「掴まれる瞬間」というものがある。


古い話になるが例えば、あの名作シミュレーションゲーム『ファイアーエムブレム紋章の謎』におけるロレンス将軍だ。

眼帯に豊かな髭をたくわえた渋い外見の老ジェネラル、ロレンス。

国への忠誠心も厚く、一本筋を通さずにはいられねぇ、まさに武人といった風情だ。

ストーリー第一部では主人公らと共闘し、歴戦の猛者として活躍をみせるが第二部では状況が一変。

帝国の圧政から民を救うため、幼い王子と王女を擁立し立ち上がったために、反逆者に仕立て上げられたロレンス将軍を主人公らが討伐に向かうという皮肉な運命が待っていた…。


さて、まさかそんな人はいないと思うが、一応本シリーズをご存知ない方のためにざっくり説明しておくと、『ファイアーエムブレム』と言えば戦略シミュレーションゲーム。

自軍ユニットと敵軍ユニットの各種パラメーターとにらめっこしながらマップ上を移動しコマンドを選択、各マップに設定された勝利条件の達成を目指す。

今でこそギャルゲーに片足を突っ込んでいる感のあるエムブレムシリーズだが、当時は硬派かつ高難易度の手強いシミュレーションとして名を馳せていたので、詰め将棋のようなシビアさで、自軍ユニットが戦闘で敗れれば容赦なく死亡扱いとなるなど、高度な戦略を要求されたものだ。


話をロレンス将軍に戻そう。

第二部でロレンス将軍が登場するマップの状況はこうだ。

籠城するロレンス将軍を帝国軍が取り囲む中、プレイヤーは一刻も早くロレンス将軍の元に駆けつけ説得を試みなければならない。

戦略を立てる上では、帝国軍ユニットのパラメーターとロレンス将軍のパラメーターを突き合わせ、将軍が何ターン持ちこたえることができるか計算する必要があった。

基本的にはパラメーターの高い高性能ユニットであるロレンス将軍だが、装備武器などによっても状況は大きく変わってくるのだ。


表示されたロレンス将軍のユニット情報がこれだ。


装備武器:壊れたやり


その瞬間、俺の目にははっきりと見えた。

折れた槍を携え、満身創痍になりながらも、幼い王子と王女を守り城門の前に立ちはだかり、たった一人で戦い続ける老ジェネラルの姿が!


無論、本作はファミコン、スーパーファミコンの時代である。

そのグラフィックはと言えば完膚なきまでにドット絵。今のような超絶美麗CGなど望むべくもない。

だがしかし!

にも関わらず!

この鮮烈な「映像体験」はどうだ!?


特筆すべきは、戦略シミュレーションゲームとして必要な情報だけで、この壮絶な状況を演出しているということだ。

「武器が壊れる」という「システム」も、確かに本作には存在する。

ハードのスペック的にも、今のゲームとは比較にならないほどの制約の中、これほどの名演出を成功させた製作陣の手腕に唸ると共に、この「映像体験」をもってして俺の心はすっかり掴まれてしまったという寸法だ。


他にも、漫画『あずまんが大王』でクールビューティーキャラの榊さんが野良猫に手を噛まれながらもナデナデするシーンや、アニメ『化物語』第五話「まよいマイマイ」のラストシーン、あるいは、アニメ『けいおん!』のエンディング『Don't say Lazy』を見た瞬間など、いくつかの掴まれた瞬間を今でもよく覚えている。

↑『あずまんが大王』の榊さん。すごく…おっきいです…。

「さっきからアニメやゲームの話ばっかじゃねぇか!」と、当ブログのジャンルを危惧している皆さん、大丈夫マイフレンド!
この度、上記の例に負けず劣らず掴みはバッチリ!な映画を発見したので、勇んで皆様にご紹介したいと思います。
『ザ・ラスト・マーセナリー』

ヴァンダムじゃねぇか!!

俺の2024年はここから始まる!?
老いたヴァンダムの次なる戦場はおフランス!
心を掴まれる覚悟の準備をして下さい!

それではストーリー!

まずは冒頭、モンゴルはウランバートルのどっか。
薄暗い部屋の中、頭からズタ袋を被せられて監禁されてる男がいたと思いねぇ。

男の周りでは、武装したならず者たちが油断なく周囲を警戒している。
不意に、キャメラが彼らの頭上にティルト、すると天井に人影が!


お前絶対ヴァンダムやろ!!


最高の掴みで登場したヴァンダムは、武装したならず者たちを徒手空拳で翻弄、囚われていた人質を華麗に(一部もたつきながら)救出すると、颯爽と去っていくのだった。


今回のヴァンダムは伝説的凄腕の傭兵。

決して捕まらないことから、自他共に「ザ・ミスト」と呼ばれていた。


自称もするのか…。


所変わってこちらはおフランスの政府機関。

そこで働く無能感溢れる一人のデブが、フランス政府からA・アームードなる謎の人物への不正送金を発見してしまう。

しかもこのA・アームード、何やら機密扱いされており手が出せない状態だ。

無能のくせにやる気だけは一人前なデブ公務員さん、度重なる警告文もガン無視して機密を解除!

一介の職員に解除できてしまうとか機密の扱いどうなってんの?と思わなくもないが、降ってわいたようなA・アームードの機密解除を受けて、いくたりかの機関が動き始める!

↑無能デブ公務員ことラザールさん。

さて、一方こちらは、国家機密なんかとは縁もゆかりもなさそうな下町暮らしの一人の青年。

母親は他界し父親も所在不明ながら、育ての親であるフェルナンド老人の元、少し気弱だが真面目で心優しい青年へと成長していた。

彼の名はアーチボルド・アル・アームード!


どこかで聞いた名前だな!


いつものように平穏な日常を送るアーチボルドくんだったが、この日に限ってはなぜかキャッシュカードが凍結され金を下ろすこともできない。

↑噂のアーチボルドくん。

↑養父フェルナンド老人。いいハゲ方だ!

それを聞いたとたん、急に顔色の変わる養父フェルナンド老人。

「すぐに逃げろ!電話も地下鉄も使うな!身を隠せ!霧のように!


ほどなくして、彼らの元に怪しい二人組の男が訪れる。

フェルナンド老人はショットガンなどを装備しやる気満々の構えだが、突如として心臓のピースメーカーが停止し帰らぬ人となってしまう。

さらに、せっかく逃がしたアーチボルドくんは、どうかと思うほど物々しい警官隊に囲まれ、あっさりタイーホ。

平穏な日常は一瞬にして崩れ去るのだった。

↑やっぱりいいハゲ方だ!

アーチボルドくん逮捕の報を受け動き出す男が一人いた。

そう、伝説的傭兵ザ・ミストことヴァンダムその人である!


いったいヴァンダムとアーチボルドくんにどんな関係があるというのだろう?


もうめんどくさいので真相はこうだ。


かつてフランスのシークレットエージェントとして数多くのミッションを成功に導いたヴァンダム。

しかし25年前のあの日、国家の命運を賭けた「けん玉作戦」において、国はヴァンダムを敵地のど真ん中で見捨てる決断をした。

ヴァンダムは数々の機密を抱えたまま消えることと引き換えに条件を出した。

どっかの現地妻との間にできた生まれたばかりの赤ん坊の養育と、免責特権の付与である。

その赤ん坊こそが、件のアーチボルドくん…すなわち彼は、ヴァンダムの息子だったのだ!

↑現地妻と赤ん坊のアーチボルドくん。

息子が逮捕されたとあっちゃあ黙っていられないヴァンダム。

早速アーチボルドくんの身辺を探りつつ、笑っちゃうくらいあっさりと護送中の息子をゲットだぜ!

しかしそこは、傭兵としては満点でも父親としては0点のヴァンダムである。

25才の息子を前に、どう名乗り出たらいいものか分からず、とりあえず父親の友人という体で話を進めてみると、なんということでしょう!

アーチボルドくんは父親のことを開脚する便所虫レベルで毛嫌いしているじゃないの!

お陰様でヴァンダムは、カミングアウトの機会をすっかり失ってしまうのだった。

↑あからさまに軽蔑している様子。

それはそれとして、謎は残る。

平穏に生きてきたはずのアーチボルドくんが、機密解除されたとたんなぜ凶悪犯罪者のように警察に包囲されたのか?

そして、あの怪しい二人組の男はなぜこうも執拗にアーチボルドくんを追うのか?


やっぱりめんどくさいので真相はこうだ。

実はアーチボルドくんに成りすまして特権付きIDを悪用して好き勝手絶頂やらかしてる野郎がいた。

よりにもよってその太ぇ野郎は某国大統領のボンボン息子!

↑誰だよ…


しかもこのボンボンには、フランス政府内部に協力者がいた。

例の無能デブ公務員の同僚、有能ハゲ公務員だ!

↑有能(有能とは言っていない)

この二人が共謀し、アーチボルドくんのIDを悪用、武器の密輸などで懐を暖めていたのだ!
しかも次に取引されるのはかつて極秘に研究開発されていたヤベェ兵器、通称ビッグマック!
周囲の電子機器を使用不能にするというワイスピシリーズでお馴染みのアレだ!

といった辺りの真相に迫るべく、凄腕の傭兵ヴァンダムはアーチボルドくんの友人兄妹(素人)と共にチームを結成、故フェルナンド老人のアパートを拠点に作戦行動を開始する!
秘密の隠し部屋ですか?もちろんありますよ!

まずヴァンダムが目を付けたのはアーチボルドくんの機密を解除してしまった張本人、例の無能デブ公務員さんだ。
機密に近い上に無能だから与し易そうだ。
しかし彼が狙われるであろうことはフランス政府並びにシークレットサービスも予測済み。
無能デブ公務員さんを囮として利用する気満々である。
政府としてもこの機会に、けん玉作戦の存在を知るヴァンダムを捕らえ、あわよくば亡き者にしようと画策している!
↑「怖くない?」と不安そうな無能デブ。

早速無能デブ公務員さんとコンタクトを図るヴァンダムだが、無能デブ公務員さんの周囲は変装した捜査官らが堅め、服には発信器やらなんやらが取り付けられている。
これでは接触したとたん御用となってしまうじゃないの!

大丈夫マイフレンド!
なんと言ってもそこは、伝説的凄腕の傭兵ヴァンダムである。
腹案がある、トラストミー!
…服に発信器が付いてるなら服を脱げばいいじゃない。

!?

!!!?

遂に始まったチームヴァンダム史上最大のミッション!

炸裂する魅惑のヴァンダム七変化!

下ネタ担当と化したシークレットサービス長官!

息子のムスコをしゃぶりそうになるヴァンダム!


果たしてヴァンダムは、25年間ほったらかしだった息子の汚名を晴らし、国家の危機を救い、親子関係を修復するという温度差の激しいマルチタスクをクリアすることができるのか!?




…うーん、これは優しい世界!

さて、政治資金パーティーのキックバック問題よりヴァンダムに興味津々!という皆様なら当然ご存知のことと思いますが、本作はもう二年ほど前にまさかのネットフリックス(略してネトフリ)(もっと略してネトリ)で公開された作品だ。
この手のサブスク系の視聴手段がスマホしかない俺としては、わざわざ月会費を払って小さな画面で映画を見たくなどなかったので、円盤化を待った。

あれから二年!(きみまろ風)
待てど暮らせど円盤化のえの字もないじゃないの!
検索して辛うじて引っ掛かるものと言えばもう、360°どこから見ても完膚なきまでに海賊版!
不当な手段で視聴して一体どうしてヴァルハラでヴァンダムと合間見えようというのか!?

といった感じで、ぼちぼち我慢できずにネトフリに入会してしまったのが先月のことだ。
月額790円という目も眩むような大金(広告付き最安コース)だが、ヴァンダムのための790円を惜しむような俺ではなかった!
なお、やっぱりスマホの小さな画面でヴァンダムを見るなんてまっぴらごめんなのでネカフェのパソコンで視聴した結果、普通に映画館に行くより高くついた模様。

そんな艱難辛苦を乗り越えて鑑賞した本作だが、果たしてその甲斐はあったと言わざるを得ない。
ぶっちゃけもう、冒頭の開脚シルエットだけで790円の価値はある!

これまでもヴァンダムは自身の代名詞として、意味があったりなかったり多種多様な開脚を披露してきたが、逆光でシルエットのみの開脚は初めてのことではないだろうか?
老境に差し掛かったヴァンダムがここへきて開脚の新たな可能性を提示するなど、ただごとではない!
俺が一瞬で心をがっちりハートキャッチプリキュア!されたのも無理からぬ話である。
開始10秒で元は取れてしまったので、あとは良かったところを見つける度にお得な気持ちに浸れるという寸法だ。

勘の鋭い皆様なら薄々お気付きかも知れないが、本作のジャンルはと言えばどう控え目に見てもコメディ。しかもハリウッドとは笑いのツボやノリが微妙に異なるおフランスコメディである。
全盛期のようなゴリゴリのハードアクションなど望むべくもないことは明らかだ。

だがしかし!
いやだからこそ!

全編通してまるでぬるま湯のような温かい優しさに溢れた仕上がりとなっており、老境のヴァンダムに新たな可能性を見出だすことだろう。

まず本作におけるヴァンダムは、かつては超優秀な特殊部隊員で今は伝説的な傭兵という、いわばいつものヴァンダムといった設定だ。
これが例えば全盛期のイケイケヴァンダムであれば、その最強設定に相応しいワンマンアーミーっぷりで敵の100や200は回し蹴り一本で葬り、美女の1ダースや2ダースは抱いたことだろう。
あるいは近年の死んだ魚の目を手に入れた下町派ヴァンダムなら、傷付きながらも過酷なミッションをコンプリートし、最終的には「私のお墓の前で泣かないで下さい」みたいな結末を迎えたかも知れない。

だが本作はそのどちらとも違う。
確かに冒頭では孤高の傭兵だったが、成り行きとは言えチームヴァンダムを電撃結成!
戦闘力としてはまぁヴァンダム以外は誤差みたいなもんだが、なんせ当のヴァンダムが傭兵としては100点でも父親としては0点なので、拗れに拗れた親子関係の修復には、ほとんど介護レベルの手助けが必要なのだった。
↑口下手だからと手紙で済まそうとして顰蹙を買うヴァンダム。

思えばあのスタローンだって、『エクスペンダブルズ』ではチームを組んで見せた。
「いつまでもランボーじゃありませんよ」という話だ。
ここへきてヴァンダムもようやく仲間の大切さに気付いたのだと思うと、大変に感慨深い。

また、今回のヴァンダムは、最強の傭兵ながらそのファイトスタイルはまさかの非武装。
戦う時は基本素手で、あとはその辺に転がっている日用品を臨機応変に活用するという、ジャッキー・チェンを彷彿とさせる戦い方だ。
非武装で戦う理由を、作中でヴァンダムが簡潔に語っている。

「殺せば殺される」

まるで間違った小泉構文のような不殺宣言だが、この台詞を聞いて思い起こされるのが『その男、ヴァン・ダム』だ。
かつては一山いくらで死体の山を築いていたヴァンダムが、『その男、ヴァン・ダム』の中ではたった二人の死者をこれでもかとクローズアップ。
「命は大切だ!」と、涙さえ流してみせた。
本作ではまさに、「例え映画の中とはいえ安易に人は殺さない」という、これからのヴァンダムの方向性を示唆しているのではないだろうか?
「ぬるい」とか「綺麗事だ」とか言われる向きもあるかも知れんが、これまでエベレスト級の死体の山を築いてきた男が言うのだから間違いない!

全体的に「ぬるい」ヴァンダムなわけだが、一方で印象に残る見せ場は意外なほどに多い。
アクション面で言えば、冒頭での開脚シルエットに始まり、謎に長いカーチェイス、ナイフVSタオルヌンチャクという異種バトル、それからどうかと思うほどムチムチボディな金色ビキニギャル二人とのガチバトルなどが挙げられる。
↑これは勝てないっすわ…。

また、変装の名人とも名高いザ・ミストが魅せる雑なヴァンダム七変化も見逃せない。
ある時はアパートの管理人、ある時はレストランのウェイター、ある時はアイスクリーム屋さん、またある時はスイミングスクールのコーチ。





しかしてその実体は…っていうか全部ヴァンダムじゃねぇか!

最終的には作戦上決して必要とは言えない女装まで披露し、あまつさえそのままクライマックスバトルに突入するのだが、この「誰が喜ぶ?この俺が!」としか言い様のないヴァンダムの供給過多も、本作の魅力の一つだ。

↑え、そんな…いいんっすか!?

もちろん、ドラマパートで見せるうんと人間臭いヴァンダムの姿も必見だ。
特にコメディにおいては、感情が高ぶって半泣きなる機会の多いヴァンダムだが、それは本作でも健在だ。
出会った瞬間から実の父親(すなわちヴァンダム)に対してヘイトを全開にするアーチボルドくんだが、あまりに連れない態度の息子に遂に逆ギレしたヴァンダムが叫ぶ。半泣きで。

「25才の息子はきっと責任感のある立派な大人に成長していると期待したのに、車も運転できねぇ!乱闘ではピーピー叫ぶ!25にもなって働かずまだ学生だ!」

最後の学生の下りはええんやんけと思わなくもないが、ここから少し声のトーンを落としてさらに語りかけるヴァンダム。

「いいか、人生というのは作戦と同じだ。…自分なりのベストを尽くせ」

この真っ直ぐに見つめ真摯に語りかけるヴァンダムの姿はどうだ!?

思えばこれまでの俳優人生、耳キーンなるレベルの上がり下がりを経験し、老いてからは明らかに動きも悪くなってきているが、それでも確かにヴァンダムはその時々で精一杯の回し蹴りを放ってきたのだろうと思う。
そんな彼だからこそ伝えることができる、それはまさにヴァンダミング説教!

さらに、死んだ魚の目を手にしながらもそれでもなお映画を通して何かを伝えようと語りかけるヴァンダムの目は、いわばオーバー・ザ・死んだ魚の目!

ドラマパートとしてはここが本作のハイライトと言ってもいいだろう。
例え息子の心には届かなかったとしてもだ!

本作はやはりチームで戦う話なので、チームヴァンダムの面々に対する優しさに溢れた描写も見逃せない。
まずは本作のヒロインポジションの黒人女性ダリラ。
ストリートスタイルのファッションに身を包み、性格は至って強気。アーチボルドくんのことも負け犬だのフニャチン野郎だのと言いたい放題だ。
しかしその実、誰よりも熱い姉御魂のオーナー。
「アーチーはファミリーだ!」と言って即座にヴァンダムと共闘、クライマックスには華麗なドレス姿で格闘シーンを披露するなど、ギャップ萌えな一面も見せてくれる。

中でも、ヴァンダムの親子関係改善というミッションに対しては、彼女の存在は不可欠だった。
時おり古傷が痛み始めるヴァンダムに、ダリラは言う。

「傷が痛むのは心のせいでは?アンタは長く背負い過ぎた


何度も引き合いに出して恐縮だが、思えば『エクスペンダブルズ』でも、一人で死地に赴こうとするスタローンにステイサムが「何でも一人で背負い込んでじゃねぇ!バカには仲間が必要だろう!?ハァン!?とシャウトしていたが、ステイサムに通じる熱いソウルが見てとれる。

他にも、やたら銃を欲しがる割に役立たずだったダリラのお兄ちゃんが最高に泥臭いナイスファイトで一矢報いたり、職場でもチームでもこのブログでもバカにされまくっていた無能デブ公務員ことラザールがまさかのポールダンスで一矢報いたりと、それぞれに見せ場が用意されている。

中でも胸が熱くなるのが、アーチボルドくんの育ての親であるフェルナンド老人の存在だ。
残念ながら登場から五分と持たず、何一つ見せ場なく死んでしまったフェルナンド老人。
しかしほんの短い会話から、彼がアーチボルドくんを実の息子のように愛していたことがヒシヒシと伝わってくる。

そして、そんな彼の想いはアーチボルドくんにもしっかり伝わっており、ヴァンダムが父親だと知ってからも、「僕の父親はフェルナンドだけだ!」「フェルナンドは辛い時にいつもそばにいてくれた!」と言ってヴァンダムを拒み続けた。

…報われている!
彼の想いは十分に報われている!!

この、限られた時間の中で一人の登場人物も置き去りにしない優しさに満ち溢れた製作スタンスは、これまでのヴァンダム作品にはなかなかなかったものであり、そこには、死んだ魚の目のさらに向こう側でヴァンダムが見せたい世界が広がっているに違いなかった!

そんなわけで、最高の掴みに始まり、ヴァンダム七変化、ヴァンダミング説教にオーバー・ザ・死んだ魚の目と、各種ヴァンダムを堪能でき、さらには仲間の大切さを再確認して優しい気持ちになれた本作。

気付けば前回の更新から余裕で一ヶ月以上空いていたわけだが、新たなヴァンダムのステージに思いを馳せていたので仕方のないことだ。
そんな優しい気持ちで、俺は今こう思っている。

よし、退会するか!ネットフリックス!