子どものための教育学  

 

第2章 いじめ編

 

2 いじめとは、なに? ①

 

 小学3年生の話です。

 

T「私はこのクラスを担任するに当たって、絶対に許さないことがあります。それは人をいじめることです。いじめはいじめる側が100%悪い。だからいじめは絶対に許しません。賛成の人。」

 

 すると、全員がすぐに手を挙げたそうです。

 

 新しいクラスでの担任の子どもたちへのあいさつの一コマです。

 おかしなことはありません。その通りだと思いますね。多くの人は。

 

 そこで担任が子どもたちに聞きました。

 

T「bullying(ブリング)は、いけないと思う人?」

と聞くと、誰も手を挙げません。

 

T「えっ、どうして誰も手を挙げないのですか?」

C「ブリングって何のことなのかわからないのでいいか悪いかわかりません」

T「なるほど、わからないことは答えようがないということですね。英語で『いじめ』というのは、『bullying』です。たしかに意味がわからなければ判断できませんね。」

 

T「それでは、いじめってなんですか?」

 

 さっき、いじめはいけないと、一斉に全員が手を挙げたにもかかわらず、今度は、数名しか手が挙がりませんでした。

 

T「あれっ、さっきいじめはいけないってみんな手を挙げたよね。それは『いじめ』が何かわかっているから手を挙げたんでしょう。なのに、『いじめって何』って聞かれたら、手を挙げた子は数名ですね。つまり、『いじめはなに』って聞かれて、手を挙げていない子は『いじめ』が何か本当はよくわからないのにさっきは手を挙げていたことになりますね。」

 

 嘘のような本当の話です。

 

 実は教育現場では『いじめ』という言葉が一人歩きしていて、教師自身もわかっていない現実があるのです。

 

『いじめとは何か』

 

 これだけ長年にわたって問題となっていることが、教員同士、教師と子ども、また教育委員会のとっても偉い先生方に、共有されていないのです。

 

 疑問に思われる方は、教育現場において、先生方に「『いじめ』って何ですか。」と問いかけてみればわかります。

 

 人によって言うことは様々です。

 子どもに聞くと、具体的ないじめに当たる行為が、出てきます。「殴る」「蹴る」「悪口を言う」「無視する」「物を隠す」などなど。

 

 それらは、たしかに『いじめ』ではありますが、『いじめ』の一部であり、『いじめ』の定義を語ってはいません。

 

 「いじめ防止対策推進法」が施行されたのは2013年ですから、もう10年以上も経っているのです。

 

 ところが、教育現場の教師ですら『いじめ』の定義が認識されていないと言うことが、現実なのです。

 

 とても、教育現場で本気で『いじめ』を無くそうと考えているとは思えません。

 

 しかも、この法律

『(学校いじめ防止基本方針)
第十三条 学校は、いじめ防止基本方針又は地方いじめ防止基本方針を参酌し、その学校の実情に応じ、当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針を定めるものとする。』

に基づいて、各学校では、「学校いじめ防止基本方針」なるものを作成しているはずです。

 

 ところが、『いじめ』の定義すら認識していない教師が、教育委員会が、どうして「学校いじめ防止基本方針」なるものを作ることができるのでしょうか。

 

 これでは、

『いじめ』が何なのかよくわからずに

T「いじめはいけません。」

と言い、『いじめ』の意味もわからずに子どもたちは

C「はい!」

と答え、

T「それでは、いじめって何ですか」

と、問いかけると

C「・・・・・・」

と同じではないでしょうか。

 

(次回:2 いじめとは、なに? ②)