗れ!と伝えてきています。

 常識を持ち合わせた人間でも、個人情報の開示を拒む人も多いのです。

 相手の心情を考え、耳を傾けるべきなのです。】・・・のコメントを残して。