突然ですが、自分の人生において欠かすことのできないアクションスターは?と問われれば、アーノルド・シュワルツェネッガーとシルベスター・スタローンと答えざるを得ない。
だが少し問いを変えて、最も愛すべきアクションスターは?と言えば、3秒くらい考えて彼の名前が出てくる。

ジャン・クロード・ヴァンダム

『ターミネーター』や『ランボー』といった、文句のないビックネームではしゃいでいた若き日の俺だが、思い返せばその傍らにはいつも、そっとヴァンダムが寄り添っていた気がする。
そして、そんな思い出のヴァンダムは、いつも同じような姿で俺を安心させてくれた。
同じような姿とは具体的に言えば

開脚、回し蹴り、プリケツ

である。

「毎度毎度こいつは何を言っているんだ」
そんなため息が聞こえてきそうだが、そんな人は是非、90年代あたりのヴァンダム作品を2、3本見てみてほしい。
俺の言っている意味がわかるはずだ。

スライがゴールデングラブ賞やアカデミー賞にノミネートされてみたり、シュワちゃんが州知事になってみたりしている間も、ヴァンダムはひたすら、満面の笑みで開脚し、鍛え上げられたプリケツを披露し、回し蹴りで悪者をぶっ倒し続けていた。
そしてもらえた賞はといえば、ラズベリー賞くらいなものだ。

そんな90年代ヴァンダムの、ある意味集大成とも言える(と俺が勝手に思ってる)作品がこれだ。



『レプリカント』

よりによってそれかよ!

そんなツッコミも最もだ。
もっとこう、『ユニバーサル・ソルジャー』とか『ハード・ターゲット』とか『マキシマム・リスク』とか『ダブルチーム』とか、せめて他にあるだろ!?と。
まあ俺も、初めて本作を見たとき、空いた口がふさがらなかったのは認めよう!
それでも、ヴァンダムの代名詞が全て詰まった、愛すべき迷作であると思うのだ。

そんな愛すべきストーリーを追ってみよう。

金髪のシングルマザーばかりを狙って、三年間で11人も惨殺したサイコな殺人鬼、それがヴァンダム。
そして、そんなヴァンダムを追い続けるも、逮捕することができず、「もう引退してボート屋さん開く」と諦め気味のロートル刑事、ジェイク。

二人のメインキャラがざっくり登場したあたりで、俺はこう思った。
なるほど、今回のヴァンダムは悪役で、執念の老刑事が追う、サスペンスアクションなのだな。
『エクスペンダブルズ2』なんかで見せたあの、ギラギラ輝いている悪役ぶりを考えると、これは存外隠れた名作かもわからん、と。

まあ、そんな俺の予想は、もちろんとんだ誤解だった。

ジェイクの前に、国家安全局とやらのオッサンが現れたあたりから、急に雲行きが怪しくなる。
オッサン曰く、
「大金を投じた国家プロジェクトで、ヴァンダムのクローンを作っている。ついでに、遺伝子操作でテレパシー能力も付けておいた。クローンを使ってヴァンダムを捕まえろ」と。

きっとあなたの頭は今、一瞬フリーズしているだろう。
極めて正しい反応だ。
なんていうか、「もっと他にクローン作るべき人がいるだろ…」とか、「なんだよ、テレパシーって…」とか、色々言いたいことはあるが、そんなこと気にしてたら置いていかれるので、考えるな!

そして、呆気にとられるジェイクの前で、クローンヴァンダムが、若干早産気味に誕生。
見事に、産まれたままの姿を見せてくれる。
早々にプリケツ達成だ。

余談だが、開脚、回し蹴り、プリケツの他にも、一人二役ネタも、ヴァンダム作品には頻繁に登場する。
好きなんだね!

さて、そんな、産まれたばかりの小鹿ならぬ、産まれたばかりのヴァンダムは、体はムキムキの大人だが、知能はヨチヨチ赤ちゃんなので、歩くこともままならない有り様。
ヴァンダムが見せるたどたどしい赤ちゃん演技を見ていると、なんだかポカポカする。

というわけで、早速英才教育を施そうとする国家安全局の方々。体の使い方を教えるという名目で、なぜか体操のビデオを産まれたてのヴァンダムに見せる。
すると、なんということでしょう!次の日くらいには、逆立ちからの見事な開脚を決めるヴァンダム。
もう、開脚させたかっただけとしか思えない展開だが、かなり序盤で開脚も達成だ!

こうして、覚束ないクローンのヴァンダム、すなわち、ジャン・クローンド・ヴァンダムを伴っての捜査が、いよいよ始まる。
…のだが、なんせ憎き凶悪犯と同じ顔である。
国家プロジェクトさんに対して、ちょっとどうかと思うほど辛くあたるジェイク。そして、そんなジェイクになぜかなつくジャン・クローンド・ヴァンダム。
なるほど、DV 男にはまる女はこんな感じなのか。

しばらくは、ジェイクとクローンド・ヴァンダムによる、ほのぼの捜査が続く。
なんやかんやあって、どうやらクローンド・ヴァンダムの体に発信器が埋め込まれており、国家安全局に監視されてるっぽいということに勘づいたジェイク。
自宅の風呂場でヴァンダムを拘束して、パン一にひんむいて体中をサスサスしまくるジェイク。

産まれ落ちた瞬間のスッポンポンのプリケツに続き、パンツ越しのプリケツまで披露してくれるとはね!

しかもそれだけやって、結局発信器はウヤムヤとはね!

こんな感じでたいして協力する気のないジェイクなので、ヴァンダムが拙いテレパシーでフラフラしてるうちに、きっちりはぐれてしまい、夜の町で立ちんぼに捕まるヴァンダム。
知能は赤ちゃんなので、言われるがままにホテルに連れ込まれるヴァンダム。
しかしそこは、肉体はムキムキのヴァンダムである。「金は先払い」という娼婦を無視して、本能のままにベッドに押し倒す。
そして、もみ合っているうちにまさかの精通。

「ふぇ…なにこれ?」
と、おっかなびっくりなヴァンダムと
「初めて?え、マジで?」
と、さすがにドン引きな娼婦。

そこに、売春を取り仕切るヤクザもんなんかも入ってきて大騒ぎ。
危うく国家プロジェクトさんが、最低な死に様を晒すところだ。

まあ、こんなことばかりしてるもんだから、案の定オリジナルヴァンダムを逮捕できるわけもなく、三年間で11人も殺して捕まらなかったとは思えない雑な手口で、新たな犯行を重ねる。
それでも奇跡的に、少しずつオリジナルに迫っていく二人。
どうやらオリジナルヴァンダムは、幼い頃母親から虐待を受けており、その母親が金髪だったため、金髪のシングルマザーばかりを狙うようになったとか。

ごめん、普通。

まあ世の中には、「こんなに辛いのなら愛などいらぬ!」という理由で、ピラミッドまで建ててしまう男もいるので、仕方ないとしよう!

そしてついに、オリジナルヴァンダムは、ボケて入院生活中の虐待ママンを殺害、クローンド・ヴァンダムとの直接対決が始まる!

ヴァンダムのパンチを、パンチで受けるヴァンダム!

ヴァンダムの回し蹴りを、回し蹴りで受けるヴァンダム!

やだ、面白い!!

クローン曰く、テレパシーでわかるらしい。
ともあれこれで、三大ヴァンダム要素コンプリートだ!

どうだろうか、俺が本作を、ヴァンダムの集大成と言った意味がわかって頂けただろうか?
この作品を愛せるかどうかが、ヴァンダムを愛せるかどうかのボーダーラインになろうかと思う。
事実、コレが受け入れられたら、あとは大概受け入れられるだろう!

ちなみに物語の結末がどうなったかと言えば、こうだ。

死闘の末、なんとか無事オリジナルヴァンダムを倒すも、「家族を殺してしまった」と悲嘆に暮れるクローンド・ヴァンダム。
これに対し、なんか急にほだされて、「俺が家族になってやる!」とかいい始めるジェイクだが、その後のどさくさでクローンド・ヴァンダムは、生死不明のまま行方不明になってしまうのだった。

そして後日、ジェイクの家の前でチラッと姿を見せたヴァンダムは、例の娼婦とフェードアウトしていくのだった。


なんでだ!?