さて、どこまで話しただろうか?
俺は、覚束ない記憶の糸を辿ってみる。

悲しい記憶の数ばかり
飽和の量より増えたなら
忘れるよりほかないじゃありませんか

一雨ごとに鋭さを増していく晩秋の空気は、思い出を捨て去るにはおあつらえだ。

そうそう、VHSにカビが生えたって話でしたね。

繰り返しになるが、俺が学生時代からコツコツと集めてきた秘蔵のVHSコレクション(ほぼアニメ)が、長らくしまいこんでいる間にテープにカビが生えて再生できなくなってしまった。
100本近くあるテープのうち約半分が同じ症状だ。
解決策は三つ。
分解して自分でカビを除去する、専門業者に依頼する、クリーナー機能つきのビデオリワインダーを使用する。
この三つだ。

このうち俺は、ビデオリワインダーを選択しようと考え、ネットで探してみたが、今や生産されていない希少機器ゆえ、どうやっても高額で、きちんと動作確認がされた良品は三万という値段がついていた。
どうしようかと逡巡しているうちに、当該商品はなくなっていた。
今にして思えばあの時、即断即決しておけば良かったのだ。

専門業者に依頼すれば、どう安く見積もっても一本1650円。
五本や十本のことならともかく、50本からあるとなればこれはとんでもない費用だ。
俺は果敢にも選択する。
DIYの道を!
(DIY=Do It Yourself=それをやれ!)

ネットで調べた方法はこうだ。
まずは、無水エタノールと不織布でできたウェットティッシュを用意する。
ねぇよ!という話だが問題ない。
俺たちには、某熱帯雨林のような名前のネット通販会社がついている!

ウェットティッシュを乾かし、無水エタノールを霧吹きボトルに入れ替えたら準備完了だ!
俺は颯爽とビデオテープの分解にかかる。
ここまでは以前来た道、なんのことはない!
だが本当の戦いはここからだ!
テープ部分を取り外し、乾いたウェットティッシュ(形容矛盾)に無水エタノールを吹きかけたら、あとはもう根気の作業だ!

ひたすらテープを引っ張り出しながら拭く!

このフェーズに入ってから俺はすぐに気付いた。
これはネバーエンディング作業。
120分テープを引っ張り出しては拭き引っ張り出しては拭き、それでも一向に減らないテープの残量に折れそうになる心!
さりとて雑に進めるわけにはいかない。
ソフト&ウェット(柔らかく、そして湿っている)いや、湿っていたらダメだけど、とにかく丁寧な作業が必要だ。
下手をするとテープが破れてしまう可能性もある。
ここで諦めたら全てが水の泡だ!
俺は自分に喝を入れる!

全集中!
エタノールの呼吸!!

ス~ハ~ス~ハ~

…わーい、フェアリーだ、フェアリーだ~。
僕のライフを満タンにしてよ~。

これはいかん、トリップしてしまう!
そんな感じで換気に気を付けながら格闘すること三時間!
遂にビデオテープ一本のカビ取り作業が完了した!
これで復活するのなら、他のテープも同じ作戦で救うことができる!
易しい道ではないだろう。
しかしそこに確かな希望があるなら、俺はやる!

はやる心を抑えて、俺の努力の結晶である一本をデッキにイン!

…シャカシャカシャカシャカキュルキュルキュル!


俺のクリィミーマミがああぁぁぁ!!!

多分、これはアレです。
テープを引っ張り出したら今度は手動で巻き取らなきゃいけないじゃないですか?
その時にですね、どうしても機械みたいにピッチリ巻き取れないわけですよ。
その僅かな緩み、弛みというものが悪さをして、デッキの中でテープが絡まってしまったようだ。

…これはもうムリだよ、完全に心が折れちゃったよ炭次郎…。
今の気持ちを伝えるための適切な言葉を俺は持たない。
『クリィミーマミ』を始め、ここにある作品の数々は、紛れもなく俺の青春の一ページだった。
そうだったと思う。
それなのに、そんな愛すべき魔法少女たちから、カビが生えるほどに離れていたという事実にまず愕然とする。
そして、いつまでもかけがえのないはずの思い出を取り戻そうと足掻いても、運命の糸は絡み合い千切れてしまうのだと、残酷な現実をまざまざと突き付けられた気がして、俺はデッキの前にくずおれた。
そして、ネタにしようと思って写真を撮った。

時はすべてを連れてゆくものらしい
なのにどうして寂しさを置き忘れてゆくの

かつて俺がプレイしたとあるゲームの台詞を思い出す。

「人は思い出がなくては生きていけない。なのに、思い出だけでは生きていけない」

今さらになってこんな台詞が心に重くのしかかる。
例えそのゲームが、エロゲーだったとしてもだ!

またしても俺の説明では全く伝わらんかも知れんが、今回の件では俺はマジのガチで凹みまくっている。
近年稀にみるレベルで途方に暮れているといっていい。

こんな時に前を向く力をくれるのはあの男しかいない!
そう、アナーキズム全開のあの男の中の男だ!
『トリプルX ネクスト・レベル』


…ヴィン・ディーゼルわい!?

いや、まあ知ってたけどさ!

若き日のヴィン・ディーゼルが男気とアナーキズムメガマックスで新たなスパイ像を叩きつけた前作から一転!
「トリプルX」を襲名するのはアイス・キューブ!
誰だよ!?
アイス、そこに男気はあるんけ!?

それではストーリー!

まずは冒頭、国家安全保障局(NSA)の地下の秘密基地が、謎のハイテク武装集団にいきなり襲撃を受けている!
この施設の指揮をとる「頬傷野郎」ことサミュエル・L・ジャクソンも、やる気満々の二丁拳銃スタイルで迎え撃つが、職員やエージェントたちは次々に倒れていく!
↑二丁拳銃のサミュエル!

新兵器開発担当のメカニックの兄ちゃんと共に、どうにか修羅場を脱出したサミュエル・L・ジャクソンは、なぜか突然「前の奴よりもっとヤバい男を二代目トリプルXとしてスカウトしよう!」などと言い出す。
ヴィン・ディーゼルでいいがな!という我々の思いとは裏腹に、サミュエルは既に、二代目の目星をつけている様子だ。

早速サミュエルが赴いた場所はなんと刑務所!
スカウトした相手は、サミュエル・L・ジャクソンの海兵隊時代の部下にして現在服役9年目のアイス・キューブ!
↑目付きが既にヤバいアイス・キューブ!

何やら因縁ありげで、全く乗り気でない様子のアイス・キューブだったが、サミュエル・L・ジャクソンのヒップホップ精神溢れる説得により了承。
強引すぎる脱獄により、二代目トリプルXとしてシャバデビューを果たすのだった。
↑くっ…こいつやっぱりイラッとする…!

セルフ出所後すぐにポテトとシェイクでやる気を上げたアイス・キューブ。
「まずは情報が必要だ!」ということで、先日の襲撃の後処理でゴタついているNSAの基地にいきなりロケランをぶち込む!
なぜ!?とこちらが呆気に取られてる間にも、抵抗するNSA局員たちをボコボコにしながらサミュエルのデスクからハードディスクを回収するアイス・キューブ!

一方サミュエル・L・ジャクソンは、自宅金庫からこれまた何かの情報になる書類を回収。
先日の襲撃で標的にされたこともあり、細心の注意を払いながら帰宅したものの、そこには既に先客が待ち構えていた!
サミュエルんちのソファーで悠然とくつろいでいたのは、ウィレム・デフォーだった!
↑素晴らしい陰影だ!

ウィレム・デフォーの部下にあっさり捕らえられたサミュエルは、そのまま自宅ごと爆殺されてしまうのだった。

一体彼らの周りで何が起こっているのか!?
もうめんどくさいので真相はこうだ。

かつて、任務で訪れた戦場で、上官である将軍の非人道的な作戦に逆らい、将軍の顎をブチ砕いたアイス・キューブ。
結果、アイス・キューブは20年の実刑を食らい、かたや将軍は今や国防大臣にまで出世し、政治の中枢にガッツリ食い込んでいた。
それがウィレム・デフォーだ!

「強いアメリカ」を維持すべきと考える過激な愛国主義者のウィレム・デフォーだが、大統領は敵対国との宥和路線を進めようとしている。
ウィレム・デフォーの恐るべき計画とは、大統領を始め穏健派の有力者を暗殺し自身が大統領となることだった!
そのために、海軍時代にウィレム・デフォーに賛同した部下たちを私兵として暗躍させていた!

殺されたと思ったサミュエル・L・ジャクソンや、当時アイス・キューブに味方した兵士たちはひっそりと捕らえられ、大統領暗殺の首謀者に仕立てるための駒として生かされていた!

これらの全貌が明らかになるのはかなり終盤だが、まぁ気にすんな!

このままでは、過激な国粋主義者がテロリズムによって国の実権を握ってしまう。
愛国心ではなく、己の自由のために戦いに挑むアイス・キューブ!
ウィレム・デフォーの作戦決行は、大統領が一般教書演説を行うビッグなイベント!
場所は国会議事堂!
厳重な警備を突破するために、ヒップホップ精神に溢れるかつてのアナーキーな仲間たちを集めるアイス・キューブ。

相手は国家の実力者と精鋭部隊、こちらはアイス・キューブとメカニックとイケメンエージェントと黒人のブラザーシスターたち!
相手にとって不足はねぇ!

武装集団の突入で阿鼻叫喚となる国会議事堂!
ヤンチャな戦車の箱乗りでテンションの上がるブラザーたち!
エロい美女に容赦なくヘッドショットを決めるサミュエル・L・ジャクソン!
大統領の安否も確認せず国会議事堂に大砲をブチ込むブラザーたち!
空を飛ぶイケメンエージェント!
↑超楽しそうな戦車の箱乗り!

果たしてアイス・キューブたちは、ウィレム・デフォーの陰謀をくじき、路上で高級車をパクる権利を守ることができるのか!?




…ヴィン・ディーゼルわい!?

いや、まあこちらの作品、ヴィン・ディーゼルが降板した結果そこそこ残念な評価を受けたという噂は聞いていたので、ある程度の覚悟は持って挑んだ。
しかし前述の通り、『クリィミーマミ』のVHSと共にカビてしまった今の感受性では、微妙な作品を元気にエンジョイするなど無理な話であった。

まずもって、アイス・キューブには悪いが「お前誰だよ!?」感が拭えずに始まった本編だが、途中、「先代のX(ヴィン・ディーゼル)はボラボラ島で死にましたわ!」という雑すぎる扱いで、見る者のテンションをさらに下げてくる。
↑次回作わい!?

また前作では、アナーキーな迷惑系ユーチューバーのヴィン・ディーゼルが、男気とエクストリームスポーツのスキルを駆使して、同じくアナーキーなテロリストを倒すという、新しいスパイ像を叩きつけてくれた。
その意味でいくと本作は、前作で提示された独自性を見事に排除していると言わざるを得ない。

アイス・キューブ演じる主人公は毎度お馴染みの元軍人設定で、スパイに必要なスキルも既に標準装備。
途中、タキシードをビシッと決めてハイソなパーティーに潜入するなど、特に目新しさもないスパイ活動に勤しむのだった。
しかしそもそもが、サミュエルのみならず、敵役のウィレム・デフォー並びにその私兵たちとも顔見知りという設定なので、前作においてパンクロックの会場にスーツで潜入していたテンプレスパイ以上に頭の悪い潜入と言わざるを得ない。

あるいは、悪役のウィレム・デフォーの扱いも残念だ。
世界で最も顔の濃い名優の一人と言って差し支えないウィレム・デフォーなので、画面に写るだけでその存在感は抜群だが、それにしてはこれといった印象的な活躍は少なく、個人的にもウィレム・デフォーでありながら何一つ出フォーしないというのも、誠に遺憾な結果だった。
いや、厳密に言えば最後にあの世に出フォーしていたと言えなくもないが、もっと色々とヤバいものを出フォーさせてほしかったところだ。
デフォー「何言ってんだこいつ…」

しかしなんと言ってもストーリーに乗り切れなかったのは、とにもかくにも主人公サイドが何をしたいのか分からん!という、致命的な演出のまずさである。
まずそもそも、冒頭で脱出したサミュエル・L・ジャクソンが、なぜNSAに戻らず単独行動を始め、いつの間にやらNSAに追われるような立場になっていたのか皆目分からない。
好意的に推察すれば、冒頭でいきなりウィレム・デフォーの陰謀を察知し、内部に敵と通じている裏切り者を警戒して戻らなかったと見ることもできる。
しかしその後の描写を見ても、NSAとウィレム・デフォーが繋がっている風ではないし、いずれにしてもNSAがサミュエル・L・ジャクソンたちを犯罪者ばりに追う意味も分からないし、あまつさえ囚われの身から解放されたサミュエルが速攻で現場の指揮を取り始めるに至っては、「だったら最初から戻っとけよ!」というアンサーしか持ち得ないのであった。

正直なところ本作は、アクション映画としてはそれなりに火薬量も多く、荒唐無稽なとんでもアクションも随所に見られ、場面ごとに見れば決して悪くはない。
しかしいかんせん、一事が万事目的が分からないので、「このボートは一体なんのために空を飛んでいるのだろう…」と、遠い目をする俺なのだった。
↑このボートは何のために空を飛んでいるのだろう…?

さて、最近のレビューの中ではダメ出しばかりになってしまった本作。
いつもならこのあたりで、「それでは本作を見るべきところもない駄作と切って捨ててよいだろうか?答えはノーだ」などと言って良かった探しを始めるところだが、今の俺にそんな『電影少女』のアイちゃんスピリッツを発揮する力は残されていない。
なぜと言えば、『電影少女』のVHSもカビていたからだ!

再生できないカビたテープからはアイちゃんは出てきてくれないし、ちっぱいを背中に押し付けて「こばんざめ!」とも言ってくれない!

ごめん、アイス・キューブ…
ごめん、サミュエル・L・ジャクソン…
ごめん、出フォー…

ヴィン・ディーゼルも出てこない、ビデオガールもビデオから出てこない…。
人生という名の長いプレイの途中で中折れしちまった今の心では、これ以上の良かった探しはできそうにない…。
俺は、今際の際のヤン・ウェンリーのように、力なく目を閉じるしかないのだった…。

…いや、果たしてそうか?

お前の悲鳴が
胸に聞こえてくるよ
越えてゆけと叫ぶ声が
行く手を照らすよ

ありし日に、こんな言葉を聞いたことがある。

「みんなが夢見ることを忘れてしまえば、魔法少女も力を失う」と。

そう、『クリィミーマミ』の先輩にあたる『ミンキーモモ』の台詞だ。
例え電影少女モードを起動できなくても、俺たちには魔法の呪文がある!

「パンプルピンプルパムポップン、ピンプルパンパルパムポップン!」

そう、クリィミーマミに変身する呪文だ!

幼女が唱えれば大人の女性に変身できる呪文。
疲れたオッサンが唱えてどうなるわけでもないかも知れんが!

時よ最後に残してくれるなら
寂しさのぶんだけ愚かさをください

オーケー、愚かになるのは得意だ!

魔法の呪文で蒙昧だった少年の頃のような愚かな心で見直してみると、一人、どうにも引っ掛かる人物がいることに気付く。
ジャケットで、アイス・キューブとサミュエル・L・ジャクソンに挟まれて、まるでヒロインのようなでかい顔をしている美女である。

実際のところ彼女は、ウィレム・デフォーの腹心としてガッツリ悪事に荷担し、アイス・キューブを罠にハメた挙げ句、最終的にはサミュエル・L・ジャクソンに脳天をブチ抜かれて殺されていたが、どうにも彼女の顔には見覚えがある。
魔法の呪文で少年の心を取り戻した俺はすぐに思い出しましたよ!

そう、『スピーシーズ3 禁断の種』で、ヒロインの美人エイリアンを演じたあの女優さんだ!
それこそ誰だよ!?という話だが、俺も他に出演作を知らんのでそこは気にすんな!
これが、『スピーシーズXXX』のヒロインだったらネタとして最高だったのだが、それはともかく!

『スピーシーズ3』における彼女はと言えば、産まれたままの姿でジジイを誘惑してお預け、ホットパンツにピチTという最強装備で男子学生どもを誘惑してお預け、出会って5秒でペッティングまでした死にかけのオスエイリアンにお預けと、数多くの男どもにお預けを食らわして、結局全編通してただの一度も交尾することなく、最終的には視聴者にもお預けを食らわすという世紀のお預けクイーンぶりで我々の心に確かな爪痕を残した。

一方で本作においては、悪役の一人として容赦なく殺された彼女だが、見逃せないシーンがある。
ウィレム・デフォーの尻尾を掴むべく彼女に接触したアイス・キューブは、彼女の大邸宅に招かれる。
セクシーな衣装で「今日は親はいないの」「先にお風呂に入ってはいかがカシラ!?」などとラブコメ漫画でしか見ないような台詞を連発しておきながら、「お休みなさい」と言ってアイス・キューブをだだっ広い部屋に置き去りにした上に、アイス・キューブを罠に嵌め殺人犯に仕立てあげる。

置き去りにされたアイス・キューブの「世界のためにエッチはお預け」という、ヴィン・ディーゼルなら死んでも言わないような台詞にげんなりしたことは置いといて、彼女の作品を越えて魅せるお預けクイーンっぷりはどうだ!?
↑とりあえずお前は黙れ!

数少ない作品の中でお預けイズムを貫く彼女の姿に、作品を越えてシャツの袖と頭髪はいらないスタイルを貫くヴィン・ディーゼルイズムを感じなくもないのだった!


そんなわけで、これだけ魔法少女がどうとか言っておきながら、結局エロネタで終わってしまった本作。
まあ魔法少女も、他人に正体を知られてはいけないという縛りがあるので、スパイ映画も四捨五入したら魔法少女と言えなくもないし、少なくとも俺の愚かさは伝わったと思う!

そして繰り返しになるが、とにもかくにも俺が心から言いたいことはこうだ。

誰かビデオリワインダーくれよ!
ハァン!?