子どものための教育学
実践編(☆:著者 T:教師 C:子ども P:親)
13 机の下は、お腹の中 ケース4
ケース4:お母さんへの不安
C4「先生、Eさん、毎日お母さんが教室まで送ってくれていいなあ。」
C5「先生、どうしてFくんのお母さん、毎日授業に出ているの?」
1年生の時Eさんは、登校後すぐには教室には行くことができず、保健室で30分ほど過ごしてから教室へ行っていました。
2年生になったとき、お母さんは、そのことを担任の先生に相談しました。
すると、担任の先生は、
T「それではお母さん、教室まで一緒に来ていただけませんか。」
P「えっ、いいんですか?」
T「お母さんさえそれができれば大丈夫ですよ。」
すると、Eさんは教室の前まで来ることができました。
しばらくは、教室の前でお母さんと離れるのを嫌がって、5分10分と時間を使いましたが、半月、1ヶ月と経つうちに、すぐに離れられるようになりました。
夏休みまでは、そんな生活が続いていました。
先生は、お母さんに
T「大丈夫ですよ、そのうちあれは何だったんでしょうねと言えるようになりますから」
と話していました。
そして、夏休みが明け、気がつけば、昇降口でお母さんと離れられるようになりました。
Eさんは、毎日車での登校でした。そしてお母さんが、一緒に教室まで来て、やがて昇降口までになりました。
冬休みの前には、車から降りたら自分で教室まで来られるようになりました。
家から歩いての登校はまだ無理ですが、1年生の時に1年間保健室で過ごしてから教室に向かっていたことを考えると、非常に大きな変化だと言えます。
さて、次はFくんです。
C5「先生、どうしてFくんのお母さん、毎日授業に出ているの?」
Fくんは、1年生の時から登校を渋ることがありました。
それでも、お母さんが、学校まで連れてきて、そこからは、6年生のお兄ちゃんと5年生のお姉ちゃんが、教室へ連れて行くということが、繰り返されていました。
Fくんは、泣く泣く教室で過ごしていました。
2年生になると、お兄ちゃんは卒業して中学校へ、お姉ちゃんは6年生になりました。
お母さんが、教室まで連れてきたのですが、お母さんが帰ろうとすると、泣きじゃくってお母さんから離れません。
T「お母さん今日のところは、学校に来れたということで、帰られたらどうですか。」
P「でも、休み癖がついたら心配です。」
T「そうですね。先が見えませんからね。不安になると思います。今後のことについ
て、明日にでもお話ししませんか。」
P「そうしていただけるとありがたいです。」
翌日相談することになりました。
T「1年生の時はどうでしたか。」
P「同じようなことはありました。」
T「その時は、どうされましたか。」
P「私が一緒に歩いて登校していました。」
T「それでは、お母さんも大変でしたね。帰りも歩かなければいけませんね。」
P「うちは自営なので、お爺ちゃんやお婆ちゃんに、迎えに来てもらっていましたから
大丈夫でした。」
T「自営ですか。お母さんとなら学校に来ることができるということは、お母さんとな
ら教室にいることができるということだと思うんですが、もしできるなら、お母さ
んも一緒に教室にいることはどうでしょうか。」
P「そんなことしてもいいんですか?」
T「大丈夫ですよ。」
初めのうちは、お母さんは、Fくんの隣に椅子に座って教室にいました。
1ヶ月ほど過ぎると、教室の後ろにいれば大丈夫になってきました。お母さんは、できる範囲で事務仕事をしていました。
さらに1ヶ月ほど過ぎると、今日はもう帰ってもいいよと、いうようになりました。
そして夏休みを経て、9月になると、普通に登校できるようになりました。
P「先生、あれはいったい何だったんでしょう。」
久しぶりに会ったお母さんの一言でした。
☆EさんとFくんは、お母さんへの不安が原因だと考えられました。
Eさんの場合、担任の先生は、お母さんの話を聞く中で、気づいたことがありました。
それは、二つ下に男の子、さらに二つ下に女の子の弟妹がいたのです。
つまり2歳までは、お母さんの愛情100%だったのですが、弟ができたときから、それがなくなります。お姉ちゃんになったEさんは、お母さんを助けようと一生懸命になりました。
そして弟が、2歳になったころ、また妹が生まれてしまいます。
子どもは生まれてから少しずつお母さんとの安心感の距離が広がっていきます。
赤ちゃんの時は、お母さんが視界からいなくなるだけで、不安になり泣いていました。それが、同じ部屋なら大丈夫になり、同じ家なら大丈夫になり、お母さんは家にいるから大丈夫となるので、こども園や幼稚園に通えるようになります。
ところがEさんは、お母さんとの安心感の距離が十分できないまま頑張ってしまったので、お母さんの存在に対して不安が残ってしまっていたのです。
そこで、お母さんが、教室まで来てくれることの繰り返しで、少しずつ安心感が育ち、大丈夫になっていきました。
Fくんの場合、担任の先生は、お母さんからお兄さんについて話を聞いたことがありました。
T「そういえばお兄ちゃんは中学校でどうですか?」
P「サッカー部に入ったんですが、いろいろ他県まで遠征に行ったりして大変なんですよ。」
T「もしかしたら、お母さんが、送っていくんですか?」
P「そうなんです。やっぱり応援しなくてはね。」
T「弟や妹はどうしているんですか?」
P「お爺ちゃんやお婆ちゃんに見てもらっています。」
担任の先生は、気づきました。
もともと、お母さんとの安心感の距離ができてない上に、お母さんが、お兄ちゃんにかかりきりになってしまったことから、さらに不安を増してしまったのではないかと考えたのです。
土日は、遠征で出かけることが多いと知って、自営でもあることから、できる限り近くにいてあげることで、安心感の距離を作り、普通に登校できるのではないかと考え「教室で一緒にいるのはどうですか」との提案に至りました。
不登校の場合、何が原因かではなく、何をすることが最適であるかを見つけていくことが大切です。
そのためには、いろいろな情報を集めることも必要ですね。