最近、精力の減退が著しい。

「減退著しいのはテメェの知性だよ!」
皆さんの指摘はごもっともだが、まぁ聞いて欲しい。
夏に手術をして以降、体力の低下は実感していた。
しかし一方で、ずっと気付かないふりをしてきたこともある。
すなわち、股間の衰えですね。

もちろん、エロい気持ちにならないわけではない。
晩秋から初冬へ季節は移ろい、道行く若奥様が黒ストッキングなどをお召しになれば、フトモモ舐めてぇなぁと思うし、寒さに耐えて生足を貫く女子高生などを見れば、フトモモ舐めてぇなぁとは思う。
思いはするが体がついて行かないという話だ。

もっと具体的に言えば、持続力がね…。
かつての名曲を借りて言えば、「今を嘆いても、胸を痛めても、ほんの夢の途中」そんな世界だ。

年齢による衰えは致し方ないことと思われるかも知れない。
しかし、これまで36年間、自分は男性ホルモンモリモリ、性欲マシマシだと思って生きてきた俺としては、決して認めたくはない事実なのだった。

そんな俺の心というか、俺の愚息を奮い立たせるべく、以前から気になって仕方がなかった作品を借りて見たのが、つい先日のことだ。
『ニンフォマニアック』

『アンチクライスト』などという意味は分からんがヤバいことだけは確かな作品を撮ったラース・フォン・トリアー監督の作品で、「色情狂」の名を冠する本作。
一人の色情狂の壮絶な半生を、全8章立て、ディスク二枚、合わせて四時間近くに及ぶ狂気のボリュームで、ゴリゴリにハードに描き切るという…。

不能になるわ、こんなん!!

いや、実際問題、主人公が色情狂だけあって本作は、数え切れないくらいのセックスシーンと、数え切れないくらいのオッパイと、数え切れないくらいのボカシのオンパレードだ。
にも関わらず、途中から拙者の愚息がピクリともしなくなったと言えば、作品の雰囲気を察して頂けるだろうか?

…すまん、ピクリともしないは嘘だ!

そうだとしても本作は、性依存症というものをテーマとして真正面に据えつつ、過剰なほどの文学的、数学的、哲学的比喩表現で盛り付け、人生そのものとも複雑に絡みながら、尋常でない分量の会話劇によって展開されるという、狂気の構成である。
冷静に考えれば、数学的比喩って何だよって話だが、俺はもうフィボナッチ数列をまともな目で見れない!

何よりもキツいのは、それらの膨大な台詞、膨大な例えの意味が、一々理解できてしまうことだ。
先述の『アンチクライスト』は、はっきり言って内容の一割も理解できなかった。
対してこの『ニンフォマニアック』は、敢えて分かりやすい仕様にしているのか、こんなテーマの時ばかり俺の読解力が覚醒するのか分からんが、心の機微まで理解できてしまうがために、余計に堪えるのであった。

そして鑑賞後、俺はこうも思った。

ホラー映画のターンで紹介する作品じゃねぇ。

「今さらかよ!」と思われるかも知れないが、こんな俺の中でも一応線引きはあるのだ。
精神的にはキツいことこの上ないが、ホラーでもサスペンスでさえない。
何より、『ニンフォマニアック』をガチでレビューする作業に俺の精神が耐えられる自信がない!

というわけで、なるべく『ニンフォマニアック』の対極にあるような大味で薄っぺらいしょーもないホラーを見ようと思って借りた作品がこちら。
『スピーシーズX 美しき寄生獣』

こういうのでいいんだよ!

美人エイリアンが地球の男の子種を搾り取る大人気シリーズの新章と見せかけて、全然関係なさそうな原題だが気にすんな!
『ニンフォマニアック』のことなんかキレイさっぱり忘れて、ストーリー!

カナダのとある大学では、一大イベントであるアイスクイーンコンテストを翌日に控え、ウェーイな学生たちは大いに盛り上がっていた。
この大学で寮生活を送る主人公ルーク(童貞)と、ルークのルームメイトにして親友のロジャー(童貞)は、最近転校してきたというリリーと従姉妹のコンスタンツ(金髪美女)に出会う。

二人は、チュッパチャプスみたいな飴を舐めながら「しゃぶるの大好きなの」と口走ったり、洗濯物のビキニをこれ見よがしに見せつけたりと、分かりやすい誘惑をカマしてきて、童貞二人はあっという間にメロメロに。

ちなみに『ニンフォマニアック』の主人公の誘惑は、もっとストレートだった。
「処女を奪ってと言ったら迷惑?」

これには相手の男(シャイア・ラブーフ)も、二つ返事で股間をトランスフォームさせていた。

その後ルークは、リリーの忘れ物を届けるという名目で、寮のリリーとコンスタンツの部屋へ不法侵入を敢行するが、そこで二人の怪しい様子を目撃する。
雪の降るクソ寒い中、窓を全開にして服を脱いだかと思うと、冷却スプレーみたいなものを吹き掛ける。
しかも腹の辺りから、触手っぽいものが生えてるじゃないの!
彼女たちは何かおかしい!と、友人らに説明するも、当然誰も相手にしない。

その夜、自称大学一イケてるクラブこと「オメガクラブ」では、アイスクイーンコンテストの前夜祭で、アホな学生たちが「ウェーイ!」と大変盛り上がっていた。

そういえば『ニンフォマニアック』でも、主人公らが結成したクラブのようなものがあった。
その名も「小さな群れ」
悪魔の音階に乗せて「わたしのアソコ、最高のアソコ」などとイカれたお題目を口ずさみ、同じ男とは二度寝ないなどの鉄の掟を定める、最早宗教のような集まりだった!

その会場で、翌日のアイスクイーンコンテストにオメガ代表として出場する女性が選出された。
それはなんと、転校してきたばかりのリリー!
さっきまでの疑念をド忘れして鼻の下を伸ばすルークだが、壇上でアイスホッケー部のリア充キャプテンと接吻をカマすリリーの姿に、嫉妬の炎がメラメラ。
一緒に来ていたルークに気がありそうな女友達のことなどガン無視して、だ!
さらに、アイスホッケー部キャプテンに挑発されてブチ切れ、パーティー会場で乱闘騒ぎを起こすという、しょーもない修羅場を演じてしまうのだった。

修羅場と言えば『ニンフォマニアック』では、主人公に旦那を取られた人妻が、子供同伴で乗り込んできて、さらに別の男とも鉢会わせるという、桁違いの修羅場を呈していた!

「ふしだらなベッドを見せてもらってもいいかしら?子供たち、この場所をよく覚えておきなさい。セラピーの時にきっと役に立つから。あらいやだ、私ったらセラピーだなんて、お金のことも考えずに。せびってるわけじゃないのよ?」

「三人の関係なんて珍しい、寛容なのね。その点については私は至らなかったわ。ごめんなさい」

腹の底でドス黒い炎が燃えているような人妻のセリフの数々は、胃が痛くなるような恐ろしさがあった!

一方、リリーの従姉妹のコンスタンツの方は、ルークの親友ロジャーを絶賛誘惑中。
トイレに乗り込んで来て口淫矢の如し。
しかしここで、心身ともに純情ボーイなロジャーは、「実は僕は童貞なんだ!だから初めてはロマンチックにしたいんだ!という、規格外の乙女っぷりを発揮して誘惑を固辞するのだった。

そういえば『ニンフォマニアック』にも童貞をカミングアウトするシーンがあった。
こいつだ!

切なすぎる高齢童貞のカミングアウトである!

そんな混沌とした夜を過ごした翌朝、ルークと揉めたアイスホッケー部キャプテンが、寒空の下カチンコチンになって死んでいるのが発見される。
その顔は恐怖に歪んでいるが、なぜか股間もカチンコチンだ!

前夜、ルークは、キャプテンとリリーが二人でしけこむのを目撃していた。
リリーとコンスタンツに対する疑惑を一層深めるルークだが、ホラーでお馴染みの無能な警察は、ケンカしていたというだけでルークを犯人と決めつける始末だ。

周囲に話しても全く信じてもらえない状況に業を煮やしたルークは、寝室やシャワールームに隠しカメラを仕掛ける、リリーを縛り付けて火炎放射機で脅すなどの、過激な手段にうって出る。

それにしても彼の縛り方の雑さはどうだろう。
これが『ニンフォマニアック』に出てくる謎のドS男ならこうだ。

しかもこれだけやっておいて、「尻が高くない」などという意味不明な理由で、何もせずにお開きにするなど、かなりの芸術家気質だった!

主人公であるはずのルークが順調に犯罪者街道を突き進んでいる一方、コンスタンツとロジャーは順調に愛を育んでいた。
ようやく結ばれようとしていた二人だが、ロジャーは親友の必死の訴えが気にかかり、彼女にドストレートに訊ねる。
「アイツが君たちのことを地球を侵略に来たエイリアンだって言うんだけど、マジ?」
マジでもマジじゃなくてもヤバい質問だが、すっかりロジャーにほだされてしまったコンスタンツちゃんは、全てを正直に話す。

彼女らは異星から子孫を残すためオスを求めてやって来たエイリアン。
暑さに滅法弱いので、冬のカナダでさえ暑いのだ。
ちなみに、地球の男とどのようにして子作りするのかと言えば、触手を男の口にねじ込んで腹の中に種付けするという過激なプレイ。
しかし、熱に弱いエイリアンベイビーが孵化するために、種付けされた男は腹の中から氷ってしまうのだという。

「子供は欲しいけどあなたは殺したくない!」
全てをつまびらかにし、切ない心情を吐露するコンスタンツにロジャーは、童貞特有の重たい愛が炸裂!
だいぶ地球の環境に適応してきたというコンスタンツの言葉を信じて、温度調節をしながらのリスキー過ぎる子作りを敢行するのだった。

種族を越えた二人の切ない願いには胸を締め付けられる思いだが、『ニンフォマニアック』でも主人公に子供はできていた。
しかし色情狂の彼女は、幼い子供を捨てて、ドS男に尻をシバかれに行くのだった!
これはこれで胸を締め付けられる思いだ!

こうして何とか無事に種付けが完了したかに思えた次の瞬間、案の定ロジャーは苦しみ始め、タランチュラの化け物みたいなエイリアンベイビーを口から出産。
しかしベイビーは、やはり気温に耐えられなかったのか、即座に弾けて消滅してしまう。

未だ苦しみ続けるロジャー。
そこへ駆け付けたルークは「ロジャーに何をした!」と詰め寄るが、コンスタンツは「私たちは愛し合ったの!」と涙を流すばかりだ!
救急搬送されるロジャーだが、「俺たちはずっと親友だ!」「約束だぞ!」という会話を最後に、切ない笑顔を浮かべて息を引き取るのだった…。

今際の際の切ない笑顔で言えば、『ニンフォマニアック』も負けていない。
主人公の父親(クリスチャン・スレイター)が病院で息を引き取るまでのシーンだ。
迫り来る死の恐怖に暴れ始めたためにベッドに拘束され、翌朝、汚物にまみれた生尻を晒して乾いた笑顔を浮かべるクリスチャン・スレイターの迫真の演技は、ある意味切なさ満点だった!

親友を奪われ、悲しみと怒りに震えるルーク!
火炎放射機を手にオメガクラブのクラブ棟に乗り込み、リリーを容赦なく焼き殺す!
エイリアンでも何でもない金髪の姉ちゃんに熱湯をぶっかける!
エイリアン体にトランスフォームして襲いかかるコンスタンツを、手斧で返り討ちにして決着だ!

最後にキレイなオチがついていたが、まぁ気にすんな!

もちろん『ニンフォマニアック』でもある意味キレイなオチがついていたが、一切気にすんな!



いかがだったろうか?
ご覧の通り、『ニンフォマニアック』の呪縛からは一ミリも逃れられなかったわけだが、思いのほか両作品の共通点は多かったな!と思う次第だ。

こうして『ニンフォマニアック』並びに『スピーシーズX』を鑑賞して改めて思ったことがある。

俺は触手が好きで本当に良かった。

誤解しないで頂きたいのだが、こんな作品で
決して触手の素晴らしさを再確認したとかいう話ではない。
まずはこちらのシーンを見て欲しい。

主人公の友人の一人が、エイリアンに触手レ○プされるシーンだ。
縛り付けられる手足、ねじ込まれる触手、騎乗位、着衣、強調されるフトモモ…。
満点だ。
俺の中では本作におけるベスト触手シーンだ。

その上で、『ニンフォマニアック』にこんなシーンがある。
借金取りにジョブチェンジした主人公が、債務者のハゲのオッサンの隠された性癖を暴く。
すなわち、ぺドフィリアですね。
ハゲのオッサンは股間のエイリアンをエレクチオンさせながら泣き崩れ、金を払うことを誓う。

ハゲのペド野郎とか、社会的には死ぬしかない存在だが、ハゲを見つめる主人公の視線は存外暖かかった。
どれくらい暖かかったかと言えば、ギンギンになった珍棒をしゃぶってイカせてあげるくらいに暖かかった。

話を聞いていた高齢童貞のじいさんは、「そんなクズ野郎のをなんでしゃぶった!?」と理解できない様子だったが、彼女が語った理由には耳を傾けるべきものが大いにある。

「彼は自制的な人生を送り誰も傷付けたことがない。セクシュアリティは人間にとって最も強い欲求、それを禁じられたらさぞや辛いでしょう。決して行動に移すことなく生きる小児性愛者は表彰されるべき!

欲望のままに生き、多くの人を傷付けてきた主人公が、自身と対比して語る切ない問答だ。
もちろん、ガチの犯罪者を擁護しようという話ではないが、期せずその身に特殊性癖を宿してしまった人間の苦悩は、察して余りある。

触手好きであれば、どれほど想像を膨らませようとも、どうやったってファンタジーの域を出ない。
精々が嫁や彼女に、「君の体に這わせてもらえないだろうか、タコを!と懇願するくらいだし、それではきっと満たされないことを我々は知っている。

しかしこれが、『ニンフォマニアック』のハゲのようにペドフィリアなどであればどうだろう。
「ちょいとオジサンの上にまたがってみてくれないかい?飴ちゃんあげるから!
届くのである、手が、割りと簡単に。

「そこに共感するとかお前もヤベェよ…」
断じてしまう前に自分に置き換えて考えてみて欲しいのだ。
すなわち、もしも俺に触手が生えていたら、俺は果たして自分を抑えることができるだろうか?
エロアニメの世界では、「触手が嫌いな女の子なんていない」と言われて久しいが、現実的には触手を受け入れる女性など、皆無に近いだろう。
結果として、触手を活躍させようと思えば強硬手段に打って出るより他ないのだ。

何が言いたいかといえば、皆がほんの少しでいい、他者の秘められた苦しみに思いを馳せることができれば、世界はより幸せになれるのではないか?

「君の体にぶちまけたいんだ!ミミズを!ウナギを!ウミウシの内臓を!」
そんな魂のシャウトに対して、「テメェは未来永劫ハリガネムシに生まれ変われ!」そう切り捨てる前に、ほんの少し思いを馳せてみてほしいのだ。
「この人はこれまで、何年、何十年、誰にも言えない苦しみを抱えて生きてきたのかも知れない…。苦しみ、悩みぬき、私にだけ打ち明けてきたのかも知れない。…チンアナゴならあるいは!

結果として、「やっぱ無理だっわ。てかもう、アンタの顔がウジ虫にしか見えないわ」というバッドエンドを迎えるかも知れない。
というか、かなりの高確率でバッドエンドになるだろう。
しかしそれでも、「俺の特殊性癖に歩み寄ってくれた」「あの人の特殊性癖に歩み寄ってあげた」かかる事実は今後、彼らの人生に必ず変化をもたらすはずだ。

この『スピーシーズX』においても、ロマンティスト童貞と触手エイリアンが種族の壁を超えて絆を結んだ。
結果としてみんな死んで何も残らなかったが、主人公にももう少し、他者の事情を慮る余裕があったなら、物語の結末も変わっていたことだろう。
昨日までデレデレと鼻の下を伸ばしていた相手を、命乞いガン無視で容赦なく焼き殺す主人公の姿には、眉をひそめざるを得ない。
男を腹の底から凍死させることでしか子孫を残せない厳しい条件で、なんとか適応しようともがくエイリアンたちの姿には、情状酌量の余地がある。
自らエイリアンの子を宿した親友の姿に、「私たちは愛し合ったの!」と涙ながらに訴えるエイリアン娘の姿に、何か感じるところはなかったのだろうか?
一人より二人、二人より三人で知恵を絞り、試行錯誤があっても良かったのではないか。

「触手を口から突っ込むから良くないんじゃないかな?逆に尻から突っ込んでみてはどうだろう?

歩み寄れるのである!

さて、いつも以上に着地点の見えないまま書き始めた今回の記事だが、それなりにいいこと言ってまとめられたので、このへんで締めたいと思うが、我ながら下半身にまつわるエトセトラを語り始めると止まらねぇなぁ!と、自分でもドン引きする次第だ。
でもね、大事なことなので何度でも言うよ!

下半身にまつわるエトセトラというのは、人間でもエイリアンでも、色情狂でもペド野郎でも、全ての生命にとりとても重要なものだ。
なればこそ、理解できないものを軽々に否定し排除するのではなく、正面から向き合いほんの少しだけ想像力を働かせてみることが肝要だ。
結果として賛同できなくても構わない。
他人の下半身に思いを馳せることを習慣化していけば、それだけで世界はほんの少し優しくなる!

最後に一つだけ。

『スピーシーズX』は大して面白くないから見なくてもいいよ!