前回までのあらすじ!

『その男ヴァン・ダム』以前のヴァンダムを「ビフォアヴァンダム」
『その男ヴァン・ダム』以降のヴァンダムを「アフターヴァンダム」と呼ぶ!

混迷する現代社会において、常に迷い、惑い、苦悩しながら生きる、我々日本男児も、是非とも覚えておきたいポイントだ。

では、ビフォアアフターでヴァンダムはどう違うのか。

ビフォアヴァンダムはこうだ。
プリケツ、開脚、回し蹴りを景気良く披露し、悪の組織をぶっ潰す!

そして、アフターヴァンダムはこうだ。
プリケツ、開脚、回し蹴りを苦悩しながら披露し、悪の組織をぶっ潰す!

一緒じゃねーか!
そう言いたい気持ちも分かる。
事実、世間からの評価は一緒だ!
だが我々ヴァンダマーとしては、ヴァンダムの変化を、ヴァンダムの想いを、全力で受け止めねばなるまい!

さて、そんなビフォアヴァンダムとアフターヴァンダムの端境期の、ヴァンダムが最も迷走している時期の作品を、まずはご紹介したい。

『ディテクティブ』

また、微妙に覚えにくいタイトルだが、原題は『UNTIL DETH』ということで、原題の方がダサい稀有な例となっている。
しかし、「ヴァンダム死す!?」という煽り文句に対して、「まだ死んでねーし!」みたいな掛け合いが成立してるので、これはこれで面白いかもと思ったり。

そんなことはともかく、あらすじ!

麻薬課の刑事ヴァンダムが、麻薬組織をぶっ潰す!

いつものヴァンダムじゃねーか!!

そう断じてしまうのは、いささか早計だ。
今回のヴァンダムは、いわゆる「いつものヴァンダム」とは、一味も二味も違う。
いいか悪いかは別として!

どう違うかって?
揉み上げがやたら立派!
ワイルドだろ~?

言いたいことは分かる。
「お前はバカか?」(出川哲朗風)そういうことだろう?
だが待ってほしい。今回のヴァンダムは、この揉み上げに相応しい破天荒ぶりを、我々に見せてくれる。

まずは冒頭、麻薬取引の潜入捜査で、張り込みをしているヴァンダム。
彼らが追うのは、ヴァンダムの元相棒にして、今や麻薬組織のボスであるキャラハンだ!
あと一歩のところまで追い詰めたはずが、突然無線機の音声が途切れるというトラブルが発生し、ヴァンダミング勇み足で突入。キャラハンは取り逃がし、おまけに二人の捜査員も殺されてしまう。
そのうえ、見張りをしていた新人の若い兄ちゃんに掴みかかり、責任を押し付けるというハラスメントぶりを披露する。
ワイルドだろ~?

当然署内でも浮きまくりなヴァンダムだが、もちろんプライベートでも荒みきっている。
押収した麻薬に手を出すようなヤク中かつアル中で、女ぐせも滅法悪いときた。
行き着けのダイナーで毎晩酒をあおり、声をかけてきた売春婦を、「しょっぴかれたくなければタダでヤらせろ」と脅し、一発キメる。
ドギースタイルで。
事後には、「このケダモノ!」と、売春婦に罵られるヴァンダムなのでした。
ワイルドだろ~?

さらには、そんなある日、嫁から初デートのレストランに呼び出され、「妊娠したが、あんたの子じゃねぇと、嫌がらせとしか思えないカミングアウトを食らう。
これに対し、ヴァンダムは、「相手はキャラハンか!?」とか、火に油を注ぐようなコメントしかできず、「最低だな、この揉み上げ野郎と、嫁からも罵られる。
こうしてますます荒んでヤクに溺れ、意味不明な幻覚を見るヴァンダムなのでした。

そんなわけで、ますます意地になってキャラハンの捜査に精を出すヴァンダムだが、パートナーの新人くんをガン無視して、無茶な捜査を続ける。
そのうちに、行き着けのダイナーの姉ちゃんにハメられ、キャラハンに捕まり、アゴから脳天を銃でぶち抜かれ、瀕死の重傷を負う。
ほんと人望ねぇな!

奇跡的に一命はとりとめたものの、もう完全に回復するのは絶望的とのこと。
しばらくして意識を取り戻したところで、病院側が、「うちにはこれ以上置いとけないので、引き取ってくれや」と、なぜか嫁と新しい彼氏が暮らす自宅に移送。
無茶苦茶だな!

それでも、妊娠して母性が溢れかえってるらしい嫁は、要介護状態のヴァンダムがなんか可哀想になってきて、割りと甲斐甲斐しく世話をする。
まだ意識が朦朧としたままのヴァンダムは、そんな嫁を見て、「地球…天使…」などと呟く。
まだヤクが抜けてないみたいですね。

嫁の献身のかいあってか、徐々に回復していくヴァンダム。
心身のリハビリと並行して、これまで破綻していた色々な人間関係にも、後遺症の残る体を引きずって、贖罪の行脚をして回る。
揉み上げもさっぱりして、反省の色は充分だ!

そうして、ヴァンダムがのんびりと、心身及び人間関係のリハビリに努めている間にも、キャラハンは着々と犯罪を重ね、勢力を拡大させていた。
向かう所敵なしのキャラハンだが、殺したはずのヴァンダムが生きていることを知る。
実はキャラハン、刑事時代に押収したブツの横流しをしていた際、売り物のヤクに手を出して商売を台無しにした、ガチでヤバい男ヴァンダムにビビっていた!

「俺は悪党だが、あいつは善悪の問題ですらない!」と思っていたかどうかはわからないが、少なくとも、「え、あれで生きてたの?マジで?」とは思ったはずだ。
少なくとも俺はそう思った!

そんなわけで、今度こそ確実に息の根を止めるべく、妊婦の嫁を人質にとるキャラハン。
死線をくぐり、揉み上げも落とし、愛を知ったヴァンダムは、嫁を助けるべく、単身敵地に乗り込む。
相変わらずの無計画ぶりなので、案の定敵に囲まれ絶体絶命のヴァンダムだが、キャラハンと通じていた裏切り者の刑事がゴネたり、人間関係のリハビリの甲斐あって、ヴァンダムがクビに追い込んだ元同僚のオッサンが助太刀に来てくれたりで、結局問答無用の銃撃戦に発展。
人質の意味なし!

そしてここからは、いつものヴァンダムだ。
いったい、後遺症はどこへいったのか?と言いたくなる無双ぶりで、手下どもを倒しキャラハンを追い詰める。

大量の敵をなぎ倒し、ついにキャラハンと対峙するヴァンダム。
嫁を盾にしながら発砲するキャラハンだが、バンバン撃たれながら普通に近付いてくるヴァンダム。
やっぱ人質の意味なし!
そりゃキャラハンもビビるさ!

そしてクライマックス。
お互いに人質の存在などド忘れして、無言で銃を突きつけ合うヴァンダムとキャラハン。
スローモーションで銃弾が発射され、弾き出される薬莢に、倒れる二人の姿が映る。
やだ、カッコイイ!

そして数年後!
割りと大きくなった娘と嫁が、ヴァンダムの墓参りにやって来てエンド!
旦那はどこいった!?

どうだろうか、俺が、ヴァンダムが迷走していると言った意味が分かって頂けただろうか?
本作の見所は、プリケツでも、開脚でも、回し蹴りでもない。
前半の、リアルガチでヤバそうなヤク中ぶりと、後半のショボくれぶり、そしてその落差だろう。

例えばこんなシーンがある。
生き返ってリハビリに励むヴァンダムだが、なんか色々と心細くなり、嫁の職場を訪ねるのだが、新しい彼氏と抱き合う二人の姿を窓から見つけ、居場所のなさを悟り、何も言えず、足を引きずりながらトボトボと去っていくヴァンダムの、背中の寂しさよ!
思わず、後ろから抱きしめてあげたくなる!

まあ、前半のクズっぷりを見れば、全ては自業自得で、後半はその贖罪のようなものなのだろう。
だが、そんなヴァンダムの姿を見ていると、『北斗の拳』のあるセリフを思い出す。

「リュウオウの子孫は愛を失い愛に彷徨しよう」

リュウオウとは誰ぞや?という疑問については、単行本を読め!としか言えないが、続けてケンシロウはこう言っている。

「思えばラオウもトキも愛に彷徨していた」

ならば俺は、今日からこう言おう。

「思えばラオウもトキも、そしてヴァンダムも愛に彷徨していた」と!